フリーでは2位ながら、総合で世界選手権連覇を果たした坂本花織 昨年12月の全日本選手権で大会2連覇を果たした全日本女王の坂本花織。24日、世界選の女子フリーでは2つのジャンプミスを出して145.37点の2位に甘んじたが、ショートプログラム(…



フリーでは2位ながら、総合で世界選手権連覇を果たした坂本花織

 昨年12月の全日本選手権で大会2連覇を果たした全日本女王の坂本花織。24日、世界選の女子フリーでは2つのジャンプミスを出して145.37点の2位に甘んじたが、ショートプログラム(SP)首位発進の"貯金"もあって合計224.61点で総合優勝を成し遂げた。2位との差は3.67点差まで縮められたが、追いかけきた韓国期待の若手イ・ヘインを抑えて逃げきった。

 日本勢女子では史上初めてとなる世界選手権の連覇。これは、女子で初めてトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させた伊藤みどりやトリノ五輪金メダルの荒川静香、そしてバンクーバー五輪銀メダルの浅田真央といった日本フィギュア界のレジェンドたちも達成していない快挙である。

 しかし、演技後のキス&クライで結果を待つ間は、ミスをした不甲斐ない自分に悔しさが募ったのか涙を流し、得点が出て優勝が決まったあとも、嬉しさのなかに悔しさの入り交じったような複雑な表情を見せた。

「パッとメダルを見たら嬉しいんですけど、パッと顔を上げたら悔しさが戻る(笑)。金メダルが目に入らなかったら悔しいけど、金メダルを見たら優勝したんだなという感じです。表彰台では、嬉しいけど悔しいなという複雑な気持ちで立っていました。

 ショートプログラムで、2位と5.62点差があってよかった。後半の連続ジャンプで3回転フリップが1回転になったあとに、しっかり3回転トーループをつけられたことが(勝利を引き寄せる点で)大きかったかなと思います」

 22日のSPでは、今季世界最高の79.24点を出してトップだった。だが、キス&クライで得点を待っていた坂本は、結果が出た瞬間、昨年の世界選手権で出した自己ベストの80.32点にわずかに届かなかった不満の気持ちからか、親指と人差し指で"距離"を測るような仕草を見せていた。

 目標としてきた大会連覇に王手をかけてのフリー曲は『エラスティック・ハート』。冒頭のダブルアクセルをいつもどおり鮮やかに跳ぶと、続く3回転ルッツと3回転サルコウも軽やかに決めた。GOE(出来栄え点)では1.46点、1.94点、1.41点と、いずれも1点台半ばの高得点が並んだ。2本のスピンとステップではレベル4を獲得するなど勢いに乗って、このまま目標だったノーミス演技をまたも繰り出せるかと思った矢先だった。

【経験を積んだからこその3回転トーループ】

 基礎点が1.1倍となる後半最初の連続ジャンプで失敗。フリップ+トーループの連続3回転の予定が、1本目の3回転がパンク(回転が抜ける)して1回転になる痛恨のミスを犯した。

 坂本は、同じさいたまスーパーアリーナで開催された4年前の世界選手権で、SPで2位発進しながら、今回と全く同じような失敗をしたうえ、2本目のジャンプは跳ぶことができなかったために、総合5位に終わっていた。

 しかし、今回はここからが現世界女王の真骨頂だった。4年前のリベンジをすることが今大会に向けた大きな目標だっただけに、今回だけは同じ過ちを犯さなかった。フリップが1回転となったあとの2本目で、3回転トーループを成功させた。シニアに転向したこの6年間、さまざまな経験を積んできたからこそ「成功させることができた」と胸を張る22歳がそこにいた。

「(ジャンプの失敗は)何があったのかわからない。特に(世界選手権で)4年前にミスしたからという考えもなく、普通に走っていただけなんですけど、何かふわーっという感じで......。緊張はずっとしていました。キス&クライではSPの差がどう縮まってしまうか、焦りました。

 今回のフリーは、本来であればノーミスにして笑顔で終わりたかったんですけど、4年前の世界選手権フリーと同じミスをしてしまって、すごく悔しかったです。だけど、何とかその後は落ち着いて、連続ジャンプの3回転をつけたりとか、リカバリーをしっかりできたりとかして、そこは4年前より成長したかなと思いました」

 いつも演技について辛口に評価する中野園子コーチは、坂本の失敗と連覇について聞かれると、開口一番、逆質問してきた。

「どうしましょう? 来年は課題が残ったので、きっちりやってくれるでしょう。SPを頑張ったから、目標の大会2連覇につながったと思います。今日(フリー)はスピードをもう少し出してほしかった。練習をしっかりしてきたので、こんな失敗は見たことがなかった。ただ、3回転トーループをとっさにちゃんと跳んで決めたのは偉かったです」

 いずれにしても、トリプルアクセルや4回転ジャンプという大技を跳ばない選手にとっては、これからもミスをしないことが最大の武器となることは間違いない。

「もっともっと強い選手になれるように頑張ります(笑)。どんな状況でも自分のベストな演技ができるのが強い選手だと思うので、緊張しても焦っても自分を見失わずに、最後まできちんと滑ることができる選手になりたいです」

 どこを目指して行くのかを十分に理解したうえで、坂本は今後への意気込みをこう語った。