「カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC 東京プール」は全勝で米国へ「アリガトウ」「アリガトウ」――。野球日本代表「侍ジャパン」のラーズ・ヌートバー外野手は、第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)東…

「カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC 東京プール」は全勝で米国へ

「アリガトウ」「アリガトウ」――。野球日本代表「侍ジャパン」のラーズ・ヌートバー外野手は、第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)東京プールで“最後”のインタビューを終えると、聞き手にそっと近づき、感謝の気持ちを伝えていた。視線の先にいたのは、元日本ハムの斎藤佑樹氏だった。試合後のミックスゾーン。時間と場所に限りがある中、斎藤氏はヌートバーの心の温かさと日本への愛を存分に引き出していた。

 準々決勝のイタリア戦(16日)が、日本で行う今大会ラストゲームとなった。3月途中から侍ジャパンに加わったヌートバーの一生懸命なプレーにファンは心を打たれ、東京ドームでも大きな声援と視線が注がれていた。この試合後、報道陣の取材に応じたヌートバーが、斎藤氏の質問に答えた中で、印象に残る言葉がいくつもあった。

 一つ目は、声援の大きさについて。「びっくりしていますし、すごく感謝しています。日本のファンが野球やスポーツに対してすごく情熱を持っていると感じましたし、このチームの一つの小さなピースとして稼働できていることを嬉しく思っています」と目を輝かせていた。自分の貢献度は小さく、それよりもファンの存在の大きさが勝利に不可欠なものだと心から思っていた。

 他にも日本での一番の思い出は「みんなで焼肉に行って、家族のように仲良くなれた」ということや、大谷翔平投手のことなど、異国の地に来て得られたことなどを明かしていた。その問答の中で一番、強く残ったのは斎藤氏の質問とヌートバーの答えだった。

 技術的なことでも、精神的なことでもない。シンプルだが、今、ファンが知りたい部分が的確に描かれていた。「今日で(今大会の)日本最後の試合になります。また日本に戻ってヌートバーを見ることはできますか?」――。斎藤氏は優しい口調で問いかけた。ファンの気持ちになって考えた質問だった。

日本のファンに約束「次回のWBCでも東京での開催があればぜひやりたい」

 ヌートバーは笑顔で、そして迷わず「もちろん長くメジャーでのキャリアを積みたいと思っていますし、次回のWBCでも東京での開催があればぜひやりたいと思っています」ともう一度、日本のファンの前でプレーすることを約束した。選ばれるために練習を積み重ねていく。

 取材者の質問はどうしても“独りよがり”になることがある。自分の聞きたいことが必ずしもファンが求めていることや選手が話したいことと“イコール”なわけではない。ヌートバーの言葉、文字だけを読んでしまうと、伝わりにくいが、愛のあふれる言葉は人の心がわかる斎藤氏の“引き出し方”がうまかった。斎藤氏が聞いたヌートバーの思いだと知ると、また味わいを増すのではないだろうか。

 斎藤氏が早実時代に高校日本代表で米国遠征した際、日本のバットボーイをしていたのが8歳のヌートバー少年だった。時間が経ち、ヌートバーは日系選手として初めて侍ジャパンに選出され、斎藤氏はフロリダ州ジュピターのカージナルス施設で再会した。「マイ・アイドル」と大歓迎され、「こちらをどうぞ」と差し出されるなど、お互いがリスペクトし合っていた。

 最後に日本のファンへのメッセージを聞くと、即座にヌートバーは「『ニッポンダイスキ、ミンナアリガトウ!』と日本語で冗談ぽく、締めようとした。しかし、自ら『ノー、ノー、ノー、ノー』と終わりではないことを訴えて、気持ちを整理した。「家族のルーツである日本でプレーできて、心の底から感謝しています。本当にありがとうございました」と斎藤氏の目を真剣に見つめていた。

 東京プール最後の試合の、ヌートバーのコメントが掲載された記事を日本の多くのファンが目にしたと思う。温かさと愛情が伝わるコメントは斎藤氏が引き出していたものだった。インタビューを終えると、ヌートバーの方が冒頭のようにずっと斎藤氏へ感謝の言葉を伝えていた。2人の間には17年前からの深い絆がある。そんな空気感から生まれた言葉だった。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)