夢に近づいているはずである。しかし、置かれた立場への責任感と緊張感を明かすのみだ。「嬉しい反面、責任があるなと。海外に行っている選手やサンウルブズのメンバーは出てこないわけですし、世間の声では、『次の日本代表は3軍』とか言われている。それ…

 夢に近づいているはずである。しかし、置かれた立場への責任感と緊張感を明かすのみだ。

「嬉しい反面、責任があるなと。海外に行っている選手やサンウルブズのメンバーは出てこないわけですし、世間の声では、『次の日本代表は3軍』とか言われている。それでも、勝たなきゃいけない。責任を感じますね」 

 現在の心境を明かすのは、金正奎。今季からNTTコムの主将となった24歳である。

 21日、日本代表への初選出が発表された。4月24日に都内で集合し、30日以降のアジアチャンピオンシップを見据える。

 参加する韓国代表、香港代表は一般論では格下とされるが、限られた準備と陣容で臨む中竹竜二ヘッドコーチ(HC)代行は「実質4日しか練習ができない。強化が難しいです」。油断はしていない。

 体制刷新後初の現メンバーには、昨秋のワールドカップイングランド大会で歴史的な3勝を挙げた選手は1人もいない。日本のサンウルブズの主力格をはじめ、国際リーグのスーパーラグビーへ参戦する選手は不参加となったからだ。ジェイミー・ジョセフ新HCも着任前であるなど、グラウンド内外での不揃いな足並みに疑問の声も浮かんでいる。

 しかし金は、「誰が監督だろうが、日本代表なので」。国際舞台にあって言い訳は無用、との意気である。だからこそ、念願の代表入りを果たしても「責任がある」と言うのである。

「勝たないといけない。去年、あれだけ積み上げてきたもの(ワールドカップでの成果)を崩すわけにもいかない。周りが思っている不安を自分たちも思ってしまうのではなく。言い訳をせず、やるだけやって、勝つ」

 早大時代から、各年代代表に選ばれてきた。公式で「身長177センチ、体重93キロ」。走り回って身体をぶつけ合うFLにあっては小柄だが、低い姿勢でのプレーには定評があった。日本最高峰のトップリーグでは昨季、ブレイク。勝負どころでジャッカル(密集で相手の球を奪うプレー)を連発し、リーグ戦のベストフィフティーンに輝いた。

 3月には、20歳以下日本代表を主体としたジュニア・ジャパンの主将としてパシフィック・チャレンジに出場した。今度のジャパンでもリーダーシップが期待されたが、主将はパナソニックのSHである内田啓介に譲ることとなる。

「リーダーになろうがなるまいが、自分自身、やることは変わらない。違う人がキャプテンになっても、自分が変わらずにリーダーシップを発揮する。チームをいい方向へ行かせようと全員が思っていたら、皆が自然とそうなっていくと思います」

 早大監督時代に金を指導し、春先のジュニア・ジャパンも率いた中竹HC代行は、「金のポジションにはいい選手がたくさんいる。ここを乗り越えたら、さらにいい選手になる」と見守っている。日本代表は6月、スコットランド代表戦などを控える。「先を見ていたら足元をすくわれる。一戦一戦、です」と話す金だが、海外組を含めた6月のメンバーにも入りたいだろう。勝負の季節を迎えている。(文:向 風見也)