4月4日から3日間にわたり、U18日本代表候補選手強化合宿が開かれた。合宿には36名の代表候補のうち、コンディション不良のため不参加となった1名を除いて35名が参加した。 前回(2019年)の合宿はもはや"伝説"と言っていい。紅白戦で佐々…

 4月4日から3日間にわたり、U18日本代表候補選手強化合宿が開かれた。合宿には36名の代表候補のうち、コンディション不良のため不参加となった1名を除いて35名が参加した。

 前回(2019年)の合宿はもはや"伝説"と言っていい。紅白戦で佐々木朗希(現・ロッテ)が最速163キロの快速球を投げ込み、メディアやスカウト陣の度肝を抜いた。ほかにも宮城大弥(現・オリックス)、奥川恭伸(現・ヤクルト)、及川雅貴(現・阪神)、石川昂弥(現・中日)、森敬斗(現・DeNA)、紅林弘太郎(現・オリックス)、黒川史陽(現・楽天)といった錚々たるメンバーが参加していた。

 コロナ禍を挟んで4年ぶりに開催された合宿では、どんな選手が躍動したのか。投手編・野手編に分けて紹介していきたい。

【圧巻の投球を披露した前田悠伍】

 前田はやはり前田だったな......。

 そう納得してしまうような、圧巻のパフォーマンスだった。

 合宿2日目の紅白戦に登板した前田悠伍(大阪桐蔭)は3イニングを投げて被安打1、奪三振4、与四球1、失点0と危なげない内容だった。

 見せ場はキャッチボールから始まっていた。同じく左腕で最速152キロをマークする東松快征(享栄)とペアを組み、前田はブルペンに入る前に遠投に取り組んだ。

 ガツッと硬質の石をぶつけるような東松に対し、前田のボールはゴムで仕込んでいるかのように弾力を帯びて伸びていく。東松はその衝撃を証言する。

「自分は球のスピードや勢いには自信がありますが、前田のボールはキレがものすごくて......。ボールが二段階くらい加速して、浮き上がるような感じ。ストーンと伸びてくるイメージでした」

 優勝候補大本命に挙げられた今春のセンバツでは、準決勝で報徳学園に逆転負けを喫した。高校1年秋から一線級で活躍してきただけに、前田の投球に対して「物足りない」という声も少なからずあった。

 それでも、この高校トップクラスが集う紅白戦で見せた快投は、前田の実力を雄弁に物語っていた。ライトの守備からベンチに戻ってきた武田陸玖(山形中央)は、「ガチで速い......」と驚いた表情を見せていた。

 スライダー、チェンジアップなどバリエーション豊富な球種を操り、泰然としたマウンドさばきも健在。何事もなければ、U18日本代表のエースは前田で決まりだろう。



最速152キロを誇る享栄の左腕・東松快征

【全国大会未経験の152キロ左腕】

 一方、前田とともにドラフト上位候補に挙げられる東松も、インパクト十分の投球を見せた。

 3回を投げて被安打3、奪三振3、四死球0、失点1。身長178センチ、体重89キロのたくましい肉体から、150キロに迫ろうかという剛速球を次々に投げ込んだ。紅白戦のあと、U18日本代表の馬淵史郎監督(明徳義塾)は「ボールの勢いがあった」と東松を評価した。

 ただし、1球ごとのムラが激しく、東松は「納得のいく真っすぐは半分くらいでした」と振り返る。登板後には前田の元へ赴き、変化球の投げ方に関するアドバイスを求める貪欲さも見せた。

 この日のベストボールは、武田から空振り三振を奪った外角へのストレートだろう。しっかりとボールの縫い目にかかったボールは、捕手のミットを激しく叩くエネルギッシュな剛速球だった。そのボールについて聞くと、東松の顔が一瞬にしてパッと明るくなった。

「あれはいいボールがいきました。高さはもうひとつ低くしたかったですけど。悪い時は肩に力が入ったり、下半身が使えなかったりするんですけど、いい時は余計な力が入らなくて一連の動作がパッと決まる感じで投げています」

 高校生活で全国大会未経験の東松だが、この合宿で大きな手応えを得たようだ。

「自分の力強い真っすぐは馬淵監督やスカウトのみなさんには見てもらえたと思います。あとは変化球をもっと練習していきます」

 紅白戦後に馬淵監督が前田とともに「非常に完成度が高い」と賛辞を送ったのが、髙橋煌稀(仙台育英)だった。

 昨夏は日本一、今春はセンバツベスト8を経験した仙台育英のエース。昨夏までは安定感が際立つ好右腕だったが、季節を追うごとにスケールアップに成功。今春は力強さと正確さが共存した投球を見せ、スカウト陣の評価を高めている。

 合宿の紅白戦では3イニングを投げ、打者10人に対して許したランナーはエラーによる1人だけ。被安打0、奪三振3、四死球0、失点0とほぼ完璧だった。スライダー、フォーク、チェンジアップなど変化球の精度も高く、体調さえ万全なら今夏の代表選出は間違いないだろう。



投打で存在感を示した山形中央の武田陸玖

【存在感を放った山形中央の二刀流】

 ストレートの質で異彩を放ったのは、山形中央の左腕・武田だ。身長174センチ、体重77キロと上背はないものの、捕手のミットを突き上げるような好球質のストレートで打者のバットをことごとく押し返した。

 目線や右足の上げ方にバリエーションがある一塁牽制も、武田の一芸だ。紅白戦では3安打を浴びたものの、2つの牽制アウトを奪ってピンチを脱している。打撃力も馬淵監督から評価されており、武田の注目度はますます増してきそうだ。

 センバツに出場した投手では、平野大地(専大松戸)と升田早人(光)が目を惹いた。平野はセンバツでベスト8進出に貢献した一方、最速151キロと評判だった快速球がとらえられるケースが目についた。だが、ストレートに関しては今回の合宿のほうが走っていたように見えた。2イニング目に暴投で失点したものの、巨漢スラッガー・佐倉侠史朗(九州国際大付)から強烈な勢いのストレートで空振り三振を奪ってみせた。

 カーブ、スライダー、フォークの精度は高く、投手歴2年というキャリアの浅さも平野の将来性。佐倉に投じたストレートがコンスタントに投げられるようになれば、その前途は明るいだろう。

 升田は紅白戦で2イニングを投げ、被安打4、奪三振2、与四球1、失点1と不安定な内容。だが、馬淵監督は升田を名指しでフォローした。

「升田くんはもっといいと思いますよ。センバツが終わってから全然投げてなかったみたいなので。本調子ではないなかでも、今日もいいところが出ましたから」

 升田は今春のセンバツで大きく株を上げた好右腕である。甲子園で自己最速を更新する143キロをマークし、打者の手元で伸びる好球質のストレートで一躍ドラフト候補に躍り出た。合宿の紅白戦でも、時折重力に逆らうようなストレートを投じて片鱗を見せてくれた。

 最後に紹介したいのは、紅白戦で2回4失点と炎上した森煌誠(徳島商)だ。身長183センチ、体重87キロの厚みのある体から、好調時には140キロ台後半の剛速球を投げ込む。四国では評判の好素材も、合宿ではストレートも変化球もとらえられ、計6安打を浴びた。

 それでも、リリースのタイミングがハマったボールにはプロを意識できるだけのスピード感と凄味が宿っていた。タテに曲がるカーブ、スライダーも出色で、大いなる可能性を感じさせた。

 そもそも、今回の合宿での結果によってメンバーが決まるわけではない。馬淵監督も「我々には1試合や2試合見たくらいで力を判断できる能力はない」と明言している。大事なのは合宿での経験をとおして学び、夏に向けて課題をクリアできるかにある。

 今回は7投手を紹介したが、紅白戦当日に公式戦が入っていたため登板できなかった坂井陽翔(滝川二)のような逸材もいる。また、今回招集されなかったメンバーのなかにも、夏に向けて爪を研ぐ実力者がいるはずだ。

 今夏が終わった段階で、どんな投手の名前が呼ばれるのか。今から待ち遠しくて仕方がない。

野手編はこちら>>