今シーズン限りでの日本ツアーからの撤退を発表したイ・ボミ。2011年シーズンから日本ツアーに挑むと、出場14試合でシード権を獲得。翌2012年シーズンにはツアー初優勝を果たし、年間3勝を挙げて賞金ランキング2位と躍進した。以降、ツアーの中心…

今シーズン限りでの日本ツアーからの撤退を発表したイ・ボミ。2011年シーズンから日本ツアーに挑むと、出場14試合でシード権を獲得。翌2012年シーズンにはツアー初優勝を果たし、年間3勝を挙げて賞金ランキング2位と躍進した。

以降、ツアーの中心選手として活躍し、2015年、2016年シーズンには2年連続で賞金女王に。「スマイル・キャンディ」と称される愛らしいルックスも相まって、絶大な人気を誇った。今回、そんな日本ツアーで一時代を築いた彼女の魅力やすごさについて、永久シード保持者の森口祐子プロに話を聞いた――。



今シーズンを最後に日本ツアーから引退するイ・ボミ

 イ・ボミさんのことで記憶に残るのは、2013年と2014年の日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯です。

 2013年の大会では、比嘉真美子さんとの6ホールに及ぶプレーオフを制して優勝を飾りましたが、このプレーオフの4ホール目で、イ・ボミさんは2打目をグリーン奥のラフに打ち込んでしまいます。ボールの状態を見た彼女は、次に打つアプローチの難しさに茫然としていました。

 その時、横にいたキャディーの清水重憲さんが「ここは、あの時に練習でやった、あの打ち方だよ」とアドバイス。おそらく、彼は直近のアプローチ練習などでやった打ち方を思い出したのでしょう。そうして、イ・ボミさんはその言葉どおりに打って、ピンそば1mに寄せて最大のピンチを切り抜けました。

 選手とキャディーは信頼関係でつながっているとはいえ、打つのは選手ですから、キャディーのアドバイスに疑問や不安を感じることがあります。しかしイ・ボミさんは、清水キャディーに対して絶大な信頼を置いていました。時には内心不安を感じることもあったかもしれませんが、清水キャディーの距離測定やアドバイスを受け入れ、常に納得して打っているように見えました。

 ふたりは、この2013年から2018年の途中までタッグを組んで、2015年、2016年には2年連続で賞金女王になっています。世間では、清水キャディーがイ・ボミさんの力を引き出したようにも言われていましたが、私はそういう一方通行の関係ではないと思っています。乾いたスポンジのように意見やアドバイスを吸収しようとするイ・ボミさんの素直さが清水さんに伝わり、彼が培ってきたキャディーとしての能力を引き出したのだろうとも感じていました。

 そして、翌2014年の女子プロ選手権。イ・ボミさんは連覇を目指していましたが、韓国で闘病中のお父様の容態が急変したことで、3日目のプレー途中で棄権しました。私は会場を出る時の彼女をクラブハウスの玄関で見ていたのですが、うなだれて車に乗り込んでいく姿は今でも忘れられません。

 お父様はイ・ボミさんが帰国してすぐにお亡くなりになったと聞きました。その際、失意のイ・ボミさんは、病床のお父様と「賞金女王になります」という約束を交わしたそうですね。

 実際、翌2015年、2016年には、その約束を見事に果たしました。そういったこともあって、2013年、2014年の女子プロ選手権は、とても印象に残っています。

 2年連続賞金女王となったあと、イ・ボミさんは2017年が23位、2018年が83位と、賞金ランキングの順位を一気に落としてしまいます。この当時、技術的にはショットに悩んでいたようですが、それがショートゲームにも波及。パッティングストロークでパターのヘッドがスムーズに出ない、イップスっぽい動きをしているのを何度か見ました。

 2011年から日本ツアーに参戦して、10年弱。その間、ずっと全力で走ってきて、おそらく気持ちがついてこなくなったのだろうなと思います。

 オールラウンダーのイ・ボミさんですが、特に飛距離の出るドローボールには定評がありました。スイングは、頭の軸をあまり動かさずに、左腕を伸ばして背中が十分に捻転された理想的なトップを作ります。そこから、よどみなくダウンスイングに入り、インパクトでわずかにツイストする動きが入ります。

 このツイストは、インパクトで上半身が右から左に回転するのに対し、下半身は左から右へ逆回転させることでクラブをビュンと走らせるというもの。彼女はこのスイングで、低スピンのドローボールで飛距離が出るドライバーショットを打っていました。

 人柄のよさは秀逸で、イ・ボミさんが嫌そうな顔をしたのを見たことがありません。今季限りで日本ツアーを引退する理由のひとつが、選手として成績を出せないことに悩んでいたと聞いて、「あなたは、その笑顔を見せてくれるだけでいいから(現役を)続けて」と、ファンと同じような気持ちにさせられましたけど、本人の気持ち的にはもはや限界だったのでしょう。

 残念ではありますが、彼女の残りのシーズンにエールを送りたいと思います。