コロナ禍の影響もあり、ドラフト対象の選手が少なかった昨年のセンバツ。対照的に今年のセンバツ前は「リストに挙がっている選手が多い。チェックする選手が多くて楽しみだよ」と言っているスカウトもいたが、はたしてどうだったのか。大会が進むにつれて、…

 コロナ禍の影響もあり、ドラフト対象の選手が少なかった昨年のセンバツ。対照的に今年のセンバツ前は「リストに挙がっている選手が多い。チェックする選手が多くて楽しみだよ」と言っているスカウトもいたが、はたしてどうだったのか。大会が進むにつれて、「チェック対象の選手は多かったけど、『これ!』という選手は少なかった」と漏らすスカウトもいたが、それでも高い評価を得た選手はいた。



ドラフト上位候補の大阪桐蔭・前田悠伍

【前田悠伍と真鍋慧のツートップ】

 このセンバツでもっとも高い評価を得たのは、昨年の時点でも大会ナンバーワンの呼び声が高かった大阪桐蔭の左腕エース・前田悠伍。初戦の敦賀気比戦での14奪三振をはじめ、準々決勝までの3試合で20イニング連続奪三振を記録した。今年も投手ではナンバーワンだ。では、スカウトの評価はどうだったのか。

「狙って三振がとれるのは大きい。複数の変化球でストライクがとれるし、勝負どころで抑えられる術を知っている。プロでも意外に早く使えそう。高校生だけど、即戦力に近い"勝てる投手"だと言えるでしょう。ただ、スケール感はありません。上位候補ではあるけど、1位確定ではないですね」(パ・リーグスカウトA氏)

「一番いいのがチェンジアップ。スライダーはスラーブのような軌道だけど、いい感じで曲がります。初戦は調子が悪かったけど、あの状態でも抑えられるのが魅力。間違いなく、今大会ナンバーワン投手です。ドラフト1位の器と言えるでしょう。DeNAの今永昇太投手のようになりそうな雰囲気があります」(セ・リーグスカウトB氏)

「初戦はストライクとボールがはっきりしていた。ストレートがもうひとつだったし、去年のほうがよかったイメージがある。ただ、それでもスライダーやチェンジアップを使って、抑えるバリエーションを持っている。とくに、あのチェンジアップは高校生で攻略するのは難しい。それと調子が悪くても仕草や表情に出さないのがいいよね」(パ・リーグスカウトC氏)



センバツのピッチングでスカウトから高い評価を得た光高校・升田早人

 もうひとり、上位候補として名前が挙がったのが、広陵のスラッガー・真鍋慧。期待された一発こそ出なかったが、準々決勝で2本の二塁打を放つなど存在感を示した。

「パワー系というよりも技術系の印象です。真ん中の甘めの球もうまく逆方向に打つので、スカウト目線で言うと、もうちょっと引っ張ってほしいというのはあります。ただ、九州学院高時代の村上宗隆もそういうところがありました。まだ力はついてくると思うし、うまさがある分、すごい打者になる可能性はありますね」(セ・リーグスカウトD氏)

「いいバッターだね。バットが内側から出て、ポイントが近い。高校生では貴重な存在です。バットの軌道もいいし、バットコントロールもすばらしい。率が残せる大砲候補と言えるでしょう。もう少し走塁、守備に興味を持ってくれたら文句なしです」(パ・リーグスカウトA氏)

「バットコントロールがいいですね。体が大きいので長打が期待されるけど、器用な打者。ボールをとらえる技術は持っています。気になるのは、ファースト以外のポジションを守れるのかどうか。送球は悪くないんですが......」(パ・リーグスカウトC氏)

【今大会もっとも評価を上げた選手は?】

 前田と真鍋のふたりは昨年のセンバツから話題になっていた選手。では、彼らに続くのは誰なのか。前田を除けばスカウト全員から名前が挙がったのが光高校の右腕・升田早人だ。今大会でもっとも評価を上げた選手と言えるだろう。それだけに、スカウト陣に与えたインパクトも大きかったようだ。

「MAXで144キロ。アベレージでも140キロ出ていました。まだ下半身が使えていない投げ方だけど、トップからリリースまでがうまい。ベース上でも球威が落ちず、球速以上にスピードを感じます」(セ・リーグスカウトB氏)

「ストレートの質がいい。181センチ、76キロの体のわりに出力が高い。進学希望と聞いているけど、ドラフトまで各球団が放っておかないでしょう。今大会で評価が上がったから、進路変更もあるかもしれない」(パ・リーグスカウトC氏)
 


スカウトから

「指名確実」と評価された常葉大菊川の鈴木叶

「こんなピッチャーがいたんだと思いました。変な力みもないし、バランスもいい。指先の感覚もいいですね。力むと高めにいく時はありますが、指にしっかりかかったボールはすばらしい。まだ体の線は細いですが、その分、将来性を感じますね」(セ・リーグスカウトD氏)

 また、今大会で「ドラフト指名確実」と言われるほど評価を急上昇させたのが、常葉大菊川の捕手・鈴木叶だ。

「目配り、気配りができていて、いかにもキャッチャーという雰囲気がある。イニング間の送球はそこまですごいとは思わないけど、実戦になるとすばらしい。バッティングはまだまだだけど、大会ナンバーワン捕手でしょう」(パ・リーグスカウトC氏)

「個人的には、鈴木くんが大会ナンバーワン捕手だと思います。一、三塁で、三塁に投げて走者をアウトにした場面があったけど、大舞台でああいうプレーができるのは評価できる。ブロッキングもうまい。バッティングは課題だけど、逆方向に打ったり、食らいついているところはいいですね」(セ・リーグスカウトB氏)

「キャッチャーとしての能力が高い。体の力もあるし、肩も強い。あとはいい送球がいく確率をどれだけ上げていけるか。プレーを見ていても献身的で、プロでも捕手としてやっていけそうな性格をしていると思います」(セ・リーグスカウトD氏)

【将来性を評価された逸材】

 ほかには、投手では今大会最速となる148キロをマークした東海大菅生の日當直喜もインパクトを残したひとり。

「スピードは出ている。このまま鍛えて160キロ近く投げられるようになったら、いいフォークがあるので、セットアッパーやクローザーとして楽しみな存在です。怖いもの知らずの性格に見えるし、プロ向きかもしれないですね」(セ・リーグスカウトB氏)

 昨年夏の甲子園優勝投手、仙台育英の高橋煌稀はインパクトこそ残せなかったが、一定の評価は得た。

「MAXで146キロ。アベレージで141キロから143キロが出ていた。球の質はいいし、ベースの上で伸びる。完成度が高いピッチャーですね。現時点で上位は微妙かもしれませんが、ドラフトにはかかるでしょう。あとはカットボール、チェンジアップの精度が上がれば、楽しみな存在です」(パ・リーグスカウトA氏)

 さらに大阪桐蔭打線を2安打に抑えた能代松陽の森岡大智もスカウトから高評価を得た。

「ストレートで空振りがとれるいいピッチャーですね。まだ変化球が物足りなので、即プロとなると微妙ですが、大学や社会人経由でプロ入りする素材でしょう」(セ・リーグスカウトD氏)

 打者では、初戦で満塁本塁打を放った沖縄尚学の仲田侑仁も186センチ、96キロの体躯を生かした力強いスイングで評価を上げた。

「貴重な右投右打の大砲。スケールはあるし、打球速度は今大会で一番でした。課題は外の変化球にどう対応するか。グラブさばきも柔らかいし、走塁にも興味を持っている。プロに入って大化けするタイプかもしれないですね」(パ・リーグスカウトC氏)

 一方で、大会前から話題に上がっていた専大松戸の右腕・平野大地と、報徳学園の捕手・堀柊那は、期待が高かった分、厳しい評価になってしまった。まず平野についてはこんな意見があった。

「故障明けで、本調子ではないから余力はあるはず。今大会は変化球中心のピッチングで試合をつくっていたけど、プロのレベルとなるとどうか。もっと腕を振って、空振りをとれるようになってほしいですね」(セ・リーグスカウトB氏)

「この春は変化球中心の投球をしていたけど、変化球がすごいかというとそうでもない。正直、評判になっていたほどのインパクトはなかったです。ただ、まだ投手になって1年ちょっとというから、そこの伸びしろに期待したいですね」(パ・リーグスカウトA氏)

 報徳学園の堀については、こんな声が聞かれた。

「体の強さとスピードがあって、身体能力は高い。バッティングについては、ヘッドが出てこないので今のままだと厳しいですね」(パ・リーグスカウトC氏)

「肩は強いけど、地肩の強さだけで投げている感じがします。もう少しフットワークを使えるようになれば、スローイングの精度も上がってくると思います。バッティングも力任せで、詰まり気味なのが気になりました」(セ・リーグスカウトD氏)

 ともに素材のよさは認められているだけに、期待値が高いゆえの厳しい評価ととらえ、奮起してもらいたい。

 このほか、投手では145キロをマークした履正社の左腕・福田幸之介、東北の145キロ右腕・ハッブス大起、今大会は不調だったが最速149キロをマークしたことがある東邦の本格派右腕・宮國凌空、将来性を高く評価された北陸の右腕・友廣陸、大会前の登録変更でベンチ入りした龍谷大平安の岩井聖......。野手では守備力が高い仙台育英の遊撃手・山田脩也、スイングの形のよさを評価された広陵・小林隼翔らが、夏まで追いかける存在として名前が挙がった。

 大学生に好素材の選手が多くいると言われている今年のドラフト。そこに高校生がどこまで食い込めるか。この世代は下級生時に新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けており、実戦不足は否めない。それだけに経験を積めば、まだまだ大きく伸びる可能性を秘めている。今回、甲子園に出場していない選手も含め、彼らの成長に期待したい。