メキシコのギル監督、サヨナラ負けにも「後悔するものは何もありません」 敗戦チームの記者会見とは思えない雰囲気だった。第5…

メキシコのギル監督、サヨナラ負けにも「後悔するものは何もありません」

 敗戦チームの記者会見とは思えない雰囲気だった。第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で野球日本代表「侍ジャパン」に5-6でサヨナラ負けを食らったメキシコ代表。試合後の会見で、ベンジー・ギル監督は負けたにもかかわらず、何度も「win」という言葉を使った。会見が終わると、記者から異例ともいえる拍手が沸き起こった。

「日本が勝ちましたが、今夜の試合は野球界にとっては勝利を収めた」

 白熱した試合が終わった後、ギル監督はすがすがしい表情で語った。メキシコは侍ジャパンを最後の最後まで追い詰めた。佐々木朗希投手(ロッテ)から4回にルイス・ウリアス内野手(ブルワーズ)が左翼席へ3ランを放ち先制すると、投げては先発したパトリック・サンドバル投手(エンゼルス)が5回途中4安打無失点6奪三振と侍打線を苦しめた。7回に吉田正尚外野手(レッドソックス)に同点3ランを許したものの、すぐさま8回に2点を奪い勝ち越し。9回にジョバニー・ガジェゴス投手(カージナルス)が村上宗隆内野手(ヤクルト)に左中間フェンス直撃のサヨナラ打を浴びて敗れたが、堂々の戦いぶりだった。

 メキシコは今まで、WBCで4強入りしたことはなかった。2006年の第1回、2009年の第2回はともに2次ラウンド敗退。ここ2大会は1次ラウンドで姿を消した。今回は、昨季17勝を挙げたフリオ・ウリアス投手(ドジャース)ら、MLBで2桁勝っている投手を揃え、打線もランディ・アロサレーナ外野手(レイズ)や昨季35本塁打を放った4番のロウディ・テレス内野手(ブルワーズ)で強力打線を形成した。1次ラウンドで史上最強と呼ばれた米国を倒し、準々決勝ではプエルトリコに逆転勝利。初の4強進出を果たした。

 準決勝では敗れこそしたが、ギル監督はここまでのナインの戦いぶりを誇りに感じていた。「フィールドですべてを捧げました。彼らは心を込めて、魂を込めてプレーした。彼らは戦っていた」。準決勝進出を全力で戦い抜いた結果だとし「これをできていればよかったと、後悔するものは何もありません」と言い切った。

大会中、常にWBCの存在意義を訴え「野球は成長していきます」

 メキシコに限らず、今回のWBCに出場している選手たちは、母国の野球熱を盛り上げるという使命をもって戦っている国が多い。日本やアメリカといった、野球が国内で1、2の人気を争う国は少ない。メキシコも他競技の人気が野球を上回っている国の一つだ。

 ギル監督がいう「勝利」とは、その使命に対しての勝利だった。「メキシコでは、急速的に変化が起こるでしょう。明日なのか、1週間後なのか、1か月後なのか、1年後なのかわかりませんが、野球は成長していきます」。今大会、球場にはメキシコ国旗を振り、メキシカンハットを被って応援するファンがたくさんいた。敗れても惜しみない拍手が送られるのを見て、メキシコの野球が変わることを確信している。

 国を背負う使命を持って戦っている選手たち。試合が終われば、ダグアウトの前に並んで観客席に拍手をし、ギル監督も試合後「日本チームには脱帽です」と敬意を示した。その行動も含めての勝利だった。

 ギル監督は大会を通じて「WBCが世界の野球を成長させる」と訴えてきた。そして、言葉通りメキシコ、そして世界の野球を盛り上げる試合を展開した。そのメキシコナインの健闘を称え、記者たちが拍手をするのはごく自然のことだった。(川村虎大 / Kodai Kawamura)