元東京ガス監督・阿久根謙司氏はコーチングの研修や講演を行う ティーチングとコーチングは似ているようで違う。社会人野球の名…
元東京ガス監督・阿久根謙司氏はコーチングの研修や講演を行う
ティーチングとコーチングは似ているようで違う。社会人野球の名門・東京ガスで監督を務め、スポーツや教育の現場でコーチング研修をしている阿久根謙司さんが2月19日、西武の本拠地・ベルーナドームで開催された埼玉県ベースボールサミットで講演。小、中学生の成長には「教えない指導」が不可欠と説いた。
阿久根さんは選手としても指導者としても野球界の“王道”を歩んできた。早稲田実業時代は甲子園に2度出場し、早大では主将を務めてベストナインに2度選出された。東京ガスで選手としてプレーした後、コーチと監督を歴任している。
阿久根さんの指導論の基本となるのは「コーチング」だ。4年前にさいたま市でコーチングの研修を始め、現在は全国各地で研修や講演を行っている。コーチングはティーチングと混同されやすいが、根本が異なる。指導者から選手に指示・命令するティーチングに対し、コーチングは選手主導で質問・提案を軸とする。
阿久根さんは指導者には知識や技術を伝えるティーチングが必要とした上で、コーチングが選手を成長させると考えている。ベースボールサミットでは「選手の指導では、教えずに考えさせることが大切です」と話した。
自発性引き出すコーチング…選手は能動的に動いて成長
例えば、少年野球で遅い球に対して泳いでしまう打者に対して「もっと待って打つように」とは伝えない。打席での様子をスマートフォンで撮影し、映像を見せながら「どうすれば遅い球を打てるようになる?」と質問する。すると、選手は自分で考えて「球を引き付ける」「自分の軸で回転して打つ」などの解決策を導き出す。阿久根さんは「コーチングは考えて工夫する環境をつくり、選手に自発的な行動を起こさせるためのコミュニケーションマインド」と表現する。
正しいコーチングは選手の自発性を引き出し、創造性や積極性、個性や多様性へとつながるという。指導者から結果について怒られた選手は受動的になり、結果に至る経過を気にかけて承認する指導者と接する選手は能動的に動く。この差が、選手の成長の差として表れる。阿久根さんは「指導者には選手の話を否定せずに最後まで聴き、気持ちに共感することが必要です」と力を込めた。
コーチングとは対極にある「一方的な指示命令型」の典型には、選手のタイプや価値観を見分けられず、誰にでも同じ方法で教えてしまう指導がある。さらに、自分のやり方を押し付け、過度に選手を管理する指導などを挙げた。こうした指導法が上達する楽しさを選手から奪い、野球離れの要因にもなっていると阿久根さんは指摘した。
指導者が選手に及ぼす影響は小さくない。知識や経験の少ない小、中学生なら、なおさらだろう。コーチングに長けた指導者のもとで早い時期から考える力を身に付けた選手は、将来の可能性が広がる。(間淳 / Jun Aida)