●リズムダンスは11位スタート 3月24日、さいたまスーパーアリーナ。フィギュアスケートの世界選手権、リズムダンス(RD)で村元哉中・高橋大輔のカップルは72.92点と得点をたたき出している。世界フィギュアのアイスダンスRDで演技する村元哉…

●リズムダンスは11位スタート

 3月24日、さいたまスーパーアリーナ。フィギュアスケートの世界選手権、リズムダンス(RD)で村元哉中・高橋大輔のカップルは72.92点と得点をたたき出している。



世界フィギュアのアイスダンスRDで演技する村元哉中・高橋大輔

"かなだい"という愛称で呼ばれるふたりは、堂々の11位スタート。2度目の世界選手権で「(シングルの)金メダルを獲るくらい大変」と高橋が言う、大目標のトップ10入りに迫る勢いだ。

 カップル結成3年目、どのような実を結ぶのか?

「大丈夫」

 RD前の取材、高橋はそう繰り返していた。自らの言葉に後押しされるようだったーー。

 RDで第5グループに入ったかなだいは、リンクインの順番を待つ間、リンクサイドでやや緊張した面持ちだった。

 世界選手権という舞台もあるが、久しぶりに大勢の観客が入り、歓声が乱れ飛ぶ。戻ってきた日常に興奮したか。『コンガ』が会場に鳴り響いた時、気負いが出たという。

●ミスのあとに見えた「歴史」

「僕は最初のツイズルで回りすぎてしまって」

 高橋は正直にそう告白している。

「前半は緊張感もあって、うまく合わず。ツイズルの途中でカウント忘れて、『何回、回ったっけ? 哉中ちゃん、もう終わっているし、間に合わない!』って焦って(笑)。

 スローモーションになるくらい、めちゃくちゃ色々考えていました。ヒヤッとしましたね。アイスダンス1年目だったら、焦ってしまい、最後まで引きずっていたかもしれません」

 そこでのリカバリーに、彼らの「歴史」が見える。

 村元の反応も、信頼し合うパートナーだからこそだった。

「あれ、大ちゃん、(ツイズルを)1個多く回ってる。はてなって感じでした」

 村元が心境を明かすと、取材現場が笑いで包まれた。高橋も目を合わせ、いたずらが見つかったような照れ笑いだ。

「その時は回りすぎたのか、少しずれたのか、わからなくて。自分の回転が少なかったのか、とも思いましたが、自信を持って滑れていたので。

 ただ、大ちゃんを意識しながら滑っていたし、そこからはうまく合ってきました。ツイズルはレベルもとれていましたし」

 実際、ツイズルはレベル4を獲得していた。そして、ふたりの奏でるリズムは尻上がりによくなっていった。



 日本人特有のアジリティを生かした機動力で、ラテンダンスを演出していた。

「途中までは、ふたりの世界観だったんですけど」

 高橋は言う。

「ミッドラインステップに入る前、足に疲労がくるんで。そこでお客さんの盛り上がりがヘルプになりました。会場の色というか、雰囲気がとてもよくて。落ち着いて、包まれるような」

 軽快なミッドラインステップで、かなだいは観客の心をつかんでいる。空間を共有し、一体感が出た。全員がアイスダンスを楽しむ空気があった。

 その勢いに押されるように、ローテーショナルリフトもレベル4と大きなミスなく締めくくっている。

●フリーへ向け「自信はある」

 結成3年は長くないが、"濃密さ"を感じさせた。ミスの修正力もそうだし、勢いに乗っていく勝負強さというのか。ふたりが培ってきた経験の賜物だ。

「練習してきたことを本番で出しきるってことだけを考えて。それで結果はついてくるはず。

 自分たちを信じて滑りきるって。だから会場に入ってからは、お互い何かを合わすってことはしていません。練習でそれをずっとやってきたので」

 高橋は毅然として語ったが、アイスダンサーの矜持だろう。

 10回目の世界選手権というレジェンドは、シングル時代の記録が燦然と輝いている。当時8回出場し、2010年には日本人男子初の世界王者になった。

 2007年の世界選手権には、『オペラ座の怪人』でフリーを滑っている。

 しかし、彼は過去にとらわれていない。失敗への恐怖も克服し、別種目に転向。時代を超えて歴史をつくり続ける伝説だ。

 ひとりのフィギュアスケーターとして、その突き進む姿勢こそ愛される。

ーー明日(3月25日)のフリー、プログラムの完成形を見せる自信は?

 取材エリアで記者に問われた時、高橋は即答している。

「あります! 言霊です!」

 それに引っ張られるように、隣の村元も「あります」と続けた。

 ふたりには、やるべきことをやってきた自負がある。明るい気持ちで挑むことで、開ける運もあるだろう。

 世界の舞台で戦ってきたふたりは、理論以上に覚悟が決め手になることも承知している。フリーも積極的に挑む覚悟だ。

「『ミスしないように』とか『100%で』って自分を追い込むのではなくて。やってきたことに目を向けて、落ち着いて滑れたら、自分たちはできるはずなので。体力よりもメンタルコントロールが重要かなと考えています」

 高橋は楽観的思考で語った。

「一つひとつのエレメンツをこなすことに集中して。最初から最後まで全部って考えると大変なので」

 村元は違う表現で同じ姿勢を示していた。

 ふたりの呼吸は合っている。

 3月25日、フリーは『オペラ座の怪人』で、時空を超えた物語をつむぎ出す。