5月7日、世界中のボクシングファンの視線が日本の横浜アリーナに注がれる一戦が決まった。 昨年末にバンタム級で4団体統一を成し遂げた3階級王者・井上尚弥(大橋/29歳/24戦全勝/21KO)が階級を上げ、スーパーバンタム級の2団体(WBC、…

 5月7日、世界中のボクシングファンの視線が日本の横浜アリーナに注がれる一戦が決まった。

 昨年末にバンタム級で4団体統一を成し遂げた3階級王者・井上尚弥(大橋/29歳/24戦全勝/21KO)が階級を上げ、スーパーバンタム級の2団体(WBC、WBO)を統一したオールラウンダー、スティーブン・フルトン(アメリカ/28歳/21戦全勝/8KO)に挑む。今が全盛期である2人の"無敗王者"の激突は、掛け値なしの軽量級ビッグファイトである。



階級を上げ、2団体統一王者のフルトン(左)に挑む井上尚弥

 井上は、「パウンド・フォー・パウンド」でも最高級の評価を得ているが、快進撃を続けてきた"モンスター"にとっても、独特のバネや馬力を持つ黒人選手との対戦は今回が初めて。スーパーバンタム級での試合も初戦となることも含め、不安要素はある。

そんな経緯もあって、今戦はアメリカのファンからも大きな注目を集めている。「フルトンvs井上こそが、今年の上半期の"最大の一戦"だ」と言いきるボクシング関係者も少なくない。

 それほど楽しみな一戦は、どんな展開、結果になるのか。今回はアメリカ東海岸を拠点にする米メディアの関係者3人に3つの質問をぶつけ、ビッグファイトの行方を占ってみた。識者たちのコメントから、本場でのフルトンvs井上への大きな期待感が伝わってくるはずだ。

【パネリスト】

●キース・アイデック『BoxingScene.com』のライター、コラムニスト。ニュージャージー在住。全米記者協会(BWAA)の副会長を任される。Twitter : @Idecboxing

●ショーン・ナム『BoxingScene.com』の通信員として活躍する韓国系アメリカ人ライター。精力的な取材で構築したネットワークによるインサイダー情報に定評がある。Twitter : @seanpasbon

●マーク・エイブラムス フィラデルフィア在住のボクシング記者、編集者、広報。ボクシングウェブサイト『15rounds.com』を運営する。地元選手のフルトン とは長年の顔見知り。Twitter : @MAbramsboxing

Q1.今戦が実現したことについてどう思う?

アイデック このマッチアップにエキサイトしている。ファンも同じだろう。プロモーターや、試合を放映するテレビ局が違う選手同士の対戦は、これまでのボクシング界ではなかなか実現しなかった。

 井上という過去最高の相手と、敵地での対戦することを自身のプロモーター(=PBCのアル・ヘイモン氏)に直訴したフルトンは讃えられてしかるべき。また、スーパーバンタム級への昇級初戦で、この階級で最強の統一王者との対戦を希望した井上も、同じように称賛されるべきだ。

ナム フルトンvs井上は、現在のボクシングビジネスのなかでは異例の一戦だ。この試合が成立したことは喜ぶべきサプライズ。プロモーション面でどれだけ障壁があろうと、2人のボクサーが心底から望んだ場合、ビッグファイトが実現し得ることを示している。

エイブラムス 今戦が成立したのはすごいこと。ライトフライ級からキャリアをスタートさせた井上が徐々に階級を上げ、4階級目のスーパーバンタム級で、いきなり最強の相手に挑もうとしている。

 一方のフルトンもアメリカに残り、体重調整も簡単なフェザー級で戦うこともできたのに、あえて日本に行ってパウンド・フォー・パウンド最強のひとりである選手と戦おうとしている。両者ともに報酬面の見返りは大きく、同時に懸けるものも多い。自身のレガシーを築くために、多大なリスクを背負おうとしている。

Q2.勝負のカギとなるのは?

アイデック フルトンはとても知的な選手で、優れたフットワーク、ジャブを持っている。井上の過去の対戦相手のように"モンスター"のパワーを恐れることはないだろう。サイズでも上回り、「敵地でも勝てる」という自信に満ちている。

 過去にフルトンと対戦した選手たちは「フルトンは戦績が示す以上にパワーがある」とも口にしているが、やはりビッグパンチャーとは言えない。相手を警戒させるようなパワーはないフルトンが、井上を相手にフルラウンドにわたってアウトボックスできるかが見どころになる。

ナム スーパーバンタム級はフルトンにとってナチュラルウェイト。身体能力が高く、この階級で多くの強豪を下してきた王者でもある。ただ、フルトンも井上ほどのパワー、スピードを備えた選手との対戦はこれが初めて。フルトンが井上のパンチに耐えられるかどうかがポイントになると思う。

エイブラムス まずは井上が、スーパーバンタム級でもこれまでどおり相手にダメージを与えられるかどうかに注目したい。井上は強烈なパンチャーとして名を馳せているが、これまでフルトンはパンチでダメージを負ったり、危機に陥った場面もない。そして、井上より体が大きい。

 そんなフルトンが、明白な形でラウンドを制することができるかどうかが焦点だ。手数が多く、インファイトも好むフルトンは、敵地のリングでどうやってポイントを奪っていくのか。試合のどこかで打ち合う場面は出てくるはずで、そこで屈しなければフルトンの勝機は膨らむはずだ。

Q3.勝敗の予想は?

アイデック 8、9ラウンドまでは接戦になるだろう。ただ、パワーで上回る井上がフルトンを追い詰め、11、12ラウンドにKO勝ちを飾ると見る。

ナム 井上が終盤にストップ勝ちを収める。11ラウンドKOだろう。

エイブラムス 大接戦になることは間違いない。どちらが勝つとしても、僅差の判定になるのではないか。私とフルトンは長い間の知り合いということもあって、余計に予想は難しいが......論議を呼ぶスプリット・デシジョン(審判の採点が割れること)で、地元の井上が勝つと予想したい。