世界国別対抗戦女子フリー後に笑顔を見せる三原舞依●坂本花織と流した涙 2022−2023シーズン最後となるフィギュアスケートの世界国別対抗戦、演技が終わった三原舞依(23歳、シスメックス)は、テレビのインタビューを同門の坂本花織と受けながら…



世界国別対抗戦女子フリー後に笑顔を見せる三原舞依

●坂本花織と流した涙

 2022−2023シーズン最後となるフィギュアスケートの世界国別対抗戦、演技が終わった三原舞依(23歳、シスメックス)は、テレビのインタビューを同門の坂本花織と受けながら、一緒に涙を流していた。

「(三原)舞依ちゃんが泣いちゃうのを見て、私も涙腺弱いんで、もらい泣きしました」

 事情を説明したのは、坂本だった。

「舞依ちゃんは今シーズン、どの選手よりもたくさんの試合を積んできて、頑張ってきた成果がしっかり結果にも表れて、それを私は身近に感じられてうれしくて。

 舞依ちゃんは自分のことだけじゃなくて、私のことも気にかけてくれて、ダメだった時も、いつも優しい言葉をかけてくれるので、そういう存在が身近にいるのは幸せって思います、と話をしていたら、舞依ちゃんが......」

 三原という選手の本性を映し出すのは、こうした盟友の言葉なのかもしれない。

●シーズン13試合目の集大成

 4月12日、大会開幕前日の公式練習に出てきた三原は、ループがはまっていなかった。他のジャンプも本来の調子にはほど遠い。

「右足が言うことを聞くようにしていきます!」

 彼女は気丈に言って、言い訳になるような発言はいっさいしなかった。その意志の強さは、彼女らしい。2週間前の世界選手権で、中野園子コーチが「足の痛み」があったのを洩らしたように、万全の状態のはずはなかった。

「今シーズンは自己最多で13試合目になるので、今までの経験をすべて活かせるように。トレーニングの成果で、ジャンプは前よりも浮くようになって、回りすぎて上体が振られることもあるので、いいジャンプの場所を見つけられたら。

 会場は一番上からだと、リンクが小さく見えるので、少しでも大きく滑りたいって思っています!」

 彼女はあくまで跳ぶイメージをつくろうとしていた。シーズンを通じ、すべてプラスに捉えることで、レベルアップしてきた。

 グランプリ(GP)シリーズ2連勝、GPファイナル女王の称号は伊達ではない。全日本選手権も、自己最高の2位だ。

「国別代表に選んでもらった以上、ちゃんとした演技をしたいなって」

 彼女は謙虚に語っていた。

●自分に厳しく、周りに優しく

 4月13日、三原はショートプログラム(SP)の『戦場のメリークリスマス』を熱演している。もっとも、コンディション的に厳しかったのだろう。大きなミスはなくまとめたが、66.85点とスコアも伸びずに5位。

「今日の演技は、最初からパワーがなかったかなって」

 演技後、三原は悔しそうに振り返った。

「体の状態については......あまり言わないようにと思っています。自分は、どんな状況であっても、変わらない演技ができるようにもっと強くならないと。今日は弱さが出たかなって思います。

 パーフェクトの演技ができず、申し訳ない、ごめんなさいという気持ちだったんですけど、みんな温かくて、『ナイスファイト』『よかったよ』と声をかけてもらって」

 彼女は自分に厳しく、周りに優しい。だからこそ、競技の一瞬に力を出し尽くせる。

「フリーの演技はシーズンの締めだと思うので、たとえ体がどうなろうと。できるイメージを持って、最後という思いで滑りたいと思います。切り替えて頑張ります!」

●「ここにいられて幸せだな」

 4月14日、リンクに入った三原は、前の順番の選手の点数が出るのを待ちながら、氷の感触を確かめていた。手でおでこをたたき、ひとつ大きく息を吐く。

「6分間練習に入る前、(キム・)イェリムちゃんが完璧な演技をして、ガッツポーズとか、うれし涙を見られて。

 今シーズンは、いろんな大会で一緒にやってきたので、本当によかったなって思いました。リプレーで見た3・3(連続ジャンプ)もすごくきれいで。イェリムちゃんの演技に、一歩踏み出すパワーをもらいました」

 そう語った三原は、人に共感することでエネルギーを得られる。フリースケーティング『恋は魔術師』は象徴的な演技になった。

 ダブルアクセルを着氷したあと、3回転ルッツ+3回転トーループのコンビネーションも降りた。3回転サルコウ、3回転フリップ、ダブルアクセル+3回転トーループ、3回転ルッツ+2回転トーループ+2回転ループと、回転不足はあったが、いずれも成功。

 最後の3回転ループは転倒になったが、立ち向かう姿勢が彼女らしかった。

「ループは得意なジャンプなので悔しくて。空中でゆがんでいるのがわかって、いつもなら抜けていたところですが、何が何でも(体の軸を)締めてチャレンジしようって。チャレンジ自体はよかったし、次につながると思うんですけど」

 最後のステップからスピンへの流れで、彼女は観衆の拍手喝采を浴びた。131.21点で5位は、GPファイナル女王としては不本意だろうが、それ以上の価値があった。

「観客席にパワーを送ってくださる方々が大勢いて、拍手であるとか、『舞依ちゃんガンバ』の声援であるとか、一つひとつがぐっと心のなかに入ってきて。

 ここにいられて幸せだなって、最初から最後まで強くいこうと演技に臨むことができました」

 三原は感謝の思いを口にした。それが口先だけではないからこそ、力に変換できる。坂本と一緒に流した涙も同じ回路だ。

「来シーズンは前半だけでなく、後半も右肩上がりのグラフになるように、コンディショニングや体力づくりもやっていきたいと思います!」

 三原は決意を口にした。2023−2024シーズンに備え、英気を養う。

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