ポニーリーグがIBAから事業継承した小学生野球部門などを整備 プロ野球選手の代理人としての顔も持つ、杉並中野ポニー(杉並中野GALAXY)の代表が小学生の学童野球に一石を投じようとしている。今年度から日本ポニーベースボール協会(ポニーリーグ…

ポニーリーグがIBAから事業継承した小学生野球部門などを整備

 プロ野球選手の代理人としての顔も持つ、杉並中野ポニー(杉並中野GALAXY)の代表が小学生の学童野球に一石を投じようとしている。今年度から日本ポニーベースボール協会(ポニーリーグ)で新たな理事に加わった栄枝慶樹さんだ。栄枝さんは幼児から中学生が所属する野球チームを運営しながら、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)優勝戦士でもある今永昇太投手(DeNA)、源田壮亮内野手(西武)らプロ野球選手の代理人としても活動。厳しいプロの世界で活躍する“本物”を知る人物が準備する仕掛けとは――。

 2019年、息子が所属する小学生軟式野球チームで監督に就任した栄枝さんは、選手ファーストを第一に掲げる環境の下、子どもたちに考えさせる野球を採り入れた。中野区内でも大敗を繰り返していたチームは徐々に成長し、2022年には中野区で4度優勝、東京都でも3位に入るまでになった。

 子どもたちがよりよい環境で野球を楽しめる道を探るうちに出会ったポニーリーグの理念に賛同。理事を務める古島弘三医師との縁もあり、昨年2月に杉並中野ポニーとして加盟した。さらには、学習院大硬式野球部主将、学習院高等科の野球部監督という経験やこれまでの取り組みが評価され、ポニーリーグ小学生部門の担当理事に就任。小学生の硬式野球と合わせて、少年軟式野球国際交流会(IBA-boys)から事業継承した軟式野球の担当となった。

 栄枝さんがまず着手するのは、独自ルールの作成だ。ポニーリーグでは選手が多くの試合経験を積めるよう、先発出場選手は代打や代走などで一度ベンチへ退いても再出場できるリエントリー制度(投手の再登板を除く)を導入するなど、中学生野球に新風を吹かせている。これにならい、小学生にも子どもたちがより野球を楽しめるルールを設ける予定だ。

勝ちたいチームはバント攻勢…「伸び伸びと楽しんでほしい形ではない」

 栄枝さんは現状の学童野球について、こう説明する。

「小学生の試合でどうやって点が入るかというと、エラー、四球、盗塁、振り逃げ、パスボールが主な要因です。一方で、アウトとなる主な要因は三振。なので、打席で三振して1アウトとなるはずが振り逃げで出塁し、二盗、三盗と重ねた末に、捕手のパスボールでホームイン、というケースは珍しくありません。1安打も出ないまま得点が入る野球になってしまうんです。こうなると、勝ちたいチームは子どもたちに打席でバントの構えをさせて四球を狙ったり、2ストライクからバントを仕掛けてエラーを誘発したり。これは本来、子どもたちに伸び伸びと楽しんでほしい野球の形ではないように感じていました」

 そこで新ルールでは、バントや盗塁は回数制限を設け、振り逃げはなし。投手も打者も思いきり勝負ができるように「ストライクゾーンも広げます」と話す。細かなスキルや作戦は中学生以上になって覚えればいい。小学生の頃にバットを全力で振る楽しさ、投手と打者の真っ向勝負の楽しさを存分に味わわない方が、子どもたちが秘める可能性は萎縮したままになる恐れがある。可能性を狭めずに成長することがプロへの近道であることは、代理人として活動する中で感じることでもある。

 そして、大人が想像する以上に子どもたちが感じているプレッシャーも軽減する方向だ。

「ボークをなくします。ボークはそもそも、投手が打者と走者を欺くことを防ぐルールですが、小学生が狙ってプレートを外すと思いますか。ただ目の前の勝負で頭がいっぱいなのに、四方から大声で大人に『ザッツボーク!』と叫ばれたら、それは怖いでしょう。

 子どものプレッシャーを減らすために、審判も投手の後ろに1人だけ置く1審制にします。投手の後ろからでもストライクゾーンは分かるし、1審制は同時に保護者のためのルールでもあるんです。学童野球は講習を受けた保護者が審判をしますが、これを負担に感じて野球を敬遠する保護者が多いことも事実ですから」

 こうした独自ルールは今年中には導入される予定になっている。

「野球は人間を成長させる最高のツール」

 栄枝さんが目指すのは「僕が愛する野球の競技人口を増やすこと」。そのためには、学童野球のルールをより簡素化し、誰もが楽しめるスポーツとして間口を広げる努力も必要だ。感受性の豊かな小学生の年代で野球と触れ合うことで、多くの学びが得られるとも感じている。

「野球は人間を成長させる最高のツールだと思っています。スポーツ全体を見回した時、ボールを使った団体競技でパスをしないのは野球くらい。選手一人ひとりが自己責任の下でプレーしながら、チームとしての連携を図り、成果を上げる。まさに社会の縮図だと思うんですよね。社会に出た時、自分が負うべき責任は誰にもパスすることはできませんから。スポーツはどれも、子どもたちにとって最高の教材だと思います。僕は、自分が育ったスポーツは野球なので、野球最強説を唱えながら活動していきたいと思います」

 栄枝さんは、4月20日からフィリピンで開催された「2023ポニー アジアパシフィックゾーンチャンピオンシップトーナメント10U(10歳以下)マスタングの部」で監督として日本代表チームを優勝へ導き、ワールドシリーズ出場(7月28日・米ルイジアナ州開催)を決めた。全6戦でサインなし、バントなしの野球を実践。肩肘に負担の掛からない投球数で計10投手がマウンドを繋いだ。

 いよいよ始まった学童野球界での新たな挑戦は、日本、そして世界で変化の風を巻き起こしそうだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)