2022年冬、注目すべきサッカー大会が立ち上がった。Jリーグのようなプロリーグでも、高校や大学の全国大会でもない——。大会名は、『関東社会人クライツクカップ』(以後、『クライツクカップ』)だ。『クライツクカップ』は今年で開催2回目を迎えた、…
2022年冬、注目すべきサッカー大会が立ち上がった。Jリーグのようなプロリーグでも、高校や大学の全国大会でもない——。大会名は、『関東社会人クライツクカップ』(以後、『クライツクカップ』)だ。『クライツクカップ』は今年で開催2回目を迎えた、歴史の浅い、社会人カテゴリーの大会である。参加チームは、関東のアマチュアの社会人サッカーチームで、記念すべき第1回大会は、現在、槙野智章氏が監督を務める神奈川県2部・品川CCセカンドが(注:優勝時のカテゴリーは神奈川県1部)、第2回大会は学習院大学にルーツを持つ東京都2部・R.F.C TOKYOが優勝した。この『クライツクカップ』、今後の社会人カテゴリーにおいて重要な位置づけになり得る大会になるのではないかと感じている。
大会期間中の2023年3月、『クライツクカップ』を運営する株式会社クライツクの代表取締役を務め、都・県「リーグ無所属」の社会人サッカーチームとして唯一無二の立ち位置で我が道を行くillmassive(イルマッシブ)の創設者兼代表、そして東京都1部で連勝街道を突き進む本田圭佑氏が立ち上げた社会人サッカーチーム・EDO ALL UNITED(エドオールユナイテッド)のCOO、さらに一般社団法人千代田区サッカー協会の常任理事も務める大坪隆史(おおつぼたかし)氏に話を聞くことができた。
社会人サッカーの公式戦の新たな選択肢になった『クライツクカップ』
「間違いなく、『クライツクカップ』は参加チームさんの協力がないと成り立ちません。皆さんには本当に感謝しています」と大坪氏が話すとおり、『クライツクカップ』は、参加チームの協力のもと、運営されている大会である。参加資格は関東の社会人サッカーチームであること。日本サッカー協会に登録している必要はない。ただし、運営都合上、試合会場となるグラウンドは、大会主催者である株式会社クライツクが都内のグラウンドの一部を手配するものの、各参加チームも確保する必要がある。この点は、都リーグの仕組みと類似しているといえるだろう。
第1回大会は、大坪氏とつながりのある8チームで開催された。第2回となる今大会は、前回の上位クラブと主催者推せんチームの8チームに加え、公募枠を設け、12チームでの開催となった。ちなみに公募枠には、何と37チームからの応募があったそう。「全チームさんに参加してもらいたいんですが、日程・会場都合上、そういうわけにもいかなくて……。今回に関しては、試合会場を確保できるところを優先させていただきました。ただ、お断りしたチームさんに対しては本当、申し訳なく思っています」(大坪氏)。参加チームの選考に頭を悩ませるほど非常に多くのチームが参加を希望した『クライツクカップ』。まだ2回目の開催でありながら、関東の社会人サッカー界で急速にその名が知れ渡りつつある現状なのだろう。
今年の『クライツクカップ』はまず、参加12チームを3つのグループに分けた予選が行われ、その後各グループ上位2チームと3位のうち上位2チーム(ワイルドカード)が進出する決勝トーナメントへと続く。会場は先述のとおり、各チームが確保したグラウンドだが、“都リーグあるある”の茨城県をはじめとする遠方地での開催はない。開催日は大会側で設定しているものの、チームそれぞれの事情や所属リーグの日程を考慮して、柔軟に調整・割り当てられる。実際、第2回の決勝は3月12日(日)に開催される予定だったが、決勝に進出した東京都1部・Intel Biloba Tokyoの都リーグ開幕戦と重なったことから、4月22日(土)に延期された。
大会参加チームを成功に導く様々な仕組み
『クライツクカップ』が参加チームから支持され、満足度が高まった理由は2つある。ひとつは、ただ練習試合をこなしがちな時期が『クライツクカップ』に出場することでシーズン開幕前の強化の役割を果たす場になること。もうひとつは、社会人サッカーの大会には珍しい賞金制であること。優勝チームに25万円、準優勝チームに10万円、得点王・アシスト王にはそれぞれ1.5万円が授与される。決して大きな金額ではないかもしれないが、アマチュアの社会人サッカーチームにとってはかなり大きな額だ。
3月~4月に開幕する都道府県リーグを前に真剣勝負の場が得られ、さらには賞金も出る。練習試合以上の緊張感と強度が担保される『クライツクカップ』に出場することは、チーム強化を見据えると非常に良い選択であるといえるだろう。例年、この時期は各地で天皇杯予選——東京都の場合『東京都社会人サッカーチャンピオンシップ』(通称:東京カップ)——が開催されるが、必ずしも広く門戸が開かれているわけではない。だからこそ、新しい公式戦の選択肢として多くのチームが『クライツクカップ』を求め、大会価値も上がっているのかもしれない。
『クライツクカップ』には、ローカルルールが存在する。例えば、警告(イエローカード)の累積や退場(レッドカード)による次節の出場停止はない。一般的な公式戦では、通常、複数試合にわたって一定回数の警告を受けたり、1試合で2回のイエローカードまたは退場のレッドカードを受けたりすると、次節は出場停止になる。
「警告・退場の記録はしますが、『選手一人ひとりの出場機会を少しでも増やしたい』目的から、次試合には全部リセットです」と大坪氏が語るように、公式ルールを厳密に適用すると選手一人あたりの出場時間が減ってしまうのは、明白。チーム・選手個人の強化の点から避けたい選手を入れ替えたり新加入選手を試したりすることができるよう、他大会のようなメンバーの事前エントリーも必要なく、交代人数も上限なしだ。厳密には、当初は「上限9人まで」となっていたが、参加チームからの意見を取り入れ、大会期間中に「上限なし」にした経緯もある。この柔軟さも、『クライツクカップ』の魅力だろう。
独自のレギュレーションがチームや選手ファーストの大会を実現している。目的はあくまでも選手にプレー機会を与えることであって、決して大会運営者が利益を得るような仕組みにはなっていないのだ。
クライツクカップという名称に込められた想い
『クライツクカップ』の「クライツク」とは運営会社である株式会社クライツクに由来する。では、「クライツク」とは何なのか? その響きのままの意味に加えて、すてきな意味があった。「諦めずに物事に“食らいついて”いこう」。これが1つ目の由来。2つ目として「暗い(クライ)夜でも月(ツキ=ツク)は明るく照らし、道を示してくれる。そういう月のような存在になる会社でありたいんです。これは、社会人サッカーの業界に対しても同様ですね」と大坪氏が語る。
大坪氏はさらに続ける。「3つ目の由来があります。『Cry It’s Cool』(クライ イッツ クール)です」。これには、クライアントが泣くほど感動する仕事をしようという気持ちが込められている。
3つ全てに共通するのは、自分を含む誰かに寄り添いたいという想いではないだろうか。実際に『クライツクカップ』は、平日は社会人として働きながらサッカーに真剣に取り組む選手とチームに寄り添い、サポートする大会なのである。 後編に続く
(取材・文:阿部 賢 写真提供:クライツクカップ)