新車で諸経費コミコミ200万円前後まで……という手頃な予算で乗ることができて、多くのクルマ通から「コイツ、わかっているな」と思ってもらえる日本車は、現在2台ある。1台がマツダ・デミオ(第122回参照)であり、な…

 新車で諸経費コミコミ200万円前後まで……という手頃な予算で乗ることができて、多くのクルマ通から「コイツ、わかっているな」と思ってもらえる日本車は、現在2台ある。1台がマツダ・デミオ(第122回参照)であり、なにを隠そう、もう1台がこのスズキ・スイフトだあああ……と、私は断言してみたい。

 ここでも何度か書いているが、軽自動車では押しも押されもせぬビッグネームのスズキも、登録車(=白ナンバー)では、知る人ぞ知る……のオタクなツボグルマが多い。

 スズキの白ナンバー車は、ごく一部の例外を除いては、日本より海外を主戦場にするグローバルカーがそろう。経済ニュースに興味がある人なら、スズキの生命線がインド市場だと知っている向きも多いはず。実際、スイフトも総生産台数の半分以上をインドで売る。国別のシェアでそれに続くのが日本だが、それとほぼ同数のスイフトが欧州でもさばかれる。

 それでいて、今のスズキ(の四輪車)は北米市場からは撤退している。日本の自動車メーカーの大半は、なんだかんだいっても北米市場に依存しているが、スズキは例外なのだ。スズキの白ナンバー車がちょっと個性的なのは、そんなところにも理由がありそうだ。

 アメリカでは1台も売られず、欧州市場が地元日本と同じくらい重視されるスイフトは、これまでも”欧州風味”を前面に押し出したクルマづくりをしてきた。それがインドでも、日本でも、そして欧州でもウケた。

 というわけで、今年初頭に発売された最新型のスイフトも欧州風味を押す。ピョコンと立ち上がったフロントウインドウや縦型ランプ、大径タイヤ……といった、これまでのデザインテイストも忠実に守っている。

 スイフトは数ある国産コンパクトカーでも比較的小さな部類に入るが、新型では(わずかだが)さらに小さくなったのがツボである。

 クルマという商品はある程度ヒットすると、販売現場からは「室内がせまい、トランクに○○が入らないと、お客にいわれた」だの「もっと高級にすれば、もっと売れる」だのと、大型化圧力がどんどん高まるものなのだ。そういう圧力に屈して必要以上に立派になって、いつの間にか本来のツボが失われてしまう例は枚挙にいとまがないが、スイフトはその正反対。

 もっとも、スズキも販売現場の声を無視したわけではなく、そこにバレーノ(第125回参照)という別モデルをあてがうことで、スイフトはスイフトらしいままでいられるようにしたのが見識である。

 新しいスイフトは小さいうえに、メチャクチャ軽い。同じクラスの他社平均値より、おおざっぱに約100kgも軽い! これは素直にスゴい。

 スイフト……というかスズキのエラいところは、アルミやカーボンなどの高価な素材はまったく使わず、昔ながらの鉄素材だけで、その驚きの軽さを実現した点である。鉄の値段はなんだかんだいって”キロあたりいくら”の世界だから、これは「鉄のボディを軽くすれば、運動性能や燃費が良くなって、コストも下がる」という考えでもある。

 こうしたケチケチ思想(この場合はホメ言葉である)もスズキ伝統のツボである。

 これまでのスイフトは機動性を最優先したバシッと引き締まったアシまわりが良くも悪くも特徴だったが、この最新型のそれは意外と柔らかめである。まあ、そのぶん優しい乗り心地になったともいえるが、この日本であえてスズキの白ナンバー車を買うようなオタク筋(失礼!)からは「そこは販売現場の声を取り入れて、軟弱になったのか?」とツッコミが入りそうな気がしないでもない。

 ただ、何度もいうが、スイフトはとにかく軽い。走り好きのクルマオタクにとって「軽さは七難隠す」というのも一方の真実であり、新型スイフトの走りもアシの微妙なサジ加減の良し悪しを吹き飛ばすくらいに軽快で、小気味いい。そしてスピードが高まるほど、ボディの上下動やステアリングの手応えが高まって安心感が増すのは、やはりスイフト伝統にして欧州仕込みのツボである。

 そんなスイフトRS系で、高速直進性やコーナリングにいい意味で欧州風味が濃厚なのは、1.0リッター3気筒ターボを積む”RSt”と、個人的には思う。

 この3気筒ターボはほかのエンジンより少しだけ重いが、それが功を奏しているっぽい。で、その性能は自然吸気1.5リッター相当だが、シツコイようだがスイフトは軽いので、実際の動力性能は、先代の本格スポーツモデルのスイフトスポーツ(第39回参照)をしのぐほどの速さを見せる。やっぱり軽さは正義だ。

 というわけで、スイフトは「安い、軽い、そして(軽いから)速い」と、庶民派クルマオタクにとって三拍子のツボがそろったクルマである。

【スペック】

スズキ・スイフトRSt セーフティパッケージ装着車

全長×全幅×全高:3840×1695×1500mmホイールベース:2450mm車両重量:930kgエンジン:直列3気筒DOHCターボ・996cc最高出力:102ps/5500rpm最大トルク:150Nm/1700-4500rpm変速機:6ATJC08モード燃費:20.0km/L乗車定員:5名車両本体価格:180万360円