NPB通算54勝、昨季までロッテで11年間投手コーチを務めた川越英隆さん オリックスとロッテで通算13年プレーした川越英…

NPB通算54勝、昨季までロッテで11年間投手コーチを務めた川越英隆さん

 オリックスとロッテで通算13年プレーした川越英隆さんは、昨年までロッテで投手コーチを務めた。選手の育成で大切にしていたのが「自ら教えない指導」。選手に相談や質問された時をチャンスと捉えていた。そのために選手をじっくり観察して特徴を知ることが重要と強調する。

 オリックスで入団1年目に11勝をマークするなど通算54勝を挙げた川越さんは2011年でユニホームを脱ぎ、翌年から11年間、ロッテで投手コーチを務めた。コーチは選手に教えることが仕事とイメージされるが、教え過ぎない指導を心掛けていたという。

「最初は選手を見ているだけです。故障につながるような投げ方をしている場合のみ指摘していました」

 コントロールの安定しない投手を見れば、指導者はフォームを修正したくなる。しかし、川越さんは「長所が消えてしまう可能性があります。すぐに指導者が手を入れるのではなく、選手をよく観察して特徴を知ることが大切だと思っています」と語る。ロッテでは他のコーチと情報を共有し、しばらく静観していた選手もいたという。

 現在49歳の川越さんは、自身の現役時代と今の選手は育ってきた環境が大きく違うと考えている。根拠や選択肢を示して信頼関係を築かなければ、今の選手は動かないように映った。一方で、理解して納得すれば自ら動く積極性や自主性を感じた。

「選手に『やれ!』とは言いません。理由を説明して提案すると、現状が上手くいっていない選手は必ず試します。そして、手応えがあると自分から続けるようになります」

指導者の役割は「練習の意図を伝えて選手のやる気を高めること」

 川越さんの指導は「待つスタイル」。選手が「どうしたら良いですか?」と聞いてきた時をチャンスととらえた。「質問や相談してくる時、選手は聞く耳を持っています」。普段から選手の課題を把握し、修正点や練習方法をアドバイスする準備をしておく。そして、相談を受けた時に提案する。

 選手が納得する理由や選択肢を示し、修正に取り組んでもらうためには、指導者側の学びが欠かせない。川越さんはトラックマンやラプソードといった最新機器のデータ活用法やデータと選手の動きをリンクさせた分析など、新しい知識を積極的に取り入れた。

「今は情報のスピードも量も自分の現役時代とは比べものになりません。学ばない指導者は置いていかれます。最先端の知識や技術と昔ながらの良い部分を融合させた指導が理想です」

 データや映像を活用して、どこに改善ポイントがあるかを説明すると選手は納得する。良い時と悪い時を客観的に比較できるのも、今の時代ならではのメリット。川越さんは「練習の意図を伝えて選手のやる気を高めることが指導者の役割だと思っています」と話す。

 ロッテのコーチを退き、今年からは横浜市で室内練習場を運営する「tsuzuki BASE」の野球スクールで投手担当のパーソナルコーチを務めている。指導の幅を広げようと、メンタルトレーニングやビジョントレーニングの勉強も始めている。学びを止めることはない。(間淳 / Jun Aida)