あれから15年経った今だからこそ、田口壮(オリックス二軍監督)はようやく真相を明かせるようになった。「行けと言われたから行ったんですけど、あれがなかったら、その次の年は間違いなくなかったと思います」来日2年目の今季、ここまで打率.28…

 あれから15年経った今だからこそ、田口壮(オリックス二軍監督)はようやく真相を明かせるようになった。

「行けと言われたから行ったんですけど、あれがなかったら、その次の年は間違いなくなかったと思います」


来日2年目の今季、ここまで打率.281と結果を残しているブレント・モレル

 田口の言う「あれ」とは、秋にアリゾナ州で開催される教育リーグのことで、おもに18~22歳のマイナー選手が対象になっている。その教育リーグに、渡米1年目のシーズン途中、32歳の田口は行くように命じられたのだ。

「教育リーグに参加している選手の平均年齢は21~22歳ぐらいでしょう。彼らに交じって、32歳のおっちゃんが行くというのは、嫌でしたね。ただ、絶対に行かないとあかんと思っていました。恥ずかしいですけど……」

 2002年の1月、セントルイス・カージナルスと3年契約を結んだ田口は、イチロー、新庄剛志に次いでメジャー3人目の日本人野手となった。同年、初のメジャーキャンプに臨んだ田口は必死にアピールしようとしたが、最初の15打席はノーヒット。結果的に打率.146という成績でオープン戦を終えると、開幕前にまさかのマイナー行きを宣告された。

「僕はアメリカに行って、まず打てなかった。まったく打球が上がらず、なんとかしなきゃいけないと感じていました。バッティングの形ができ上がるまで、時間がかかるんです。3月の終わりに落とされて、4月からまったく打ち方を変えて……。それから4カ月ぐらい経って、少しずつ結果が出るようになりました。教育リーグのときはバッティングの形は完成していたのですが、やはり外国人投手との対戦が圧倒的に少ないわけです。打席数をこなさないと向こうの投手に慣れないんです。シーズンが終わって、2カ月ほど教育リーグでプレーしましたが、その経験があったからこそ、なんとなく打ち方がわかってきたんです。行ったことは正解でした」

 田口は3年契約どころか、結局カージナルスでの6年を含め、メジャーで8年間を過ごした。その間、ワールドシリーズを2度制覇するなど、選手として絶頂期を迎えた。そうした栄誉も32歳のときに教育リーグに行っていなければ、すべてなかったと田口は言う。

 今年、田口は48歳になる。指導者として2年目を迎えたが、あらためて15年前の経験が生きていると語る。

「同じことが日本に来た外国人選手にも当てはまるんです。いきなり日本の野球に対応する選手もいますが、ほとんどの選手は壁にぶち当たります。オープン戦とかはうまくいっても、シーズンに入ったら研究されてしまって、なかなか結果を出せない。近年は1年目で成績を残せなかったら翌年の契約をしてもらえない傾向にあるので、正直、厳しいと思います。もちろん、なかには日本の野球をなめている選手もいます。そういう選手が結果を出せずに1年でクビになるのは仕方ありません。でも、一生懸命で、技術はあるのにアジャストするまでに苦労する選手がいます。そうした選手が1年でクビになるのは、かわいそうだと思いますね」

 ここでブレント・モレルの話になった。モレルは昨年、助っ人としてピッツバーグ・パイレーツからオリックスに入団するも、なかなか結果を出せず、一軍と二軍を往復していた。そのため、田口は3度も指導することになった。

 結局、一軍では94試合に出場し、打率.244、8本塁打、38打点で、三振は88個を喫した。成績だけを見れば、解雇されてもおかしくない数字だ。それでもシーズン終了後、次々と外国人選手が解雇されるなか、モレルは残留が決まった。田口はホッとしたという。

「彼を見ていて、打てるなと思いました。真面目で、日本の野球をなめるようなタイプじゃない。バッティングに関しては、いわゆる”間”があるんですよ。日本の野球にアジャストするためには、その”間”がすごく大事なんです」

 田口は自身の経験を思い出し、アジャストするまでの期間が1年以上あれば、モレルは必ず通用して、オリックスのために貢献するのではないかと思った。

「基本的にバッティングのメカニズムというのができていれば、ある程度は打てるはずなんです。ただ、アメリカと日本とでは、ストレートの平均で10キロぐらい球速差があります。特にアメリカで長くプレーしてきた選手は、速い球に対してどう対応するかを考えるので、どうしても手を早く出してしまう傾向がある。一方、日本の場合は、スピードよりも緩急での勝負が多く、両サイドに投げ分けてくるし、上下の変化も使って攻めてくる。これに対応するには”間”が必要になるんです。

 日本の投手は、ストライクからボールになる球をどうやって振らそうかと考えています。配球面において、そうした特徴を理解していると成績は残せるはずです。それにモレルの場合は、体の強さがあり、パワーもあります。しっかり捉えることができれば、打球は飛ぶわけですよ。成績は残るはずなんです」

 3月2日の練習中に右手人さし指を骨折したため、モレルは開幕を二軍で迎えた。4月23日に今季初出場を果たすも、調子が上がらず5月2日の試合後に二軍降格。しかし、5月16日に低迷するオリックスの起爆剤として再昇格すると、25試合で65打数22安打、打率.338と結果を残している(6月22日現在)。まだまだシーズンは長いが、この先、モレルが確実にアジャストすることができれば、いま以上の貢献が期待できるはずだ。