現代のサッカーにおいて、サイドバックの重要性は増している。Jリーグにも個性的なサイドバックはおり、チームにも大きな影響…

 現代のサッカーにおいて、サイドバックの重要性は増している。Jリーグにも個性的なサイドバックはおり、チームにも大きな影響を与えている。日本代表にも通ずるテーマであるサイドバックの扱い方について、サッカージャーナリスト・後藤健生が考察する。

■次のワールドカップを見据えて

 ウルグアイ戦の後の記者会見で森保一監督が触れたように、今回の強化試合では「サイドバックがどのように攻撃に関わるのか」が一つのテーマだった。サイドからオーバーラップするだけでなく、ボランチの位置に入ってビルドアップにも関わろうとしたのだ。

 その攻撃の形を作る作業を任されたのが、新たに就任した名波浩コーチだった。

 カタール・ワールドカップまでは、サンフレッチェ広島時代からの森保監督の盟友で互いの考え方を完全に理解し合っている横内昭展コーチ(現、ジュビロ磐田監督)が参謀役として森保監督を支えていたが、2期目に就任した段階で森保監督は名波氏にコーチを要請した。

 3年半後のワールドカップでカタール大会以上の最強の日本代表を作るために、今までとは違うやり方、違う考え方を取り入れるという姿勢を示した形だ。対戦相手がドイツやスペインであったとしても、自分たちでボールを保持してボールを動かして攻める時間を作れるようにするのが目標である。

 そこで、日本代表はサイドバックがビルドアップに関わる戦い方にトライしたのである。しかし、ウルグアイ戦で菅原が何度かボランチの位置に入って攻撃に関わろうとした場面があったが、結果としてこのやり方はまったく機能しなかった。

 そして、コロンビア戦ではサイドバックがボランチの位置に入るやり方は放棄された。サイドバックの負担を軽減するために、タッチライン沿いのプレーに集中させたのだ。

■Jリーグにも多い候補者たち

 いずれにしても、キリンチャレンジカップの2試合を通じてサイドバックの攻撃参加はうまく機能しなかった。そこで、「サイドバック問題」が注目を集めることになった。

 サイドバックが中盤でビルドアップに関わるやり方そのものを見直すべきだという見方もある。

 そうした戦術はチームとしてトレーニングをする機会が少ない代表チームでは難しいというのだ。まして、対戦相手のレベルが高くなればなるほど、サイドバックの変則的な動きは難しくなる。少なくとも日本が安定して中盤でボールを保持できる状態でないと、サイドバックに攻撃的な役割を求めるのは難しいのかもしれない。

 しかし、これは3年半後に完成させて、日本チームの攻撃のバリエーションを増やすために選択したことなのだ。なんとか早く、新しい戦い方のコンセプトを浸透させてもらいたいものだ。

 攻撃のビルドアップにも関与するサイドバック……。それを実現するためには、サイドバックの人選を見直すべきかもしれない。つまり、クラブでもビルドアップに関わるプレーに慣れている選手を入れることだ。

 たとえば山根視来は昨年のワールドカップでもメンバー入りし、コスタリカ戦でプレーしているので、再び招集しても不思議ではない。その他、浦和レッズでサイドバックとしてもアタッカーとしてもプレーしている明本考浩も招集していい。さらに、サイドバックの攻撃参加がチーム全体に浸透している横浜F・マリノスのサイドバック(右サイドの松原健や左サイドの永戸勝也)も有力な候補だ。

 もちろん、国際試合の強度の高さを考えれば、ヨーロッパのクラブでプレーしている選手を優先すべきだという考え方もあるだろう。

 だが、とりあえずサイドバックの攻撃参加というコンセプトをチームに定着させるまでは、Jリーグの選手であっても、クラブでそうしたプレーをしている選手たちを入れておくことに大きなメリットがある。

 あるいは、もともとアタッカーである旗手怜央セルティック)は川崎フロンターレ時代にサイドバックとしてもプレーしており、セルティックでもサイドバックとしてプレーして高評価を受けたことがある。サイドバックをオリジナル・ポジションとしながら攻撃のビルドアップに関わらせるにはうってつけの人材だ。

■足りない「時間」

 新しいやり方が浸透しにくいのは、トレーニング時間が足りないからだ。

 代表チームには、時間をかけて戦術を浸透させるだけの時間はなかなか与えられない。3月のキリンチャレンジカップでは、集合してすぐに試合というスケジュールだった。

 だが、次のキリンチャレンジカップが開催される6月はヨーロッパのシーズンが終了している時期だから、早めにキャンプに合流できる選手も多いはずだ。戦術確認のためにもう少し時間をかけられる。

 そして、最大のトレーニング機会は2024年の1月にカタールで開催される予定のアジアカップだ。決勝まで勝ち進めば3週間以上の合宿となり、トレーニングで新戦術を落とし込み、それを実戦でテストすることができる。

 もちろん、アジアカップはタイトルマッチなので結果が求められるが、日本代表にとってはワールドカップ直前合宿以外で長期にわたって選手たちを拘束できる唯一の機会なのだ(大陸選手権なので、日本側に選手の拘束権がある)。

 しかも、アジアの相手ならサイドバックがビルドアップに関わる戦い方は非常に効果的なので、アジアカップこそ新しいやり方を定着させる最高の機会になるはずだ。

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