ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」──牡馬クラシック第1弾のGⅠ皐月賞(中山・芝2000m)が4月16日…
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大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
──牡馬クラシック第1弾のGⅠ皐月賞(中山・芝2000m)が4月16日に行なわれます。本命不在の「大混戦」という下馬評ですが、大西さんはどうご覧になっていますか。
大西直宏(以下、大西)近年のクラシック戦線はトライアルを挟まない直行ローテが増えて、ただでさえ実力比較が難しい状況にあります。それに加えて、今年は2歳GⅠウィナーが不出走、重賞2勝馬もいませんから、非常に難解な一戦だと思います。下馬評どおり「どの馬からでも入れる」というメンバー構成ではないでしょうか。
――ここ数年、レースの数を使わない"省エネ"臨戦も目立ちます。昨年の2着馬イクイノックスもそうでしたが、皐月賞でもキャリア2戦で挑む馬が増えてきました。ソールオリエンス(牡3歳)、タッチウッド(牡3歳)、マイネルラウレア(牡3歳)と、今年も同様の臨戦馬が3頭もいます。
大西 僕の現役の頃は、(レースの)数を使って経験値を積んで臨む馬が多かったです。というか、それが一般的でした。僕が乗って皐月賞を勝ったサニーブライアン(1997年優勝馬)も、年が明けてから中山・芝2000mのレースを4戦使ってから皐月賞に臨みました。今の時代、こんな使い方をする馬はまずいませんね。
キャリアが少ないというのは、それだけ消耗もなく、フレッシュな状態で走れます。しっかりと牧場でケアをしながら充電できるので、走るたびにキャリアハイのパフォーマンスを出せるメリットもあります。
その反面、レースでの経験が少ないため、思わぬ脆さを見せてしまうことがあります。たとえば、馬群に揉まれて精神的に苦しくなったり、自分の型に持ち込めなかった時に本来の能力を発揮できなかったり......。
競馬に限らず、どのスポーツにも言えることだと思いますが、"負けを経験することで強くなる"ことはよくありますからね。とりわけクラシックというのは、多頭数で行なわれるため、とにかくタフさが重要な要素となります。それゆえ、僕は野武士のような逞しさを持った馬に魅力を感じます。
――確かにクラシックというのは激戦のイメージが強いので、へこたれない精神面の強さが必要不可欠ですね。そうしたことを踏まえ、今年のメンバーで上位候補に考えられる馬はどのあたりでしょうか?
大西 前哨戦のGII弥生賞(3月5日/中山・芝2000m)を制したタスティエーラ(牡3歳)には安定感を感じます。新馬戦の時からライアン・ムーア騎手にビッシリと追われ、気を抜く暇もなく走らされたことで、いいスイッチが入りましたね。
2戦目のGIII共同通信杯(4着。2月12日/東京・芝1800m)は折り合い重視の乗り方で、やや脚を余した感がありますが、弥生賞では初めてコンビを組んだ松山弘平騎手が、勝負どころで早めに動いて脚を出しきるという、この馬の長所をうまく引き出しました。堀宣行厩舎にしては珍しい、中2週の使い方にも応えたように、精神的にもタフな印象があります。
他では、GIIスプリングS(3月19日/中山・芝1800m)で3連勝を飾ったベラジオオペラ(牡3歳)が有力候補です。3戦すべて違う競馬場、しかもすべて違う馬場状態で結果を出したところは評価できますし、関東圏への輸送も慣れたものです。
前走は同型が多くて、初めて控える競馬となりましたが、それで結果を出せたのも、この馬の対応力の高さを示すもの。どんな状況になっても、脆さを出さずに闘争心を失わないのは、精神的に強い証拠です。
今回はそれまで騎乗してきた横山武史騎手が、他に先約があって乗れませんが、こういう柔軟性の高いタイプはテン乗りでも、大きくパフォーマンスを落とさずに走れるはずです。
──さて、過去にこのレースを勝ったことのある大西さんから見て、穴馬候補としてピックアップしたい存在はいますか。
大西 先ほども"レース経験"ということに触れましたが、僕は出走メンバーのなかで最も多くのキャリアがある、トップナイフ(牡3歳)がとても気になっています。多くの馬が前走で賞金加算、あるいは出走権利を獲得して臨むなか、この馬は2歳の時点ですでに賞金面をクリアしている数少ない存在です。

皐月賞出走馬のなかで最も多くのキャリアがあるトップナイフ
よって、弥生賞では"試走"に徹することができました。そうして、GⅠホープフルS(12月28日/中山・芝2000m)の時と違って、逃げなくても好走できることを改めて確認。本番へ向けて、騎乗プランの選択肢が広がったのではないでしょうか。それに、皐月賞と同じ舞台を連続して走って、2着、2着と好走できたことは大きな強みになると思います。
この馬にはここまでの(レースの)使い方もそうですが、逃げても番手でもOKという脚質面からも、どうしてもサニーブライアンとイメージが重なります。そのため、心情的にも少し思い入れがあります。
──トップナイフの手綱をとる横山典弘騎手は、大西さんがサニーブライアンで勝った翌年の皐月賞をセイウンスカイで勝利しています。
大西 その時は、スペシャルウィーク、キングヘイローと「3強対決」で沸きましたね。サニーブライアンに続いての4角先頭からの押しきりだったので、僕もよく覚えています。強い関西馬に勝つには、あれしかないという騎乗でした。
そんな横山典弘騎手は、今年がなんと31回目の皐月賞挑戦(歴代最多)とのこと。誰よりも皐月賞を知り尽くしていますし、トリッキーな中山では最も頼りになるベテランジョッキーと言えます。先のGI大阪杯で樹立した武豊騎手の最年長GⅠ勝利記録も、十分更新する可能性があるとみています。
ということで、皐月賞の「ヒモ穴」にはトップナイフを指名したいと思います。