辻発彦が語る「走・攻・守」〜守備編 現役時代、西武黄金時代の「不動の二塁手」として、パ・リーグ最多のゴールデングラブ賞8…

辻発彦が語る「走・攻・守」〜守備編

 現役時代、西武黄金時代の「不動の二塁手」として、パ・リーグ最多のゴールデングラブ賞8度受賞した辻発彦氏。ポジショニング、捕球の技術、スローイング、二遊間コンビなど、守備の極意を訊いた。また、「守備の名手ベストナイン」も選出してもらった。

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堅実な守備で日本のWBC優勝に貢献した源田壮亮

【守備の基本はアウトにすること】

── 辻さんがプロ入りした1984年、西武は守備の名手だった広岡達朗さんが監督でした。厳しい教えだったと聞きますが、どんなことを教わりましたか。

辻 細かく「こうやって」というのはなかったですね。守備はそういうものだと、私は思います。選手に教えるとき、「基本はこういう形で」「こういう手の出し方で」という話はしますが、野球はすべて動きのなかで完成させるものです。捕球、送球がビシッと決まっていなければならないことはありません。要するに、「打球をいかに捕って、ラクにスローイングができるか」です。一連の流れのなかでイメージを膨らませる。

── 以前、広岡さんに「守備論を教えてください」と聞いたら、「パッと捕って、ピュッと投げるんだ」と。

辻 そういう考え方ですよ。まずは打球の正面に入る。いいポジション、いいラインに入る。打球を捕る際、バウンドに合わせて右足をどこに着くかが大事になります。打球が体の近くにきている時にまだ右足が地面に着いていなかったら、打球に差し込まれ、動きが止まってしまいます。そのための準備として、早めにタイミングをとります。

── 辻さんの「守備のポリシー」をひと言で表すとなんですか。

辻 一番大事なことは「打ちとった打球は確実にアウトにすること」です。ヒットだなと思った打球を捕ってアウトにすれば投手はうれしいだろうし、こちらも助けたなという気持ちになります。でも、あくまでファインプレーは結果的なもの。それよりも打ちとった打球は100%アウトにするのが、一番大事なことだと思っています。

【逆シングルは最終手段】

── 辻さんは、高校時代は遊撃手、社会人(日本通運浦和)では三塁手でしたが、プロに入って二塁手になりました。難しくなかったですか。

辻 最初は戸惑いましたよ。サードやショートとまったく反対の動きですし、三遊間に飛んだ打球は一塁のバックアップにいかないといけないですから。私の入団時、ベテランの山崎裕之さんがもう38歳でした。そもそも社会人時代の都市対抗で1試合だけ二塁を守ったのを、西武のスカウトの方が見ていて、「二塁手でいけるだろう」となったそうなんです。

── ゲッツーの時のジャンピングスローなど、辻さんのプレーはじつに華麗でした。

辻 慣れていなかったので、とくに二塁牽制の入り方が難しかったです。ショートは極端にスピードを落とさなくても流れで入ってタッチできますが、セカンドはスピードを落としながら静止して、走者にタッチしなければならない。プロとなると、投手のターン、送球も速いですから。今では考えられないですが、走者一塁で二塁手が一塁ベースに入っての牽制もやっていたんですよ。

 当時の守備コーチは、日野茂さん、広瀬宰さんでした。ある時、ショートで日野コーチのノックを受けたことがあったんですが、三遊間のゴロを何度も弾いてしまいました。すると「そんなの逆シングルで捕ればいいじゃないか。頑固なヤツだな」と言われました。私としては、正面に入れる守備範囲を広げたいという思いがあって、逆シングルやジャンピングスローは最終手段でした。だから、そうしないと一塁に投げられなかっただけで、意識的にやっていたことではなかったです。

── 打球が飛んでくる方向を予測して守備位置を変える"ポジショニング"についてはどう思いますか。

辻 最近の「○○シフト」のように、私は守備位置を極端には変えませんでした。ふつうに守っていたら捕れた打球を、移動したために抜かれたら投手はショックでしょう。センター方向に打球が飛びそうだと思った時は、いつもより右側のスタートを早くする意識を持っていました。また、投手の投げる球によってポジションを変えることもしませんでした。たとえば右打者に対して捕手のサインで右に動いたら、バッターに「次は内角だ」と教えているようなものです。だから投手が投げる瞬間、打者にわからないようにスッと動くんです。そもそも自軍投手の球速、打者のスイングを見ると、だいたい打球方向ってわかるものです。

── では、菊池涼介選手(広島)の極端なポジショニングを見てどう思いますか。

辻 良し悪しだと思います。ただ、菊池の身体能力はすごいと思います。あれだけの脚力があるのだから、定位置に守っていても追いつくだろうと思ってしまいます。

【二遊間コンビの極意】

── 辻さんの現役時代、パ・リーグの二塁手は大石大二郎さん(近鉄)、西村徳文さん(ロッテ)、白井一幸さん(日本ハム)といった名手がたくさんおられました。

辻 みんな足のある選手で、守備範囲が広かった。私を含めたあの時代の二塁手を、周囲がどう見ていたかを知りたいですね。みんないい選手だったので「レベルが高いな」という意識はありました。ただ守備に関しては、「ほかの二塁手には負けたくない」という気持ちがありました。

── ゴールデングラブ賞に対する思い入れはいかがでしたか。

辻 ゴールデングラブ賞を初めていただいた時(1986年)はすごくうれしかったです。あと94年に白井選手が守備率.997のリーグ記録をつくり、現在に至るまで抜かれていません。あの時、日本ハムの大沢啓二監督(当時)が「なぜ白井がゴールデングラブじゃないんだ」と発言されたことを覚えています。でも守備は「率」だけではないと、私は思います。捕れるか捕れないか、ギリギリの打球にトライするわけです。ふだんから正面でなく逆シングルで捕っていると、やはり肝心なところで届かないでヒットになります。

── ヒットなら守備率は下がらない。逆に、結果的にエラーと記録されても、ギリギリの打球に追いついたからこそのエラー。数字だけでは推し測れないということですね。

辻 そういうことです。私は肩が強いほうではなかったので、そのおかげで守備はうまくなったと思います。できるだけ投げやすいところで捕る、送球しやすい捕り方をいつも考えていましたから。打球を素早くさばいて、ステップを速く踏めば強肩選手と同等に戦えるわけじゃないですか。ゲッツーもそうです。二遊間の選手はステップもハンドリングも速くしないと、昔は危険なスライディングで潰されていましたから。

── 二遊間コンビを組んだのは石毛宏典さん、田辺徳雄さんでした。

辻 二遊間というのは、ゲッツーという流れのなかで相手に合わせられる選手にならないといけません。打球によっていろいろ条件があって、ベースに入るのが遅れることもある。そうなるとテンポを置いて投げないといけないし、相手が送球しやすいところに投げないといけない。とにかく二遊間はいろんな要素が必要とされます。

 社会人時代、西武とよく練習試合をしました。その時、日本通運の監督によく言われました。「おまえと石毛がコンビを組んだら、日本一の二遊間になる。とにかく石毛の動きを見ておけ」と。石毛さんのスローイングの正確さは抜群でしたね。

【源田壮亮の守備力の高さ】

── 辻さんが西武の監督に就任した2017年、源田壮亮選手がドラフト3位で入団しました。監督時代を振り返った時に「源田選手の存在が大きかった」という話をされていました。それまで5年連続ゴールデングラブ賞の今宮健太選手(ソフトバンク)を押しのけ、源田選手が2018年から5年連続で受賞しています。源田選手のうまさはどこにあるのでしょうか。

辻 源田がすごいのは、捕った瞬間に送球できることです。先述したように、送球する形でボールを捕りにいける。一方、ゆっくりしても大丈夫なプレーも当然あります。つまり、源田は打球に応じた的確なプレーができるのです。それに伴うボディバランスもすばらしい。

── 外崎修汰選手も、辻さんの監督時代に二塁手で2度ゴールデングラブ賞に輝いています。

辻 浅村(栄斗)が楽天に移籍したあと、外崎だったらいけるなということで二塁に固定しました。パ・リーグの二塁手は、ほかにも安達了一選手(オリックス)がうまいですし、中村奨吾選手(ロッテ)も堅実です。ただ、ひと際うまい選手となると......なかなか名前が挙がってこないですね。

── では最後に、辻さんが選ぶ「守備の名手ベストナイン」をお願いします。

辻 難しいですね......私が見てきた選手となると、こうなります。

投手 涌井秀章(中日)
捕手 古田敦也(ヤクルト)
一塁 中田翔(巨人)
二塁 菊池涼介(広島)
三塁 中村紀洋(中日ほか)
遊撃 源田壮亮(西武)
外野 秋山幸二(西武ほか)
外野 イチロー(オリックスほか)
外野 辰己涼介(楽天)