日本陸上選手権大会が終了した翌日の6月26日。日本陸上競技連盟は、すでに発表されている8月の世界陸上(ロンドン)男女マラソンと競歩の代表に加え、トラック&フィールドの代表19名を発表した。200mで表彰台に上がったサニブラウン・ハキー…

 日本陸上選手権大会が終了した翌日の6月26日。日本陸上競技連盟は、すでに発表されている8月の世界陸上(ロンドン)男女マラソンと競歩の代表に加え、トラック&フィールドの代表19名を発表した。



200mで表彰台に上がったサニブラウン・ハキーム(中央)と飯塚翔太(右)は個人、藤光謙司(左)はリレー要員として選出された

 その中でもメダル獲得有望種目である男子4×100mリレーは、100mと200mで代表権を獲得したサニブラウン・ハキーム(東京陸協)、彗星のごとく現れた多田修平(関西学院大)、リオ五輪のリレーメンバーだった、ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)、飯塚翔太(ミズノ)に加え、100m4位の桐生祥秀(東洋大)と200m2位の藤光謙司(ゼンリン)がリレー要員として選出された。

 伊東浩司強化委員長は「桐生は、日本選手権の結果は個人種目の代表には該当しないですが、選考大会のひとつである織田記念で優勝しているだけでなく、今季は安定して参加標準を突破していることを考慮した。また、藤光はまだ参加標準記録は突破していないものの、7月9日に行なわれる南部忠平記念陸上で標準を突破すれば(200mで)個人の代表になる可能性を残している。これまでもリレーでは、様々な走順を経験している上、14年アジア大会では4×400mリレーに出場している実績もあり、場合によってはマイルリレーも走れる選手ということで選んだ」と、この選考について説明した。

 また、「100m6位の山縣亮太(セイコー)も実績は素晴らしく、今季も10秒0台で走っていますが、日本選手権以外の選考大会には出場していないので対象選手になっていない。もうひとつ上の順位なら可能性もあったかもしれない」と山縣が選考から外れた理由も語った。

 個人種目の100mと200mの出場6枠が全て違う選手で埋まると、桐生のリレー要員としての出場はなかったが、サニブラウンが両方に選ばれたことで、桐生に世界陸上で走る可能性が生まれた。

 彼の場合、昨年のリオ五輪で3走を務めて世界トップクラスの走りをしている。その点では3走のスペシャリストとして日本のメダル獲得には、なくてはならない存在である。オーダーを考えれば桐生の3走は確実で、山縣がいなくなった1走は多田が第一候補になり、飯塚とケンブリッジはともに2走も4走もできる状況。一方、注目のサニブラウンは能力的にはピカイチではあるが、まだナショナルチームでのリレーの経験がないため、7月下旬の合宿で適性を見ることになる。

 サニブラウン自身も「やれるなら1走か4走でしょうね」と言うように、使えるポジションは限定される。さらに100mと200mの2種目出場して、ともに決勝まで進むとリレーの前に6レースをこなすことになるため、その時の体の状態を見ながら起用するかどうかを決めなくてはならないという不確かな部分もある。

 また、ケンブリッジが日本選手権の準決勝で右太股に痛みが出て、決勝は万全ではなかったように、ロンドンでも故障者が出る可能性もある。09年世界選手権から日本代表に入り、リオ五輪でも補欠に入り、どの走順でも走れる藤光を今回も控えのメンバーに入れたのは、そんなアクシデントにも対応するためだ。その点では昨年のリオと同じように層の厚い体制で臨めることになり、メダル獲得の可能性も高いと言える。

 ほかの種目でのメダル候補となると、50km競歩の荒井広宙(ひろおき/自衛隊)が有力なくらいだ。入賞が期待される種目としては、男女マラソンと男子20km競歩、女子1万mの鈴木亜由子(日本郵政グループ)だろう。

 フィールドだと、男子棒高跳びの山本聖途(トヨタ自動車)が今季は拠点を愛知から東京に変えて心機一転、4月にはアメリカで5m71を跳んでいる。また、リオ出場の萩田大樹(ミズノ)も日本選手権では5位だったが、4月の織田記念では参加標準の5m70を跳び、試合運び次第では入賞圏内に入れる力を持っている。ベテランでは、リオ五輪で7位になった沢野大地(富士通)が、7月9日の南部記念で標準記録を突破できれば代表入りを果たす。

 これ以外の種目になると入賞の可能性は低くなり、「2020年東京五輪につながる結果を出せるか」というのが大きなポイントになってくる。

 そこで注目したい競技は、男子110mハードルだ。日本選手権前に参加標準記録(13秒48)を突破していたのは大室秀樹(大塚製薬)ひとりだけだったが、今回の日本選手権では好記録が続出した。

 予選では無風の条件で増野元太(ヤマダ電機)が日本記録にあと0秒01まで迫る13秒40をマーク。準決勝では高山峻野(ゼンリン)が13秒44を出してハイレベルな戦いになった。そして決勝では高山が13秒45で優勝。高山と3位になった増野、そして大室が代表になり、リオ代表の矢沢航(デサントTC)が2位ながら、標準突破を果たせず落選する大接戦。本番では準決勝進出が目標になる。

 また、近年低迷していた男子400mハードルでも、10年世界ジュニア2位の実績を持つ安部孝駿(デサントTC)が、条件のよかった予選で自身初の48秒台を出し、決勝でも参加標準(49秒35)を突破する49秒32で圧勝と、ようやく世界と戦える力を示した。

 若手では、15年にサニブラウンとともにダイヤモンドアスリート(U19世代で東京五輪でメダルが期待できる有望株)に選ばれていた北川貴理(たかまさ/順大3年)が、好条件だった400m予選で45秒48と参加標準記録(45秒50)を突破し、決勝でも勝ち切り代表入りを果たした。

 さらに男子三段跳びでも、リオ五輪出場者で、決して調子が悪いわけではない長谷川大悟(横浜市陸協)と山下航平(福島陸協)を押しのけて、山本凌雅(りょうま/順大4年)が代表入りを決めた。

 世界選手権本番での入賞を期待されていた男女やり投げの新井涼平(スズキ浜松AC)と海老原有希(スズキ浜松AC)は優勝したものの、標準記録を突破できず南部記念での記録突破にかける。

 今年の日本陸上選手権では、サニブラウンの大きな成長だけではなく、多くの若手選手が次につながる結果を出し始めた。女子は福島千里(札幌陸協)の不調などで、長距離以外は現時点で代表なしという寂しい状況になったが、世界選手権に向けて、残り約1カ月に注目していきたい。