山梨学院の初優勝で幕を下ろした選抜高校野球大会(センバツ)。同時期に開催されたWBCの影響もあってか、同大会をチェックしていた野球ファンは例年よりも少なかったかもしれない。だが、心配はご無用。数々の原石の可能性を見出してきた "…

 山梨学院の初優勝で幕を下ろした選抜高校野球大会(センバツ)。同時期に開催されたWBCの影響もあってか、同大会をチェックしていた野球ファンは例年よりも少なかったかもしれない。だが、心配はご無用。数々の原石の可能性を見出してきた "レジェンド"山本昌氏(元中日)が、センバツで光った10人の好投手をピックアップ。その非凡さとさらなる進化のポイントについて、徹底的に分析した。



3季連続の甲子園となった大阪桐蔭の前田悠伍

前田悠伍(大阪桐蔭/180センチ・80キロ/左投左打)

下級生時から絶賛してきた投手です。今春の甲子園で無双状態になるのでは......と予想していましたが、ライバルチームの奮闘もあって意外にもそうはなりませんでした。それでも、投球内容を分析してみると「さすが」のひと言。とくに投球フォームは文句のつけようがなく、腕の使い方が抜群にうまいです。ストレートがややカット気味に動く球質で、右打者のインコースに食い込むのが特徴的。決め球のチェンジアップも精度が高く、高校生とは思えない完成度です。球速がもう少しほしいという声もあるようですが、まだ春先ですし暖かくなるにつれ上がってくることに期待しましょう。あえて細かい部分を指摘すると、左肩をもう少し前(捕手寄り)で振れるようになると、球筋がもっとよくなるはずです。現時点で世代ナンバーワンなのは間違いないので、このまま素直に育ってもらいたいですね。



長身から投げ下ろすストレートが魅力の報徳学園・盛田智矢

盛田智矢(報徳学園/187センチ・85キロ/右投右打)

センバツで準優勝した報徳学園は盛田くんだけでなく、間木歩くん、今朝丸裕喜くんと好投手ぞろいで印象に残りました。高身長で投げ下ろすタイプの投手は個人的に好みなので、盛田くんの真上から投げられるフォームは興味を引かれます。まだ体ができていないので球速はこれから上がるでしょうし、タテの変化球が鋭く落ちる投げ方ができています。体重移動で体が真っすぐにストライクゾーンへと入っていくので、コントロールも悪くありません。これから本格開花していきそうな素材型ですね。今後さらにレベルアップしていくには、体重移動の距離がポイントになりそうです。もう少し移動距離が長くなると、重心が安定してくるはず。抜け球や引っかかる球が減り、ボールの走りもさらによくなるでしょう。



最速151キロを誇る専大松戸のエース・平野大地

平野大地(専大松戸/181センチ・84キロ/右投右打)

今春のセンバツではベスト8に進出。さすが投手育成に定評のある持丸修一監督の教え子ですね。最速151キロをマークするそうですが、パワーだけでなく技術も高いと感じます。しっかりと軸足で立って、体重移動で捕手に向かってラインを出せるのでコントロールに苦労することもないでしょう。スライダー、カーブの変化球もしっかりと操れています。あとは体重移動でもう少し勢いよく捕手方向に出ていければ、さらにボールの伸びが出てくるはず。中学まで捕手をしていて投手経験が浅いと聞きましたが、まだまだ投手として伸びる余地を残しています。夏の甲子園でも見たい好素材です。



昨年夏の甲子園でも活躍した仙台育英の高橋煌稀

髙橋煌稀(仙台育英/183センチ・86キロ/右投右打)

昨年夏、仙台育英の初優勝に貢献し、今春もベスト8に進出した好右腕です。140キロを超えるストレートに加え、ハイレベルな変化球を操れています。とくに印象的なのは、右腕が遅れて出てくること。打者はタイミングがとりづらいでしょうし、強く振れているのでボールも走ります。さらに右腕が遅れて出てくることで、チェンジアップの抜けがいいのもポイントです。あとは手首をしっかりと立てて投げられるようになれば、より球質が向上するでしょう。僕がスカウトなら3位くらいで指名したいです。体さえできれば、早い段階でリリーフとして一軍戦力になれそうですね。



初戦で山梨学院に敗れたが、大器の片鱗を見せた東北のハッブス大起

ハッブス大起(東北/188センチ・86キロ/右投右打)

粗削りではありますが、体に力があって変化球のキレもいい。将来楽しみな素材型右腕です。まだ体が成長段階にあって、重心の高い投球フォームなのでボールが全体的に高めに集まる傾向があります。強いボールはきているのですが、高いレベルにいけばいくほど高めのコースはケアされてしまいます。これから体が成熟して、ボールが低めに集まるようになれば楽しみです。体重移動の際に左肩がもう少しストライクゾーンを向くようになると、自然とボールもストライクゾーンへと向かうようになるはず。素質は十分あるだけに、意識してみてほしいです。



大阪桐蔭を相手に被安打2、失点1の好投を見せた能代松陽・森岡大智

森岡大智(能代松陽/184センチ・81キロ/右投右打)

大阪桐蔭を相手に被安打2、失点1と好投した投手ですね。ボールの伸びがすばらしかったです。184センチと上背があるうえに、右腕が真上から出てきてリリースポイントが高いのが大きな特長です。腕もしっかり振れているので、ストレートが走るだけでなく変化球にもキレがあります。これから本格的に体ができてくれば、平均スピードが5〜6キロは速くなるでしょう。左肩が捕手に向かうラインから外れるのが早いのは気になりますが、無理に直さず右腕が真上から出てくる特長を損ねないようにしてもらいたいですね。



能代松陽戦で好投した大阪桐蔭の背番号10・南恒誠

南恒誠(大阪桐蔭/186センチ・83キロ/右投右打)

前田悠伍くんというスーパーピッチャーだけでなく、こんなハイレベルな投手が背番号10をつけているのかと驚きました。さすがは大阪桐蔭ですね。体重移動が捕手に向かって真っすぐラインを出せていて、腕の振りも鋭い。僕の好きなタイプの投手です。まだ中心投手としての経験が浅く、フィジカル的にも成長の余地を残しているように見えます。あとは右手がもう少し体の近くを通るようになると、ボールがもっと走るようになるでしょう。現状ではやや右手が遠回りしている感があるので、右耳の近くを通るイメージで振れるといいですね。



甲子園で自己最速の143キロをマークした光高校・升田早人

升田早人(光/181センチ・76キロ/右投右打)

甲子園で自己最速の143キロをマークしたそうですが、体ができてくればまだまだスピードアップしそうな楽しみな好素材です。まず立ち姿がいい。細身の長身ながらしっかりと軸足で立てて、体重移動のラインもしっかりしている。チームを甲子園に導いただけあって、試合をまとめる能力も高いと感じました。まだ体ができていないせいか腕の振りがやや弱く感じますが、強く振れるようになれば5〜6キロはすぐに上がるでしょう。テイクバックが体の近くで回るのを、もう少し体から離して大きく回るようになると腕がより振れるようになるかもしれません。



190センチ、105キロの巨漢投手、東海大菅生の日當直喜

日當直喜(東海大菅生/190センチ・105キロ/右投右打)

フォークを自在に操る投手だと聞きましたが、いかにもフォークが落ちそうな上から投げられるフォームですね。ストレートも150キロ近い球速があり、恵まれた体格でパワーがあると感じます。ただ、体重移動で勢いをつけるため、上体をあおって投げているように見えます。左肩を上げるようにあおるアクションがある分、移動距離がとれていないんです。左の肩甲骨がホーム方向により移動できるようになれば、もっと伸びのあるストレートが投げられて、コントロールも安定するはず。ストレートが進化すれば、ますます評価が高まる投手でしょう。



敗れはしたが、高知打線を7回まで無安打に抑えた履正社の福田幸之介

福田幸之介(履正社/180センチ・77キロ/左投左打)

甲子園で初めて存在を知りましたが、こんなサウスポーがいるのかと驚きました。オーソドックスなフォームですが、体に力があってボールの角度もいい。チェンジアップもハイレベルです。高知高を7回までノーヒットに抑えたのもうなずける実力でした。気になる点を挙げるなら、軸足(左足)のヒザが早めに折れて体重移動しているところ。マウンドの傾斜を利用して、体重移動しながら自然にヒザが折れていくならいいのですが。エネルギーをロスすることなく利用できるようになれば、ボールがさらに伸びるようになるはず。そうなれば手のつけられない投手に成長するでしょうね。

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今春のセンバツはWBCがあったせいか、大きく報じられる投手は少なかったように感じます。でも、こうして見ると前田くんを筆頭に、将来楽しみな投手がたくさんいました。報徳学園の2年生投手など、下級生にも楽しみな好素材が育ってきています。分析しながら、日本球界の未来は明るいなと感じました。これから夏にかけて、さらなる好投手に出会えることを楽しみにしています。