ラグビーワールドカップ2023「Road to France」<02>梶村祐介(横浜キヤノンイーグルス)後編エディージャパンに呼ばれた「天才高校生」 2021年7月、梶村祐介が東京サンゴリアスを退団するというニュースは、ラグビー関係者を大い…

ラグビーワールドカップ2023「Road to France」<02>
梶村祐介(横浜キヤノンイーグルス)後編

エディージャパンに呼ばれた「天才高校生」

 2021年7月、梶村祐介が東京サンゴリアスを退団するというニュースは、ラグビー関係者を大いに驚かせた──。

 当時25歳。次のワールドカップまで残り2年に迫るというタイミング。その決断には大きな葛藤があったという。

 すべては、自身の成長のため。そして、ワールドカップ出場のため──。夢を追いかけ続ける27歳の本音に耳を傾けた。

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梶村祐介●1995年9月13日生まれ・兵庫県伊丹市出身

── 梶村選手は明治大を卒業した2018年、東京サンゴリアスに入団。3シーズンをプレーしたのち、2021年に横浜キヤノンイーグルスへ移籍しました。

「サンゴリアスに入った時は社員選手で、3年目はプロ選手になりました。日本代表CTBの(中村)亮土さんと同じチームに入ったので、あれだけキャリアを積んだ選手を相手に試合に出られるかと(周囲から)言われました。

 実際、なかなか簡単に出られないので、出場時間はどうしても減ってしまう。しかも当時、キャプテンを務めていた亮土さんのパフォーマンスがめちゃくちゃよくて、自分の評価はなかなか変わりづらいと考えていました」

── なぜ、移籍という決断を下したのですか?

「2019年ワールドカップにギリギリで選ばれなくて、次の年はコロナ禍の影響で途中にシーズンが中断。その次の年のリーグ戦では4試合(先発3試合、リザーブ1試合)しか出られず、プレーオフ準決勝のクボタ戦でも10分しか試合に出ることができなかった。

 ゲームが全然できてない......と感じていたんです。その時はメンタリティもよくなくて、いいパフォーマンスを出せる状態ではなかったと思います。

 それでも、ジャパンに呼ばれた。そのギャップに自分でもビックリしました。これで(日本代表に)呼ばれるのだったら、ちゃんと試合に出られるところに行って、経験を積んでパフォーマンスを出せば、もっと勝負できるようになると思うようになったんです。

 そういう意味で、チームを出てもう1回、モチベーションが高い状態でラグビーをしたいと思うようになりました。それが移籍を決断した経緯です」

── 移籍する時はかなり悩んだのでは?

「はい、相当に悩みましたね。サンゴリアスには亮土さんだけでなく、ギッツ(元オーストラリア代表CTBマット・ギタウ)もいたし、オーストラリア代表CTBサム・ケレビもいた。すごく恵まれた環境だったと思います。

 だから、簡単には答えを出せなかった。それまでは正直、『サンゴリアスでキャリアを終えよう』と考えていたので......。数年前は移籍するとは思ってもいなかったですね。

 その当時、妻のお腹の中に子どもがいたんです。そこで『移籍しようと思っている』と話したら、妻は『むしろ移籍したほうがいい』と言ってくれました。その言葉で『家族のサポートがあるならやっていけるな』と思い、決心がつきました。

 サンゴリアスとの契約は残っていました。でも、それを解消して移籍するという形を取らせてもらいました」

── キヤノンに来てからは、ほぼフル出場です。

「リーグがプロ化していくなかで、自分も勝負したいなと思っていました。移籍してよかったと改めて感じています。昨季も今季も、ほぼすべての試合で先発として出場することができましたので。出られない時を考えると、本当にこんな幸せなことはないと思っています。

 ラグビーは試合に出ていない選手がチームを支えていることも多いですが、プレーヤーである以上、やはりグラウンドに立たないといけない。『環境を変える』というのは、プレーヤーとして大事な選択肢のひとつです。

 僕の移籍をきっかけに、試合に出られなくてくすぶっている人に対して『移籍は悪いことじゃない』というメッセージを少しは伝えられたかな......。そういう意味では、いい移籍の例を作ってよかったなと思っています」

── トップリーグからリーグワンとなり、選手の移籍市場は活性化されましたね。

「正直、当時は『移籍したい』と言いつつもあんまりいいイメージはなく、なんだかんだ言ったって最初に入ったチームで終わるのが一番いいと思っていました。ですが、今では『移籍はプロの権利』なので、別に悪いことではない。いろんなチームに渡り歩いて活躍している選手もいるので、とてもいい傾向だと思っています」

── しかもイーグルスには、10番に日本代表70キャップの田村優選手がいて、13番に南アフリカ代表58キャップのCTBジェシー・クリエル選手が在籍しています。ふたりに挟まれて12番でプレーしている心境はどうですか?

「本当に恵まれていると思いますね。(田村)優さんはアタックに関して何でもできるので言うこともありませんし、今季はディフェンスでもチームをリードしてくれています。優さんについていくためには、自分もスキルを上げないといけない。優さんは僕のスタンダードを上げてくれる選手です。

 一方、ジェシーはフットワークとボールを持っていない時のワークレイトがすごく高い選手。ディフェンス時の味方のコントロールもすごく、ディフェンスが突破されても一番に自陣に戻ります。そういうところは、身体能力に関係なくできるメンタルの分野ですよね。

 僕が目標としている選手は、CTB立川(理道/クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)さんとCTB村田(大志/元サンゴリアス)さん。相手が嫌がることをやり続けるという点では、ジェシーはそのふたりにも共通しています」

── 今季からキャプテンにも就任しました。

「以前の自分だと、パフォーマンスのいい試合が続いていても、いきなりパフォーマンスの悪い試合になったりしていました。しかし、今季はそこまで悪かったという試合があまりないので、パフォーマンスに一貫性が出てきたと感じています。

 プレーが安定しているのは、チームにとてもいいこと。キャプテンになったことで負けが続くとストレスにもなったりしますが、しっかりとパフォーマンスで引っ張っていきたいです」

── 今季は2019年ワールドカップで南アフリカ代表の優勝に貢献したSH(スクラムハーフ)ファフ・デ・クラーク選手も加入しました。

「どこからでも何かしら狙っている選手なので、こっちも気が抜けないですね(笑)。彼の強気な姿勢はチームをすごくいい方向に導いてくれると思います。練習でも手を抜いたりすることは全然しないですし。いつも100%でチームのために動いてくれる。頼もしい存在です」

── プロ選手になって、特に気にかけていることはありますか?

「食事や栄養面に関しては、より気をつけるようになりました。僕は食べるものが毎日、一緒なんです。イーグルスに来てからは『無水カレー』を自分で作って食べています。

 鶏の胸肉や牛スジを入れて、カロリーの低いルーを使って、水を一切使わないで、トマトや玉ねぎの水分だけで作る。切って鍋に入れるだけなので調理は簡単です。

 チーム練習がある時は昼食がクラブハウスで出るので夜だけカレーを食べますが、休みの日とか3食、カレーを食べる時もあります。無水カレーを食べておけば、ある程度の栄養はカバーできますから。副菜も少しは食べますが、メインはカレーです(笑)」

── ラグビー選手としては何歳までプレーしたいと思っていますか?

「今年28歳になりますが、今はまだまだキヤノンで頑張りたいという気持ちです。ただ、40歳までプレーしたい......とはなかなか言えないですね(苦笑)。

 今のところ、ひざなど大きなケガはしていないですし、これからどうなるかわからないですが、1歳半の娘にプレーを覚えておいてもらえるくらい......35歳か36歳くらいまでは現役選手でいたいですね」

── 最後に、改めて2023年ワールドカップへの想いを聞かせてください。

「僕はまだ代表キャップ2で、強豪とのテストマッチの経験もあまりありません。でも、日本代表に呼んでもらっているということは、コーチ陣に見てもらえているということなので、そこはポジティブに捉えています。グラウンド上で一番走っている、どこを見ても顔を出している......と思われるプレーヤーになりたい。

 ワールドカップに出場するのは簡単じゃないこともわかっています。だからこそ、最後のチャンスだと思って日々プレーしています。日本代表メンバーは少しずつ固まってきているので、リーグワンでの頑張りを見てもらうしか(選ばれる)可能性はない。

 リーグワンでしっかりとしたパフォーマンスを残して、イーグルスをトップ4に連れていくことが今の目標です。それが、ワールドカップ出場にも近づくと思っています」

<了>

【profile】
梶村祐介(かじむら・ゆうすけ)
1995月9月13日生まれ、兵庫県伊丹市出身。報徳学園高→明治大を経て2018年にサントリーサンゴリアスに加入。日本代表歴は2018年11月のロシア戦で初キャップを獲得。2021年にサンウルブズのメンバーとなり、同年7月に横浜キヤノンイーグルスに加入する。ポジション=CTBセンター。身長181cm、体重95kg。