「ブルーム・オン・アイス」に出演した村元哉中と高橋大輔●島田麻央にかなだい、りくりゅうが助言 4月22日、京都・宇治。木下アカデミー京都アイスアリーナで行なわれた「ブルーム・オン・アイス」公演後の記者会見だった。 14歳の気鋭のスケーターで…



「ブルーム・オン・アイス」に出演した村元哉中と高橋大輔

●島田麻央にかなだい、りくりゅうが助言

 4月22日、京都・宇治。木下アカデミー京都アイスアリーナで行なわれた「ブルーム・オン・アイス」公演後の記者会見だった。

 14歳の気鋭のスケーターである島田麻央を真ん中に、右に「りくりゅう」こと三浦璃来と木原龍一、左に「かなだい」と呼ばれる村元哉中と高橋大輔が並んでいた。

「試合で緊張しないようにするには?」

 島田は記者から「この機会に先輩に聞いてみたいことは?」と聞かれて、そう質問を投げていた。

「私は練習で試合のシミュレーションをしても緊張するので......」

 三浦はやんわりと回答を避け、木原に促した。

「僕らが取り入れたのは、試合を考えすぎないってことで。試合前はあえてカードゲームをしたりして、そっちに集中をそらしたり」

 木原の言葉を継ぐように、村元がこう続けた。

「メンタルトレーナーの方から聞いた話ですが、試合前にガムや飴を口に入れ、咀嚼をすると、緊張がほぐれるそうで、私もやっています」

 そして大トリを飾るように、最年長者である高橋がアドバイスをすると、一同が笑いに包まれた。

「緊張している自分を見て、『緊張しているじゃん、めっちゃおもろいやん!』って楽しむことにしました。

 昔はガラスのハートって言われたんですが、もう通り越して楽しいじゃんって(笑)。やってみて! ダメだったら、すぐやめて!(笑)」

 それに対し、素直な島田が「全部やります!」と答えた。

 ただ、一度にすべてをやると、ガムを噛みながら、カードゲームをして、自分を俯瞰して「おもろいやん」と開き直っている妙ちきりんになってしまい、また笑いが起こった。

 単なる会見の一幕だったが、高橋は終始、年少者の島田を中心に周りを気遣っていた。

 全員が関わる話題をつくることで、取材の「撮れ高」も確保した。もちろん、本人はそこまで意識的にやっているわけではないはずだが。

●オフは「よく眠れた」「仕事でバタバタ」

 かなだいは長いシーズンが終わったあとのオフを、マイペースに過ごしていた。

 アイスリンク内にまで椅子を並べて、臨場感のある舞台だった。立ち見の観客もずらりとリンク囲んでいた。

 そこにスペシャルゲストとして登場したかなだいは、エキシビション用のピンクの衣装だった。

「人の成長に果てはない」

 その紹介アナウンスは、ふたりにとって勲章だろう。

 村元は五輪に出場し、世界選手権で11位に入ってから一度、競技を離れて3年ぶりの復帰だった。高橋に至ってはシングル復活後のアイスダンス転向で"新参者"である。

 しかもコロナ禍の逆風で、練習すら思うように積めなかった。しかし、それぞれが勘を取り戻し、肉体を改造し、お互いの呼吸を合わせながら、アイスダンサー結成3年で想像以上の躍進を見せた。

 2022−2023シーズン、全日本選手権で優勝を飾り、世界選手権ではアイスダンス史上日本勢最高位を記録したのだ。

 ふたりはピアノ曲『Love Goes』をしめやかに滑り、安定感が増したリフトも堂々と決めた。最後のポーズで氷の上に寝そべるまで、カップル結成3年の落ち着きのようなものがあった。

 国別後、ふたりはおのおののペースで過ごしていたようだ。

「とにかく、よく眠れました!」(村元)

「お仕事がいっぱいになっちゃってバタバタで」(高橋)

 そして今回の公演では、島田を筆頭に未来を担う若い選手とアイスショーで一緒になり、それぞれに刺激も受けていた。

「練習を見ても、みんなよく滑れるし。(若い選手は)回転も速いなって」(村元)

「みんな元気! エネルギーに溢れていて。男の子も多いので、これから活躍してほしいなって思います。

 僕たちが小さい頃は、アイスショーに出られ(る環境は)なかったので、木下アカデミーの子たちはいい経験ができていいなって」(高橋)

 ふたりはそうした日々を重ね、来季に向けての決断をどこかで下すのだろう。

●競技者を続ける愉悦

ーー来季の進路は?

 この日、会見でその質問は出ていない。ふたりが決めた時、彼らのタイミングで発表があるだろう。

 ただ、そのヒントになる言葉を探すとすれば......。

 世界選手権後、村元は「競技者を続ける愉悦」についてこう語っていた。

「会場で(演技前に)自分たちの名前が呼ばれ会場が一瞬だけ無音になる瞬間や、滑り終わってのお客さんの拍手、それを感じられるのが競技生活ならではでうれしいですね。アイスダンスはパートーナーがいるので、喜びも2倍になりますし」

 一方、誰よりも長く第一線で競技生活を続けてきた高橋は、こう洩らしていた。

「(演技が)終わったあとのお客さんの歓声、5分間練習での拍手を滑りながら肌で感じられるのがいいですね。たしかに競技生活は緊張感も高いし、いいこと、悪いこと、あるんだと思うんです。

 でもそれも含めて、日々の生活でなかなか感じられない感覚があって、それはすばらしいなって」

 かなだいは4月23日も、昼夜と二度の公演を行なう。アイスショーやイベントを重ねながら、オフを過ごす。

 現役を続けるにせよ、そうでないにせよ、その時間も表現者として貴重なピースだ。