世界選手権への出場を決めた池江璃花子伊藤華英の For Your Smile ~ 女性アスリートの未来のために vol.8【初日から調子はいまいち】 この連載は女性アスリートの応援をテーマにしていますので、今回は4月4日~9日まで開催された…



世界選手権への出場を決めた池江璃花子

伊藤華英の For Your Smile ~ 女性アスリートの未来のために vol.8

【初日から調子はいまいち】

 この連載は女性アスリートの応援をテーマにしていますので、今回は4月4日~9日まで開催された競泳の日本選手権で活躍した女子選手について語っていこうと思います。

 今回の日本選手権は7月14日から始まる世界選手権の代表選考会を兼ねていたこともあって、かなり注目を集めていましたし、私もテレビの解説があったので、5日間ほど現地で選手たちの泳ぎを観てきました。
 
 そのなかでやっぱり大きな関心事になっていたのが、池江璃花子選手(23)。50m自由形、100m自由形、50mバタフライ、100mバタフライの四冠を達成して、世界選手権への代表にも選ばれましたが、この日本選手権では絶好調ではないなという印象を受けました。

 初日の100mバタフライから調子があまりよくなかったように思いますが、そこで優勝して、派遣標準記録を突破したことが大きかったと思います。とくに池江選手は、小さい頃からバタフライが得意で、思い入れが強い種目ですので、この優勝がすごく自信になったなと感じました。

 もちろん昨年よりもすごくよくなっていますし、いい練習を積めているなと思いましたが、まだまだ伸びる余地は大いにあります。今回もほとんどのレースで前半が少し出遅れて、後半巻き返すという展開でした。それだけでも素晴らしいことですが、期待を込めて言うと、前半はもっと速くいけるはず。瞬発力をさらに養うトレーニングや、メンタル面も整えていけば、もっとタイムは出ると思います。

 彼女のポテンシャルはもっと高いところにありますので、パリ五輪に向けて、光が確実に見えてきたんじゃないかと思います。



「女子選手はみんなよかった」と語る伊藤華英さん

 photo by Hirose Hisaya

【プレッシャーが見えた成田】

 そして若手で注目を集めたのが、16歳の成田実生選手です。200m個人メドレー、400m個人メドレーでともに優勝し、派遣標準記録を突破しましたが、初めてプレッシャーのかかるレースをしているんだなと思いました。彼女にとっては今回初めて世界選手権という大きな舞台に向けての選考レースだったので、今までに見たことのない責任感を持った顔をしていました。それでもその緊張をうまく乗り越えたので、よかったなと思います。

 泳ぎのほうも、自由形も背泳ぎも上手でしたし、安定していました。今回は第2種目の背泳ぎを抑え気味でいきましたが、今は海外の選手がとても速いんです。カナダのサマー・マッキントッシュは彼女と同じ16歳で、つい先日、400m自由形と400m個人メドレーで世界新記録を樹立しました。400m個人メドレーのタイムは4分25秒87で、成田選手の今回のタイムが4分36秒89ですから、大きな開きがあります。世界選手権は世界の壁を感じながらも、どう泳いでいくのかを学べる絶好の機会。それを経験したうえで、パリ五輪で勝負できればいいのかなと思います。
 
 そして今回一番泳ぎがよかったなと感じたのが200mバタフライで初優勝した三井愛梨選手(18)です。タイムも2分6秒77と速くて、派遣標準記録(2分8秒43)も突破。初の世界選手権代表にもなりました。とくにキックは上手ですね。バタフライは体力的にもきつい種目なのに、最後まで伸びのある泳ぎができていました。今回彼女は腕を横から回して水面に入れていましたが、本来は腕を大きく回して上から水面に入れる形のほうがいいので、完璧なストロークではありませんでした。だから、今後もっと成長できる余地を残していると思います。

 今年度から彼女は大学1年生になりましたので、厳しい練習をやることで知られる藤森善弘コーチのもとで、さらに練習の量、質とも上げていって、それにしっかりと向き合うことができれば、すごく伸びる選手だと思っています。

【まずは決勝に残れるように】

 そのほかの選手でいうと、200m平泳ぎで自己ベストを更新する2分22秒98を出して優勝した今井月選手(22)もよかったですね。リオ五輪のあと調子が上がらず東京五輪には出場できませんでしたが、その間の紆余曲折を経て、6年ぶりの代表入り。今回は最後までストロークが崩れず、本当に素晴らしいと思いました。飯塚正雄コーチのもとで、いい練習ができているなという印象を受けました。

 またベテラン選手も今回は頑張っていましたね。平泳ぎの鈴木聡美選手(32)や青木玲緒樹選手(28)も世界選手権への出場が決まりましたし、今回優勝はできませんでしたが、個人メドレーの大橋悠依選手(27)も調子を上げてきていました。

 彼女は東京五輪で金メダルを獲得して以降1年間くらい調子を落としていて、不安視されていましたが、今回は第1種目のバタフライと、第2種目の背泳ぎまではかつての泳ぎが戻ってきたなという印象を受けました。かかとのしこりを除去する治療を行なっていたこともあって、後半はまだ練習不足かなというところもありましたし、本人もそう話していました。

 でも今回の泳ぎを見ると、ちゃんと自分の気持ちと向き合っていい練習ができていたのは間違いないでしょう。まだ多少の不安は残りましたが、本人はやるべきことはわかっていますので、出口は見えてきたのかなと思います。

 今回の日本選手権を総括すると、女子選手はみんなよかったです。世界選手権に出場することが決まった、自由形の池本凪沙選手(20)や神野ゆめ選手(20)もポテンシャルの高さを感じました。彼女たちはリレーのメンバーにも入っていますので、自由形を底上げする意味でも、頑張ってもらわないといけないですね。

 そして7月の世界選手権で出場する全選手たちは、まずは予選で短距離の選手は16番以内、長距離の選手は8番以内に入ること。そして、決勝に残ることがとても大事です。各選手がそれぞれの自己ベストを出せれば、明るい結果が待っているんじゃないかと思いますね。

【Profile】
伊藤華英(いとう・はなえ)
1985年1月18日生まれ、埼玉県出身。元競泳選手。2000年、15歳で日本選手権に出場。2006年に200m背泳ぎで日本新、2008年に100m背泳ぎでも日本新を樹立した。同年の北京五輪に出場し、100m背泳ぎで8位入賞。続くロンドン五輪では自由形の選手として出場し、400mと800mのリレーでともに入賞した。2012年10月に現役を引退。その後、早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科に通い、順天堂大学大学院スポーツ健康科学部博士号を取得した。現、全日本柔道連盟ブランディング戦略推進特別委員会副委員長、日本卓球協会理事。