●実戦のなかで成長するスタイル 3月22日のフィギュアスケート世界選手権女子ショートプログラム(SP)。大会連覇を狙う坂本花織(シスメックス)の出番は、最後から2番目の34番滑走だった。世界フィギュア女子SPで今季世界最高得点を出した坂本花…

●実戦のなかで成長するスタイル

 3月22日のフィギュアスケート世界選手権女子ショートプログラム(SP)。大会連覇を狙う坂本花織(シスメックス)の出番は、最後から2番目の34番滑走だった。



世界フィギュア女子SPで今季世界最高得点を出した坂本花織

 坂本の前の選手までの結果は、四大陸選手権で優勝したばかりのイ・ヘイン(韓国)の73.62点を筆頭にわずかの差のなかで3人がひしめく接戦。坂本のシーズンベストの75.86点に肉薄する状況だった。

 だが、迎え撃つ坂本の滑りには、風格と言えるような安心感があった。

 ダブルアクセルをいつものように流れのある着氷で決めると、苦手意識を持っている3回転ルッツも1.94点の加点をもらう出来で着実に降りた。続く2本のスピンもレベル4とする。

 そして演技後半の得点源である3回転フリップ+3回転トーループは1.89点の加点のジャンプに。ステップシークエンスものびのびと滑って、最後のレイバックスピンとともにレベル4にする完璧な演技にしてみせた。

 坂本のSPは、ジェイソン・ブラウン(アメリカ)らの振り付けを担当したロヒーン・ワード氏による、ジャネット・ジャクソンメドレーの『Rock With U/Feedback』。

 2018年平昌五輪シーズンから振り付けをしてもらい、北京五輪も含めて坂本花織の世界をつくり上げてきたブノワ・リショー氏から振付師を代える選択をしていた。

「今まで苦手にしていたことを克服したい」という坂本の考えで挑戦したプログラムだが、シーズン前半はなかなか滑りきれずに、自身も難しさを感じていた。

 しかし、昨年12月の全日本選手権のあと、これまでそうしてきたように、試合数を増やして実戦でプログラムを磨き上げていく手法を選んだ。

 1月にはアメリカで開催されたワールドユニバーシティゲームズに出場して2位。さらに、国体で優勝。そして、2月にはオランダのチャレンジカップで優勝と、実戦を積んできた。

「やっぱり試合があると、いい演技をしたいと思って練習にも力が入る。試合がタイトにあれば、それも急ピッチで行なわれるので。それが自分にとっての調子の上げ方としてはいいと思ってます」

●「点数的な限界」を超えるために

 その成果が世界選手権SPできっちり出た。

「きょうは不安もなくしっかり滑りきれた。楽しくできました」

 そう話す坂本の結果は、2位に5.62点差をつける、今シーズン世界最高の79.24点。目標にする大会連覇に大きく前進した。



 それでも、昨年の世界選手権で出した自己ベストの80.32点には届かなかった不満も口にした。

「今シーズンのなかでは一番いい演技ができたかなと思うし、あともうちょっとだったなというのはすごく感じていて。

 きょうはちょっとスピード感がなかったと全体を通して思ったのと、ダブルアクセルの加点が1.37点しかなかった。前大会のように満点(1.65点)がほしかった。そこがちょっと悔しいです」

 前回の世界選手権で、世界歴代6位となる合計236.09点まで到達した坂本は、「大技がなくてもここまでいけるんだという自信にもなったし、私でもできるんだという新たな気持ちになれました」と話していた。

 だが、さらなる進化へ向けては「点数的にはけっこう限界まで近づいてきているので、これからは本当に、極めて、極めて、という感じで難しくなる」とも話していた。そうした思いもあるからこその不満だった。

●日本勢の世界選手権連覇へ

 さらに自身の最大の武器はスピードのある滑りから繰り出すダイナミックなジャンプだと承知していながらも、今回のSPでは十分にできなかった点への反省もある。

「スピードを出してジャンプを跳ぶのはリスクもあるので。スピードを落とせばもちろん跳べるから、安定して跳びたいと思えば思うほどスピードを落として跳んでしまうんです。それがきょうはちょっと出てしまったし、強気になれなかったのかな」

 それでも試合に対しては、高い集中力で臨んでいた。坂本は「この大会に来年の世界選手権へ向けた、国別の出場枠獲得がかかっているということを忘れていた」と笑顔。「みんながそれぞれの演技をしっかりやれば、3枠はかたいと思っている」とあっさり言った。

「今回は世界選手権を連覇したいというより、同じさいたまスーパーアリーナ開催だった4年前の世界選手権の悔しさをはらしたいと思っています。

 4年前はベストを出そうと思って追い込みに追い込みをかけて万全な準備をして挑み、ショート2位発進のあとのフリーでミスをして5位。失敗が悔しかった。そのリベンジをすることだけを考えてきました」

 坂本は、SP首位発進に「4年前は2位通過だったけど今回は1位なので、成長したのかなと思います。成長している部分をフリーでもしっかり見せたいと思います」と力強く話した。

 試合前の練習から自信をみなぎらせていた坂本は、日本勢初の世界選手権連覇へ向けて力強いスタートを切った。