8回1死までノーノー「ボールが手を離れたら、僕にはどうすることもできない」■西武 2ー0 ロッテ(13日・県営大宮) 今…

8回1死までノーノー「ボールが手を離れたら、僕にはどうすることもできない」

■西武 2ー0 ロッテ(13日・県営大宮)

 今年こそ、本当に真価を発揮する年になりそうだ。西武の今井達也投手は13日、県営大宮球場で行われたロッテ戦に先発し、9回138球の熱投で2安打11奪三振無失点。今季2勝目を自身2年ぶり3度目の完封で飾った。8回1死で安田尚憲内野手に左前打を許すまでは、無安打に抑えていた。背番号を「11」から「48」に替えて臨んだ今季は2戦2勝、計16イニング無失点の無双ぶりである。

 7回までは2四球と2死球こそ与えていたものの、150キロ台のストレート、カーブ、スライダー、左打者の外角低めへ逃げていくチェンジアップを駆使し快投。荒れ気味の制球も、いわばスパイスの一種となり、ヒットは1本も許していなかった。8回、1死走者なしで安田をカウント1-2と追い込むも、外角高めの151キロの速球をとらえられ、三遊間を真っ二つに割られた。「ボールが僕の手を離れたら、僕にはどうすることもできない。しっかり強い当たりを打たれたので、そこは逆に切り替えやすかったです」と淡々と振り返った。

 今後へ向けて意義深いのは、むしろ初ヒットを打たれた後の投球だろう。2-0の僅差のリードで迎えた9回、1死一、二塁のピンチで、打順は4番・山口航輝外野手に回った。投球数はすでに125球に達しており、豊田清投手コーチがマウンドに駆け付けたが、8回終了時点でかけられた「お前に任せた」という言葉に変更はなかった。意気に感じた今井は、山口から外角高めのスライダーで空振り三振を奪い、続くグレゴリー・ポランコ外野手も、カウント3-2から8球目の内角速球を打たせて一飛に仕留め、投げ切ったのだった。

「チーム全員が、150球を超えてもあいつは大丈夫と思っている」

「いいえ、替えないです。ポランコ選手を出塁させたとしても、まだ今井です」。松井稼頭央監督は試合後の会見で、「仮にポランコを歩かせて満塁となっていたら、交代させていたか?」と聞かれ、少し語気を強めてそう答えた。勝敗を今井に託したという覚悟がにじみ出ていた。今井自身も「中8日での登板でしたし、チーム全員が『150球を超えても、あいつは大丈夫』と思っているので」と頼もしかった。

 栃木・作新学院高時代には3年夏に甲子園優勝投手となり、ドラフト1位の鳴り物入りでプロ入りしたが、昨年までの6年間は通算28勝27敗。開幕ローテ入りが決まっていた昨年、オープン戦終盤に右内転筋の張りを訴え、さらに2軍で左足首も痛めて、1軍登板は7月にずれ込んだ。8月下旬にも発熱で再び戦列を離れ、1か月間離脱。もどかしさは誰よりも本人が感じていた。

 シーズンオフに球団へ直訴し、入団時から付けてきた背番号11を返上。昨年限りで現役を引退した先輩の武隈祥太氏(現球団バイオメカニクス兼若獅子寮副寮長)の「48」を継承した。「練習中に武隈さんと会うことがありますが、毎回うれしそうな顔でしゃべってくれる。1勝でも多く挙げることができれば、自分以外に喜んでくれる人が増えるので、そこは去年以上にやりがいを感じています」と口元を綻ばせる。今井が伸び悩みながら求めていたきっかけ、モチベーションがそこにあった。背番号変更後、いまだ無失点だ。

 刺激は他にもある。一昨年まで4年連続でチーム防御率がリーグワーストだった西武投手陣だが、昨年一気にトップの2.75に躍進。今季も13日現在、エースの高橋光成投手が2試合1勝0敗、計16イニング1失点。平良海馬投手は2試合1勝0敗、13イニング3失点。松本航投手も1試合1勝、6回無失点で、今井と年齢の近い先発投手がそろって好調である。松井監督は「投手陣内に競争意識があり、今井も今日は最後まで投げ切りたかったのではないでしょうか」と推察。今井自身「ウチにはいい先発投手がいるので、負けないように頑張りたいな、と思います」とうなずく。

「今年は『これを信じて貫き通りてやっていけば大丈夫』というものが1つ見つかった。それさえできていれば、相手どうこうでなく、いい投球ができると思う」と自信をほのめかす今井。この男が実力を発揮すれば、ノーヒットノーランのチャンスなど、今後何度でも訪れるはずだ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)