選抜高校野球大会(センバツ)もベスト8進出チームが決まりつつあり、終盤戦へと突入している。優勝候補筆頭の大阪桐蔭は3月…
選抜高校野球大会(センバツ)もベスト8進出チームが決まりつつあり、終盤戦へと突入している。優勝候補筆頭の大阪桐蔭は3月27日、能代松陽(秋田)との3回戦を戦う。
だが、「能代松陽」と聞いて、センバツ初戦の戦いぶりを思い出せる野球ファンはほとんどいないのではないだろうか?
というのも、能代松陽が石橋(栃木)とのセンバツ初戦を3対0で制した3月21日は、日本時間8時からWBC準決勝・日本対メキシコの試合が行なわれていた。多くの野球ファンは侍ジャパンの激闘に目を奪われ、能代松陽が甲子園でどんな戦いをしたのか把握していないと思われる。

優勝候補の大阪桐蔭に挑む能代松陽の森岡大智
【被安打2、奪三振12の完封劇】
侍ジャパンの衝撃に比べれば当然インパクトは弱いものの、能代松陽のエース・森岡大智の投球はもっと騒がれていいレベルだった。
森岡は身長184センチ、体重81キロというマウンド映えする体格の右投手。9回を投げて許したランナーは内野安打の2人だけ。無四球で12三振を奪い、見事な完封勝利を挙げた。21世紀枠で出場した石橋が守備力を武器にするスタイルだった点を差し引いても、鮮烈な投球だった。
森岡は2年生だった昨夏の甲子園でもマウンドに上がっている。だが、当時の記憶は苦々しいものだったと本人は明かす。
「球の勢いも変化球のキレも足りなくて、甘く入ったボールは全部ヒットにされてしまいました」
聖望学園(埼玉)との初戦、0対3の5回裏からリリーフして4回を投げ、8安打を浴びて5失点。全国レベルの洗礼を受けたのだった。
この冬場、森岡はレベルアップのためにフォーム改造に着手している。テーマは「抜けないボール」の習得だった。指にかかったストレートを目指すため、最適な腕の振りの角度を探した。その結果、下がりがちだった右ヒジを振る位置が高くなり、ボールに角度が出てきた。捕手の柴田大翔はその成果をこう語る。
「今まで抜けることが多かったボールの回転がよくなって、キレも強さも増しました」
石橋戦での球速は本来の最速144キロには届かず、最速141キロ止まり。それでも、球威は段違いに増していた。試合後、柴田は裂傷を負った左手の人差し指を報道陣に示しながらこう語った。
「捕っていて指が切れてしまいました。今までこんなことはなかったんですけど。指は痛いですけど、強いボールがくるようになってよかったです」
【大阪桐蔭戦のカギはカットボール】
さらに森岡は、もともと「変化球のほうが自信はあります」と語るほど変化球を得意にしている。とくに120キロ台中盤で鋭く変化するカットボールは「カウントもとれるし、空振りもとれる」と自信を持っている。
おそらくこのボールが、大阪桐蔭戦での大きなポイントになるだろう。捕手の柴田はこんな言葉を口にする。
「カットボールが抜けてしまうと甘く入って長打になるので、低めに集めて打たせてとりたいですね」
3月20日の大阪桐蔭の初戦(敦賀気比戦)を、能代松陽の選手たちはレフトポール付近の外野席で観戦したという。大阪桐蔭打線の印象について、森岡は「1番から9番まで切れ目がない」と語り、柴田は「南川(幸輝)くんなど全員がすばらしいバッター」と語った。
それでも、森岡には貫きたいことがあるという。
「自分たちの野球は『全員野球』なので。ベンチから全員で声を出して、全員で戦うことを忘れないようにしたいです」
一方の柴田は「王者への挑戦権を得られてワクワクしています」と不敵に笑った。森岡が本来の実力を出しきれば、大阪桐蔭といえども攻略は容易ではない。どんな試合展開が待ち受けているだろうか。
なお、今後の進路のビジョンを聞いてみると、森岡はこう答えている。
「何も考えていません。まずは今の高校野球を3年間やりきることだけ考えています」
無欲の長身右腕がガムシャラに投げ続けた先には、さらなる高みへの扉が続いているはずだ。