三塁を回ろうとする糸井を高代氏は決死のジェスチャーで制した 元日本ハム、広島内野手の高代延博氏は現役引退後、中日、阪神な…
三塁を回ろうとする糸井を高代氏は決死のジェスチャーで制した
元日本ハム、広島内野手の高代延博氏は現役引退後、中日、阪神など多くの球団でコーチを務めた。2009、2013年の「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」では侍ジャパンの内野守備走塁コーチとしてチームを支えたが、有名なのは2013年大会の台湾戦で三塁ベースコーチとして、体を張って走者の糸井嘉男外野手を止めたシーンだろう。
2013年3月8日、東京ドームでの第2ラウンド・台湾戦。0-1で迎えた4回表2死二塁だった。ここで坂本勇人はセンターへ抜けるかの打球を放ったが、投手の王建民がグラブに当て、ショートがダイビングしてはじいてセカンドの前に。三塁ベースコーチの高代氏は、三塁を回った二塁走者の糸井の目線に合うように体を沈めて懸命にストップを指示して、何とか事なきを得た。この体を張った必死のアクションが高代氏のファインプレーとして伝説となっている。
「あれは三塁コーチャーとしては一番難しい場面だった。(最終的に打球が)セカンドの前にいって、これはやばいと思った。糸井は下を向いてスピードを緩めることなく、一目散に走っている。足は速いし、大きいから止まるのも時間がかかる。何とかして止めなければいけないけど、声は聞こえないし、とにかく糸井にわかるように、先に沈んで(地面を)叩いてましたよ、こっち見ろ、ストップ、ストップって」
短い時間に、すべて体が自然に動いたという。「何としても止めようという気持ちだけでしたね。あれでアウトになったら世間歩けないって。それだけ重責というか、やっぱり、あれも日の丸の威力ですよ。長いことやってきたけど、あんなこと初めてでしたからね」。高代氏の懸命のアクションに気がついた糸井はヘッドスライディングで三塁に戻ってセーフとなった。
普通の体勢なら…糸井は「たぶん通り過ぎていた」
もしも、あの時、普通の体勢でストップを指示していたらどうなっていただろうか。「たぶん(糸井は)通り過ぎていたと思います。見えてないから。まぁ、ピッチャーが(打球に)触っていたんだから、糸井も“どうなってるの”って俺をうかがえば良かったんだけどね」と高代氏は話す。
続けて「(セーフになった後)糸井が『何しているんですか』って言いやがってね。『何しているんですかじゃないよ、お前』ってね。糸井らしいといえば糸井らしいけど、まぁ糸井ですわ、ホンマに」と当時を思い出しながら、笑みをこぼした。
しかしながら、こうも付け加えた。「結局、向こうのセカンドにミスが生まれているんですよ。ピッチャーが触って打球が緩くなって、ショートがダイビングして、セカンドが捕ったけど、まだファーストに投げようとしましたからね。捕ってすぐオーバーランを狙ったら、おそらくアウトだったと思う。俺が相手の守備コーチだったら、あれだけ時間がかかって、打者走者をアウトにできるか、なんですぐにオーバーランを狙わなかったのかって言いますよ」。
このシーンが語り継がれていることに高代氏は「継がれたくないけど……」と微笑む。「あれは俺のファインプレーでも何でもなくて、解説すれば相手のセカンドに助けられたんです。でも結果、止まってセーフになったからすべて良し。方法とかわからないから、ああなっただけで、あんなの自分の技と言われたら、とんでもないですよ」とも話したが、瞬時に誰でもできることではないだろう。やはり侍ジャパンの歴史に残る名シーンのひとつと言っていいはずだ。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)