今年の全国大学野球選手権も、日本の津々浦々から興味深い選手が集結し、熱戦を繰り広げた。 注目の150キロ右腕、岡山商科…

 今年の全国大学野球選手権も、日本の津々浦々から興味深い選手が集結し、熱戦を繰り広げた。

 注目の150キロ右腕、岡山商科大の近藤弘樹(4年/186センチ、90キロ)は立派な体躯とその力感に任せた”パワーピッチャー”だと勝手に想像していたが、実は多彩な変化球を低めに集めるテクニックの持ち主だったり、大会前はノーマークだった四国学院大の右腕、小久保気(こくぼ・きよし/4年/179センチ、78キロ)がタメのあるテイクバックで打者のタイミングを微妙に外し、強豪・東北福祉大を完封してみたり……。全国の舞台でグッと頭角を現してきた投手が、秋のドラフト戦線に向けて名乗りを上げた。



大学選手権初戦の石巻専大戦で1安打完封勝利を飾った岐阜経済大の與座海人

 これだから大学選手権は面白い。あるスカウトは「最も興味のある大会」と言う。

 そのなかで、一躍興味をそそられたのが岐阜経済大の與座海人(よざ・かいと/4年/170センチ、65キロ)だ。一見、セカンドあたりを守っていそうな内野手に見えるが、マウンドに上がりアンダーハンドからのピッチングが始まれば、躍動感溢れるフォームと堂々のマウンドさばきで、実際の体よりも遥かに大きく見えるから不思議である。

 腕だけ下げて投げる”なんちゃってアンダーハンド”ではなく、ヒジの高さが両肩のラインより下がらない、本物のアンダーハンドだ。

 それほど低く潜れないのは下半身の硬さが原因だろうが、硬い選手には”強さ”がある。全力で腕を叩けるリリースポイントでの瞬発力が素晴らしい。その”叩き”があるからストレートに勢いがあり、それがアンダーハンド特有の”ホップ”する球筋となって、打者の目を幻惑する。

 このように、ホップして見える以外にもアンダーハンドには”得”がいくつもある。変化球の変化量が打者にはすごく大きく感じることもそのひとつだ。

 随分と昔の話になるが、私が捕手として現役でプレーしている頃、何人かのアンダーハンドの投手のボールを受けた経験がある。

 ひとりは高校時代にバッテリーを組んでいたエースだ。彼は地面スレスレまで上体を潜らせて、地面を這うようにして投げ込む、正真正銘のアンダーハンド。当時、決してスピードがあったわけでもないが、都内でも有数の快腕と評されていた。

 もうひとりは大学の2学年上の投手で、エース格として投げていた。私はブルペンで専属捕手のように彼のボールを受けていた、正直「こんなボールで……」と思うことが何度もあった。ストレートに力があったわけでもなく、変化球の曲がりもそれほど大きいわけではない。しかし、そのボールに東京六大学リーグの強打者たちが苦しんだ。

 ふたりのアンダーハンドが、スラッガーたちを敵に回し、130キロ前後のストレートと決め球にもならない変化球だけで牛耳っていたのは、彼らが”タイミング外し”の名人だったからだ。しかも彼らは、わからないようにこっそりとやっていた。

 ボールの握りをわずかに浅くしたり、深くしたり……。テイクバックをわずかに大きくしたり、小さくしたり……。踏み込んでいくスピードをわずかに素早くしたり、ゆっくりにしたり……。

 アンダーハンドのエースたちは、その”隠し技”を忍ばせてマウンドに上がっていた。そして大学選手権のマウンドで與座も、わからないように打者のタイミングを外していたのだ。

 ストレートの帯は120キロから130キロ前後。その範囲のなかで與座はこっそりとストレートに強弱をつけ、リリースの瞬間で絶妙にタイミングを変えてみせた。

「マキタだ!」

 そのピッチングを見て重なったのが、今年開催されたWBCでも活躍した西武の牧田和久だった。

「よく緩急って言うじゃないですか。でも、僕らアンダーハンドって、ストレートと変化球で緩急をつけるだけじゃダメなんですよ」

 牧田が社会人の日本通運時代、ある雑誌の取材でこんな話をしてくれたことがあった。

「アンダーハンドって、140キロ台を投げられるわけじゃない。僕だって120キロ台ですし、基本のスピードがないわけですから慣れられたら弱いんです。だから、わからないようにタイミングを外さないと通用しない。僕はストレートにバリエーションをつけて、打者を打ち取ります。アンダーハンドにとって、本当の意味の”緩急”ってそういう次元のことだと思っています」

 大学選手権での與座のピッチングは、そのまま”牧田の投球”だった。

 打者に考える間を与えない軽快なテンポで、はっきりとした変化がわかったのは横に曲がるスライダーだけ。あとは、打者にわからないようにストレートを操作し、沈む系のボールもわずかに動かしていたのだろう。

 右打者を相手にしたときはプレートの一塁側を踏み、左打者を相手にしたときはプレートの三塁側。これによってヨコの角度もつけるなど、可能な限りの工夫を駆使して打者に立ち向かった。

 與座は初戦の石巻専大戦で1安打、10奪三振の完封勝利。圧巻の全国デビューを飾った。

 一時は“絶滅危惧種”などと囁かれていた「アンダーハンド」を、見事に復活させてくれたのが牧田だとしたら、その後継者として一層の成長を期待できる新鋭のアンダーハンドが與座だ。

 はたして、この小兵のアンダーハンドを指名する球団はどこなのか? プロのスラッガーたちとの対戦に、夢は広がるばかりだ。