2022-23 CL注目チームの現状第5回:バイエルンバイエルンのジャマル・ムシアラ。狭いスペースでもうまくプレーできる…

2022-23 CL注目チームの現状

第5回:バイエルン



バイエルンのジャマル・ムシアラ。狭いスペースでもうまくプレーできる

【大外を使わない攻撃】

 2019-20シーズンにチャンピオンズリーグ(CL)優勝を果たしたが、続く2シーズンは準々決勝で敗退。ブンデスリーガでは10連覇と一強状態が続くバイエルンといえども、CL優勝はそう簡単ではない。

 大エースだったロベルト・レバンドフスキがバルセロナへ移籍し、リバプールからサディオ・マネを獲得。しかし、レバンドフスキとマネはタイプが違うので、センターフォワードの穴を埋めたのは、マキシム・シュポ=モティングだ。

 33歳のストライカーはブンデスリーガでキャリアを積み、ストーク・シティ、パリ・サンジェルマンでプレーしたのちにバイエルンへ加入。パリSGでは控え選手扱いだったが、今季のバイエルンでは1トップとしてレギュラーポジションを確保。長身のポストプレーヤーとしてボールの収まりがよく、空中戦の強さや冷静なフィニッシュで貢献している。

 シュポ=モティング、トーマス・ミュラー、レオン・ゴレツカが空中戦に強いので、ハイクロスは依然としてバイエルンの強みなのだが、基本的に攻撃はペナルティーエリアの幅で行なう。これはユリアン・ナーゲルスマン監督になってからの戦術的な特徴と言えるだろう。

 フィールドを縦に5つに区切る「5レーン」で言えば、大外の左右2レーンをあまり積極的には使わない。前記のとおりハイクロスに強い選手もいるので、全くそこからのクロスがないわけではないが、外のレーンはラストパスを送るための場所ではなく、たんにボールを落ち着ける場所になっている。

 そこから中央へボールを移動させるか、サイドでも中央寄りに入っていく。タッチライン際は背後から守備者が来る心配はないので、ボールを落ち着けて展開を図る場所として重要ではあるが、かつてのように外からハイクロスを繰り返すという攻め方ではなくなっている。

【ペナルティーエリアの中へボールと人を送り込む】

 攻め込んだ時のバイエルンは、ペナルティーエリア幅に4、5人の選手を配置するので圧が強い。このエリアでボールを失った場合でも直ちにプレスできるので、ボールの奪回も速い。これも狭く攻撃する利点であるが、得点のために無駄を削ぎ落した合理的なプレーを志向している。得点の80%はペナルティーエリア内のシュートから生まれている。つまり、ペナルティーエリアの中へボールと人を送り込むための、ペナ幅の配置になっているわけだ。

 パリSGとのCLラウンド16第1レグでも、バイエルンの人海戦術は決勝点をもたらしていた。アルフォンソ・デイビスのクロスを逆サイドのキングスレイ・コマンがボレーで決めているのだが、ファーサイドへのクロスに対してパリSGはマークにつききれなかった。それだけバイエルンのゴール前の人数が多いからだ。

 ゴール近くに投入する人数の多さは、守備側の混乱を引き起こす。しかし、それ以外にバイエルンがこの攻め方の特性を生かしきれているかという疑問は少し残る。

 ペナルティーエリアの幅に多くの人数を集中させるということは、それだけ使えるスペースが狭くなる。その狭いスペースでうまくプレーできる選手が揃っていれば、狭く攻撃するメリットはある。ところが、明確にそれが得意という選手がジャマル・ムシアラしかいないのだ。

 カタールW杯で日本代表に敗れたドイツ代表とこの点は似ている。ドイツはボールを支配し、サイドに展開の起点を作りながらも中央のペナ幅に多くの選手を配置して圧力をかけていた。だが、その狭いスペースを生かせるのはムシアラしかおらず、ミドルシュートかハイクロスが主な攻め手だった。唯一、ムシアラだけが独特の横へいなすドリブルでボックス内に進入していて、日本にとっては最大の脅威だったのだが、そうした攻撃は散発的だった。

 パリSGとの第1レグでも、狭いスペースが得意な選手は相手にいた。リオネル・メッシとネイマールだ。もし、バイエルンにメッシとネイマールがいれば狭い攻撃はもっと威力があっただろう。ムシアラだけでは効果は限定的だった。負傷から復帰したマネが加われば、状況は変わってくるかもしれないが。

【パリSG戦も優勢だがカウンターが怖い】

 第2レグもバイエルン優勢の流れになると予想できる。パリSGのFWが守らないので、バイエルンのセンターバックはフリーで攻撃の起点になれて、しかも後追いもないので難なく相手陣内へ入っていけるからだ。メッシ、ネイマール、キリアン・エムバペのうち2トップの組み合わせがどうなっても、あるいは3トップならなおさら、バイエルンがボールを握って前進するのに障害がない。

 問題は、エムバペがいると裏のスペースを使われる危険があること。下がって足下でパスを受けるメッシ、ネイマールとの違いだ。第1レグではエムバペの登場とともにパリSGに盛り返された。エムバペに裏を取られるのが怖いのでDFが下がる。そうするとDFとMFの間隔が広がるので、メッシとネイマールがプレーしやすくなっていた。

 バイエルンはボールを支配できるし、押し込める。しかし、エムバペがいるとなると逆襲が怖い。エムバペがいることでメッシやネイマールも威力が増す。この3人が揃った時に止めるのは、バイエルンといえども簡単ではない。押し込むバイエルンが得点をとれるかどうかが試合の行方を決めそうだ。それに手間取るとパリSGに囲みを破られ、脅威のカウンターを食らいかねない。

 シュポ=モティングの1トップの下にはムシアラ、ミュラー、コマン、セルジュ・ニャブリ、レロイ・サネと豪華なアタッカーを揃えている。ワイドアタッカーにも俊足のデイビス、マンチェスター・シティから獲得したジョアン・カンセロがいる。ダヨ・ウパメカノを中心とした守備も強力。

 ブンデスリーガでは圧倒的な戦力であり、CLでも優勝候補だが、ペナ幅に限定した攻撃のメリットを生かしきれていないのが気がかりなところで、自ら作った枠のなかで不自由になってしまうのが懸念材料だ。

 そこに回答を見出せば、7回目の優勝に一気に近づくのではないか。