大宮に敗戦も「間違いなくよくなってきている」と語った磐田・遠藤保仁 カタールW杯でドイツ、スペインを撃破し、ベスト16に…

大宮に敗戦も
「間違いなくよくなってきている」と語った磐田・遠藤保仁
カタールW杯でドイツ、スペインを撃破し、ベスト16に進出した日本代表。その指揮を執る森保一監督の懐刀としてチームの勝利に貢献したのが、当時コーチだった横内昭展(よこうち・あきのぶ)である。森保監督は代表での指揮を継続したが、横内は代表を離れ、今シーズンから監督としてジュビロ磐田で指揮を執ることになった。昨年、わずか1年でJ1からJ2に降格した磐田だが、今年は再生のシーズンになる。森保監督とともに世界で戦ってきた横内だが、磐田ではどんなスタイルのサッカーを作り上げていこうとしているのだろうか。
3月11日、J1昇格を狙うライバルである大宮アルディージャとの試合、磐田はそのスタイルを見せた。
「攻撃で相手を押し込み、アタッキングサードでのプレーを増やしていくこと」
遠藤保仁がチームの狙いについて語ったとおり、大宮を圧倒した。
左サイドバックの松原后と右サイドバックの鈴木雄斗が高い位置を取り、ボランチの遠藤と針谷岳晃が起点となってボールを前後左右に展開。サイドハーフには三笘薫のようにひとりでディフェンスを混乱させ、フィニッシュまでもっていける選手はいないが、その分、トップ下の金子翔太を絡めて連携での打開を見せた。
地上戦だけではなく、1トップの杉本健勇には、ロングボールを当て、こぼれたボールを金子やジャーメイン良、ドゥドゥが回収し、攻撃を展開していく。1次攻撃を終えたあと、セカンドボールを回収し、2次、3次の攻撃につなぎ、相手に余裕を与えず、自陣内に押し込んだ。
後半は前半の強度が少し失われ、大宮に持たれる時間が増えたが、それでも何度も決定的なチャンスを作り、ジュビロサポーターをおおいに沸かせた。ただ、決めるべきところで決めなければ、あとで痛い目にあうのがサッカーの定説。この日もまさにそうで、アディショナルタイムに中川創が退場になったところで失点し、1-0で敗れた。
「決めるところで決めていれば勝てた試合。前線は反省です」と杉本は語ったが、前半のチャンスが続いた時、1本でも決まっていれば磐田が主導権を握ったまま試合を終えることができただろう。
「ボールを支配するなど、自分たちがやろうとしたことができていた」
横内監督は試合後、そう語ったが、実際、磐田のサッカーは非常に攻撃的でおもしろかった。
【ミシャを彷彿とさせるサッカー】
遠藤が言う攻撃で相手を押し込むというスタイルは、ある監督のサッカーを彷彿とさせる。横内監督は、ミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督の影響を受けたと監督就任時に述べていたが、大宮戦での攻撃的なサッカーからは広島、浦和時代のミシャのサッカーを磐田に投影しているように見てとれた。
浦和でのミシャのサッカーは選手が流動的に動き、どこからでも点を奪える超攻撃的なスタイルで、プレーしている選手も見ているファンも楽しめるサッカーだった。当時の浦和とは個の能力での違いがあるので、浦和のように相手を圧倒するのは難しいが、限られた戦力でやろうとしていることができているのは、与えられたタスクを選手がしっかりこなしているからでもある。
たとえば、すばやいトランジションだ。
「トランジションは、ボランチだけじゃなく、監督からチーム全体に言われていて、しっかりやろうという意識でいます。このチームのテーマのひとつです」
遠藤はそう語るが、攻から守の切り替えが非常に早い。カタールW杯で日本代表は、自分たちがボールをロストしても、その直後、挟み込むように厳しいチェックで相手からボールを奪い、ショートカウンターを発動させていた。すばやいトランジションは、森保監督やミシャのチームの生命線でもあるので、両人ともに口酸っぱく選手に伝えていた。
横内監督も同じようにそれを選手に徹底している。大宮戦でもミスが生じてボールを失うこともあったが、すばやく切り替えてボールにアプローチし、奪い、次の攻撃につなげていった。
「ミスを恐れずにプレーしたうえで、相手のボールになることもあるけど、その時、できるだけ相手の低い位置、自分たちは高い位置でボールを回収できるような守備をみんな意識しています。そこで奪ってショートカウンターとかで点がとれればいいかなと。簡単なロストとかは極力なくしながら前からプレッシャーをかけて、相手のエリアでたくさんプレーすることもテーマのひとつです」
遠藤が言うテーマは前半、ほぼ完璧にできていた。
チームのスタイルは見えてきているが、最終的な完成形について、遠藤はこう語る。
「基本的には、ボールを保持し、試合を支配していくサッカーです。日本代表がW杯予選でやった戦い方というのを、監督は最低限と多分考えているのでしょうけど、そのレベルにまでもっていくのは大変でしょうね。でもチャレンジすることが必要だと思うので、今そこにみんなトライしています」
W杯予選時の日本代表のサッカーは、ボールポゼッションを大事にしつつも高い位置でボールを奪い、できるだけ早くゴールに迫るスタイルだった。これを実現するにはすばやいトランジションが不可欠だ。そのため、横内監督がテーマのひとつとして重視しているのには合点がいく。
大宮戦は決定力に課題が残り勝ちきれなかったが、横内監督は「そこが課題です。サッカーには、こういうことが起こりえるのですが、本当に強いチームなら踏ん張れる。そこを踏ん張りきれないところが現状の力です」と冷静にチームの現状を見極めていた。
遠藤は「勝ち点3をとらないといけない試合だったけど、安定して戦えていたし、チャンスを作れていたので、悲観する内容ではない」と、前向きにとらえていた。
【今はスタイル定着をさせる時期】
だが、このスタイルのサッカーで勝ち続けられるのか、不安な面もある。
相手を押し込むサッカーは強度と運動量が要求されるので、90分間、それを継続することができるのか。そのために5人の交代枠をいかに有効に使うのか。個々の選手の能力と監督の手腕が問われることになる。
また、いいサッカーをしていても勝てない試合が続くと、疑心暗鬼になり、やがて自分たちのサッカーに自信を持てなくなっていく。負のスパイラルに陥ると、這い上がるのは大変だ。
カタールW杯最終予選のスタートは初戦のオマーンに負け、中国に勝ち、サウジアラビアに負けた。黒星が先行し、負けられない重圧のなか、続くオーストラリア戦に勝利し、勢いに乗った。黒星が先行する磐田の次の対戦相手は清水エスパルスで、絶対に負けられない静岡ダービーだ。今の磐田が置かれた状況は、もしかするとW杯最終予選時の日本代表と同じような感じなのかもしれない。
「今、自分たちは結果が出ていないですけど、開幕戦の岡山戦よりも山口戦のほうがよかった。山口戦よりも山形戦がよかったですし、山形戦よりも大宮戦は間違いなくいいので下を向かずにやることをやり続けていけばいい。次は、ダービーなのでしっかり勝ちきりたいですね」
遠藤は、ダービーを浮上のきっかけにしたいと考えているのかもしれない。
ミシャの薫陶を受けた横内監督がどのようにして相手を圧倒するサッカーを実現していくのか。生みの苦しみを味わう今、もうしばらく耐える時間が必要になりそうだ。