石川祐希のAttack The World vol.2(vol.1:ミラノで「まだ答えを見つけられていない」こと 髙橋藍とは対決後に「仲が深まった」>>) イタリアで8季目を過ごすバレーボール男子の石川祐希。今季はチーム事情から、初めてゲー…

石川祐希のAttack The World vol.2

(vol.1:ミラノで「まだ答えを見つけられていない」こと 髙橋藍とは対決後に「仲が深まった」>>)

 イタリアで8季目を過ごすバレーボール男子の石川祐希。今季はチーム事情から、初めてゲームキャプテンの大役も経験した。そのことで、ある思いも芽生えてきたという。さらに、東京五輪王者のフランスと激戦を繰り広げた、昨秋の世界選手権についても振り返ってもらった。



昨秋の世界選手権で、東京五輪王者のフランス代表にあと一歩まで迫った日本代表

【世界のトップと肩を並べたい】

――ミラノの主将がケガをしたことで、シーズン中盤には石川選手がゲームキャプテンを務めました。イタリアに渡ってからキャプテンやゲームキャプテンを務めるのは初めての経験でしたね。

「ゲームキャプテンでも、そうじゃなくてもやることが変わってはいけない。ただ、ゲームキャプテンを任されるということは、試合をまとめる役割を担うということなので、チームをどうまとめるかを常に考えないといけません。チームから頼られる、みんなから信頼される存在にならなければいけないと思っています。

 ゲームキャプテンになって変わることは、僕の責任が増えるということ。そうじゃない時は責任を負わない、というわけではないですけど、僕は責任を負いたいタイプなので、ゲームキャプテンなどに指名していただいたほうがやりやすいですね」

――ゲームキャプテンだけでなく、チーム全体のキャプテンをやってみたいという思いも芽生えましたか?

「キャプテンはプレー以外にもやらなければいけないことが増えるでしょうから、そこはイタリア人選手がやったほうがスムーズなのかな、とも思います。それでもやってみたい気持ちはありますが、そのためには言葉をもっと勉強して、よりスムーズにコミュニケーションが取れるようになる必要があると思います。

 例えば、ピアチェンツァだとブリザール選手(フランス代表)、ペルージャだとレオン選手(ポーランド代表)、モデナだとブルーノ(・レゼンデ)選手(ブラジル代表)がやっていますが、そういった選手と肩を並べてキャプテンができるようになることは目標のひとつです。日本人選手がイタリアでキャプテンを務めたことは今までないと思うので、それが達成できたら記録に残りますし、 あとに続く選手の目標のひとつにとなると思う。

 でも、記録とか日本人初とかじゃなくて、僕が単純に『やりたい』と思って目標にしているところですね」

【ミラノでリーグ4強に食い込みたい】

――名前が出てきた選手たちは世界でも屈指のメンバー。それをサラっと口にするところから、大きな手応えがあったシーズンだったことが伝わってきます。名前を挙げた選手たちは"雲の上の存在"ではなく、手が届きそうな目標になってきていますか?

「並びたいですね。自分のレベルは上がってきていると思いますし、パフォーマンスも高く維持できていると思います。今までは『日本人の石川祐希』というか、『セリエAで何年もやっている石川祐希』という感じだった。でもこれからは、先ほど名前を挙げた選手と肩を並べて、今以上に世界で名の知られた選手になっていきたいです。

 そうなるためには、やっぱりキャプテンをやるべきだと考えています。その上で、強豪チームに勝ちたいですね。実現できたら、それほど楽しいことはない。ステージが上がれば見える景色も変わると思いますし、周りが僕を見る目も変わってくると思います」

――今季はシーズン中にミラノとの契約更新を発表しました。今まではシーズンオフに契約をしていましたが、早く契約した理由を教えてもらえますか?

「決断した理由は『ミラノのチームで勝ちたい』と思ったこと。僕もチームもステップアップしている最中ですし、新しい歴史をどんどん作っていきたいという思いが強かったので、来季もミラノでプレーする決断をしました」

――新しい歴史を作るというのは、やはりリーグ戦で4強に食い込むということですか。

「そうです。コッパ・イタリアでは昨季、ベスト4に入りましたし、今年も準決勝までは進みました。来年も新しい歴史、いい結果を残せるのではないかと思っています。チームとしても『上に行きたい』という思いを強く感じるので、選手の補強もすると思いますし、ミラノでリーグ4強を狙いたい。ミラノは街が大きく、知名度もあります。そこでイタリアのトップのチームになれたらと思っています」

【昨年の世界選手権は、経験の"濃さ"が違った】

――少し前の話にはなりますが、日本代表についても伺います。去年の世界選手権は決勝トーナメントの初戦で、東京五輪覇者のフランスにフルセットの大激戦。最終セットは先にセットポイントを握りながら競り負けました。振り返ると、どういう経験になっていますか?

「もちろん悔しいですが、世界選手権後に日本代表が変わっていくためには非常に大事な一戦でした。たぶん、今まではひとり、多くても複数人が悔しいと思う試合はあったでしょうが、あのフランス戦の負けは全員が悔しいと思ったはず。全員が責任を感じられた試合だったと思うので、成長につながる大会だったと思います」

――日本代表がもっと強くなっていけるという可能性が見えた試合でしたか?

「『この1点を取るか取らないか』で、結果がまったく違う世界を見たことが大きかったと思います。だからこそ、その1点をもぎとる力を全員がつけようと思えたはずです。先ほども言いましたが、全員が責任を感じたということが一番大きいと、個人的は感じますね。

 僕の場合は、最後の場面で回ってきたサーブ。西田有志選手は、最後のスパイクが拾われたこと。山内晶大選手や小野寺太志選手は、リードしたところでクイックを決めきれなかったこと。関田誠大選手は、そのクイックを中途半端にアタッカーに打たせてしまったこと。髙橋藍選手は、最後にフランスのヌガペトにスパイクを決められた場面で『ブロックに行くか行かないか』で迷い、行かなかったこと。

 それぞれが、『あそこで、こうしなければいけなかった』と考えていると思うので、それが今後につながるはず。きっと、みんながそのことを頭の片隅に置きながらシーズンを戦っていると思います。そういう経験は今までなかったですし、五輪王者に勝てそうなチャンスもありませんでした。そのレベルにたどり着けているけど、勝ちきれなかった。そんな手応えと悔しさをみんなが感じたはずです」

――東京五輪の準々決勝で敗れたブラジル戦もすごく悔しかったと思いますが、世界選手権のフランス戦はまた違う経験でしたか?

「経験の"濃さ"が違うと思います。東京五輪は、熱量はすごかったですけど、世界選手権はあと1点で勝てていた。五輪の時点ではそこまでの戦いはできていなかったので、そう考えると、経験したものは世界選手権のほうが濃かったと思います」

(vol.3:「本当にあと一歩」だったプレーオフ準決勝敗退に感じた手応え 3位決定戦へ「もっとチームを助けたい」>>)

【プロフィール】

◆石川祐希(いしかわ・ゆうき)

1995年12月11日生まれ、愛知県出身。イタリア・セリエAのミラノ所属。星城高校時代に2年連続で三冠(インターハイ・国体・春高バレー)を達成。2014年、中央大学1年時に日本代表に選出され、同年9月に代表デビューを飾った。大学在学中から短期派遣でセリエAでもプレーし、卒業後の2018-2019シーズンからプロ選手として同リーグで活躍。2021年には日本代表のキャプテンとして東京五輪に出場。29年ぶりの決勝トーナメント出場を果たした。