FCバルセロナの視線は、すでに来シーズンに向きつつある。 今シーズン、リーガ・エスパニョーラ(ラ・リーガ)では、第31…
FCバルセロナの視線は、すでに来シーズンに向きつつある。
今シーズン、リーガ・エスパニョーラ(ラ・リーガ)では、第31節終了時点で首位を独走している。勝ち点は76で、2位レアル・マドリードに11ポイントの差をつけている。残りは7試合。第30節ではアトレティコ・マドリードも討ち果たしており、すでに上位チームとの対決は終えていることもあって、「優勝は確定」の声も出ている。
そんななかで、リオネル・メッシの復帰が取り沙汰されている。年棒は35~40億円と、かつて在籍していた時代の4分の1程度で合意しているとも言われる。懸念されるのはバルサの経営状況で、このままではファイナンシャルフェアプレーに抵触して契約ができないため、複数の選手の売却や給料ダウンを検討しなければならないのだ。
シャビ・エルナンデス監督率いるバルサは、果たして順風満帆と言えるのか?

ラージョ・バジェカーノに得点され、浮かない表情のロベルト・レヴァンドフスキ(バルセロナ)
シャビ・バルサの特徴は、強固な守備にあるだろう。第31節終了段階でわずか11失点は歴史的な数字だ。
まずバックラインが堅牢さを増した。一時、不振が糾弾されたGKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンも、守りが整備されたら圧倒的なセービング率を誇り、攻撃の一歩にもなっている。また、ロナルド・アラウホは今やリーガナンバー1と言えるDFで、ようやく「カルレス・プジョルの後継者」の称号を得た。新たに獲得したジュール・クンデ、アンドレアス・クリステンセンを組み入れることで、盤石になった格好だ。
また、中盤のガビ、フレンキー・デ・ヨング、セルヒオ・ブスケツ、フランク・ケシエは守備のフィルターとなっている。前線のウスマン・デンベレ、ラフィーニャも含めて、全員に守備の意識が浸透。守備の崩壊が深刻な課題だったが、その再建には成功したと言える。
一方で、攻撃はカウンター主体になった。ロベルト・レヴァンドフスキのようなストライカーがいるために、攻め込まれた時にこそ、強さを発揮する。長いボールを使うのがうまくなり、アトレティコ・マドリード戦でも、アラウホのロングパスをラフィーニャが右サイドで運び、バックラインを押し下げてから横に流し、入ってきたフェラン・トーレスがボールを受け、右足のコントロールショットを決めた。
【勝ち点はとれるようになったが...】
その強さを解剖した時、「個に頼った堅守カウンター型」が実状で、それはバルサの進むべき道なのか。評価は分かれるところだ。
チャンピオンズリーグでは、グループリーグで敗退。回ったヨーロッパリーグでは、マンチェスター・ユナイテッドに対し、何もできなかった(そのマンUはすでにセビージャに呆気なく敗退している)。そしてスペイン国王杯では、レアル・マドリードを相手に一敗地にまみれている。直近のラ・リーガでも、ラージョ・バジェカーノ相手にいいところがなく、2-1と黒星を喫した。
バルサは本当に強いのか? その疑問は拭いきれない。
大金を叩いてキャリアのある選手を買い取って、効率的な攻守を展開できるようにはなった。しかし、かつてのようなリズミカルなボール回しは影をひそめた。バルサのアイデンティティは、最少失点で勝つことだったのか。「ボールは汗をかかない。とにかく走らせろ」「無様に勝つな、美しく散れ」「4点とられたら5点とって勝つ」。それが"バルサ中興の祖"であるヨハン・クライフの教えだ。
下部組織であるラ・マシア出身の選手の出場機会が限定されているのも懸念材料だろう。今や天才アンス・ファティまで売却が噂されるほど、不遇を囲っている。ラ・マシア出身であるシャビ監督がトップデビューさせ、トップに定着させた選手は未だひとりもいない。クライフ、フランク・ライカールト、ジョゼップ・グアルディオラといったかつての指揮官がラ・マシアを重んじ、選手を引き上げ、「バルサ」を継承した事実を考えれば、物足りない。
たとえばグアルディオラは、セルヒオ・ブスケツをトップデビューさせ、世界最高のMFのひとりにした。さらに、ペドロ、チアゴ・アルカンタラもバルサとスペイン代表を支える選手にしたし、ボージャン・クルキッチもデビュー1年目は華々しい活躍を見せた。
他にも、ビクトール・サンチェス、ジェラール・デウロフェウ、イサク・クエンカ、マルク・バルトラ、ジョバニ・ドス・サントス、ジョナタン・ドス・サントスなど、指揮官が引き上げた選手は枚挙にいとまがない。成功とまでは言えないまでも、彼らを起用することでラ・マシアの少年たちに夢を与え、競争を活性化させていた。
確かに今季のバルサは勝ち点を取れるようになった。しかし、それは強さを取り戻しただけで、「バルサ復権」には至っていない。
果たしてもうすぐ36歳になるメッシを取り戻し、復権が臨めるのか。その代わりにラ・マシアの有望な選手を手放すことにでもなったら、バルサは数年後に空洞化しかねない。メッシの栄光とともに、バルサの屋台骨が崩れていく......。
近年、ラ・マシアの選手たちは不遇に遭い、失望感を漂わせ、多くが去っていった。シャビ・シモンズは16歳でバルサをあとにすると、20歳になった今シーズンはPSVで15得点を挙げ、オランダリーグを代表するアタッカーとなった。つい先日、ラミン・ヤマルが15歳でトップの試合に招集されたのも、早期にプロ契約を結ぶための動きと言われる。
シャビはバルサのアイデンティティを取り戻せるのか。リーガで優勝したあとも、仕事は山積みだ。