全日本女子・宮下遥インタビュー(前編) 中田久美監督による全日本女子バレーボールチームが始動して約1ヵ月。このチームの「司令塔」と期待される、宮下遥選手にインタビューを行なった。まだ弱冠22歳だが、代表歴は5年を数え、五輪切符をかけた最…

全日本女子・宮下遥インタビュー(前編)

 中田久美監督による全日本女子バレーボールチームが始動して約1ヵ月。このチームの「司令塔」と期待される、宮下遥選手にインタビューを行なった。まだ弱冠22歳だが、代表歴は5年を数え、五輪切符をかけた最終予選やリオ五輪を経験。たくましさと落ち着きを増した彼女に、新チームの印象や中田監督の指導について、話を聞いた。



中田久美新監督が大きな期待を寄せるセッター宮下遥――中田久美監督のもとで、新しい全日本の活動が始まりましたが、チームは今、どんな雰囲気ですか?

宮下 どういうチームになるのかは、まだ形が見えてないんですが、みんながそれぞれでチームを作っていこうという雰囲気が、選手側から出るようになってきました。すごくいい雰囲気だと思います。

――たとえば、どんな声が出ているのでしょうか?

宮下 本当に細かいことです。選抜チームということには変わりないので、「今のボールは私が行く」「あなたが行って」などです。スパイカーとセッターのコンビにしても、「もうちょっと早く出して」とか、セッター側からも「早く入ってほしい」「待ってほしい」という声ですね。お互い助け合うだけじゃなくて、これをしてほしいという要求をする声が出てきたところが、すごくいいなと思っています。

――中田久美監督の印象はどうでしたか?

宮下 誰でもそうだとは思うのですが、曲がったこと、中途半端なことは本当に嫌いな方なのだろうなという印象があって、本当にその通りの方でした。練習中に集中力が切れたような雰囲気の時は、練習を止めて「今のは何? 最初からやり直し!」とか喝を入れてくださることもありますし、逆に選手がいいプレーをしたり、がんばったりするところを見ると応援してくださったり、背中を押してくださることも、言葉や行動でしてくださいます。

“やりやすい”と言ったら、すごく軽く聞こえるんですけど、自分で迷うことがあっても、とりあえず間違っていたら久美さんが何か言ってくださるから、まずはやってみようという気持ちになりました。

――怖いなと思ったりしました?

宮下 うーん、怖い…っていうのはなんか当たり前というか(笑)。そうでなければ久美さんじゃない。

――女性の監督はやりやすいですか? 遠慮がないぶん、逆に厳しいとも聞きますが。

宮下 毎回聞かれるんですけど(苦笑)。女性が監督でも男性が監督でも、同じ監督なので、私にとっては変わらないです。

――宮下さんが初めて全日本に選出されたとき、当時、解説者だった中田さんは「見てなさい。この子はモノが違うから」と褒めていましたが、それを聞いてどう思われますか?

宮下 私の何を見てそうおっしゃってくださったのかわからないですけど、久美さんが予言したとおりになるように頑張りたいです。

――中田監督は試合において「セッターは生命線」と考えているそうですが、‟生命線”として、どういう動きを心がけていきたいですか?

宮下 まずは、プレーのことも大事ですけど、コートに立っているだけで周りの選手が「遥がいると安心するな、やってくれるな」と思ってもらえるような選手になることが大事だと思います。そして、世界を相手に戦う中で勝負どころの1点とか、流れを変える大事なポイントになる場面はたくさんあると思うのですが、そういうときに勝負強くならないといけない。セッターは一番ボールを多く触るポジションですから、セッターが迷ったり、弱気になると、周りにすぐ伝わりますし、逆に熱くなって強気になりすぎてもいけない。周りが落ち着ける、安心できるセッターになれるといいと思っています。

――中田監督から、「こんなトスを」といった具体的な指導はありますか? 前の眞鍋政義監督の時は、所属チームの岡山で求められるトスと違って苦労されていましたが。

宮下 今はトスのスピードももちろんなんですけど、1本目のパス(サーブレシーブ)から、テンポよくというのがチームのルールとしてあります。パスが低かったからトスを高くしてスパイカーが打ちやすくではなくて、パスも一定のリズムで出せるのが理想だし、トスもセッターの手から出たら、みんなが同じように同じテンポで打つこと。ミドルの攻撃はちょっと速いですが、同じテンポで攻撃できる。それがサーブレシーブからでも、フリーボールからでも、がんばってトランジション(スパイクレシーブ)からでも、同じようにいいテンポで攻撃するというのが、今みんなが挑戦していることです。

――複数のアタッカーが一緒に攻撃に入ってくる感じでしょうか?

宮下 シンクロ(同時攻撃)とか、攻撃枚数を4枚にするとか、そういうのではなくて、ただ単に、テンポをよくするということですね。それができてくると、自然とシンクロだったり、攻撃枚数が4枚になったりすると思う。最初から同じタイミングで、とか4枚で攻撃に入ろうとかしてしまうと、質の部分が作れない気がするので、ひとつずつ質を高めながらやっていけば、自然とシンクロなどもできてくるのではないかと思います。

――中田監督と、どんな話をされるのか、差し支えない範囲で教えてください。

宮下 選手一人ひとりの動きを見てくださっていて、私だったら、「もう少しジャンプトスの跳ぶタイミングを早く」だったり、「ボールの下に早く入りなさい」とか、細かい動きまで言ってくださる。もうちょっと改善した方がいいな、というポイントを指摘してくださいますね。

――首脳陣のひとり、トルコ人コーチのフェルハト・アクバシュさんの印象はどうですか? 全日本女子では史上初の外国人指導者ですが、どんな指導を受けていますか?

宮下 今まで全日本のことを「敵」として見ていた方なので、自分たちで考える自分たちの長所・短所ではなくて、対戦国から見た日本の長所・短所を知っている。このチームで唯一それを知っている方なので、考え方も全然違うところがあって、言われたときに「へぇー」ってなります。

 例えば、彼が言うには「日本人はスパイクで工夫するのはすごくうまい。でも、そういうものばかりに頼りすぎて、ハードヒットしない。何が何でも難しいタイミングでも強く打つという意識がない。だから、とにかく今は打て!」と。

 でも、私だけの考えなのかもしれませんが、日本人のよさは、そのうまさであり、外国人のブロッカーをイライラさせたり、嫌なところをつくというところだと思うので、「あっ、そういう考え方もあるんだな」と新鮮に思いました。そういう捉え方も、頭ごなしに「ノー」というのではなく、今は受け入れて、みんなフェロー(フェルハトコーチの愛称)のアイディアを実践しながらやっています。

「天才セッター」と呼ばれ、宮下と同じく10代で全日本の司令塔を担っていた中田監督とは、コミュニケーションもうまくとれて、同じ方向を向けているようだ。後編では、東京オリンピックについて、そしてオフの過ごし方について聞く。

(つづく)