2023シーズンF1参戦10チーム紹介(前編) 2023シーズンのF1選手権は3月5日にバーレーンにて開幕。世界中を巡るF1サーカスは、西アジア・中東からスタートする。開催数23は史上最多。日本GPは9月下旬の第17戦に予定されている。 2…

2023シーズンF1参戦10チーム紹介(前編)

 2023シーズンのF1選手権は3月5日にバーレーンにて開幕。世界中を巡るF1サーカスは、西アジア・中東からスタートする。開催数23は史上最多。日本GPは9月下旬の第17戦に予定されている。

 2月初旬から続々と発表されたニューマシンは、開幕前のテストで本格的なお披露目となった。今年はどんな特徴があるのか、全10チームの2023年版マシンを紹介する。



レッドブルRB19

【レッドブル】

 王者レッドブルはあらゆる面において、"継続性"が大きな武器になっている。2年連続王者マックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスの両ドライバーが残留しているのはもちろんのこと、ライバルチームがチーム代表や技術体制を大きく変更してきているなかで、レッドブルは不変の体制で臨む。

 マシンも22戦17勝を挙げた昨年型RB18からの正常進化型であり、テストから順調な滑り出しを見せている。昨季中盤からライバルの多くが模倣してきたこのコンセプトを誰よりも早く開発してきたのがレッドブルであり、空力面において一日の長がある。それに加えて、昨年の弱点であった重量過多の問題もしっかりと解決してきている。

 ホンダ(HRC)が開発したパワーユニットがレッドブルパワートレインズを通して供給され、引き続きそのオペレーションにもホンダのスタッフが関わっている。ICE出力のみならずハイブリッド側でライバルに対して優位に立ち、高い完成度を誇った昨年型の信頼性をさらに高め、テストでもノートラブルで3日間を走破した。

 2026年にはフォードと提携することを明らかにしたレッドブルだが、ホンダは「2025年まではダブルタイトル防衛を続けるべく全力で戦う」としている。

 王者フェルスタッペンは「今年もタイトル防衛を目指す。完璧な人間など誰もいない、常に学習と成長を続けなければならない」と一切の油断を見せない。13年目を迎えるベテランのペレスもレッドブルへの融合をさらに進め「昨年はこれまででベストのシーズンだったが、今季はさらに完成されたドライバーになり、二歩前進してタイトル争いをしたい」と意気込んでいる。

 昨年はチームオーダーを巡っていさかいもあっただけに、両ドライバーの関係値は少なからず変わってくるだろう。

<No.1/マックス・フェルスタッペン>
1997年9月30日生まれ(25歳)オランダ国籍。F1経歴=トロロッソ(2015〜2016)→レッドブル(2016〜)。優勝=35回。2022年ドライバーズランキング1位。

<No.11/セルジオ・ペレス>
1990年1月26日生まれ(33歳)メキシコ国籍。F1経歴=ザウバー(2011〜2012)→マクラーレン(2013)→フォースインディア(2014〜2018)→レーシングポイント(2018〜2020)→レッドブル(2021〜)。優勝=4回。2022年ドライバーズランキング3位。



フェラーリSF-23

【フェラーリ】

 フェラーリはフレデリック・バスール新代表の下で再スタートを切るが、チーム体制そのものは大きく変わってはおらず、その背景にあるのは刷新ではなく改善だ。

 昨年はシーズン序盤に選手権をリードしながら、レース運営のミスや信頼性の問題、マシン開発計画の遅れによってタイトル争いに絡むことができなかった。だが、組織の大幅刷新ではなくチーム代表の交代により意思決定のプロセスをスムーズにすることで、"レース屋"としての戦う力を強化してきた。

 ただ、それでもまだレッドブルやメルセデスAMGのような常勝軍団のそれと比べれば同等と言えない。これからさらなる改革が行なわれていくことになる。

 昨シーズン後半戦はすでに2023年に向けてシフトし、新車SF-23を完成させてきた。昨年型のコンセプトを踏襲しつつ各部をブラッシュアップし、昨年のレッドブルをさらに上回るほどストレートの速いマシンに仕上げてきた。もちろん、パワーユニットの信頼性確保も設計・製造のあらゆる面を見直すことで向上させてきているという。

 6年目のシャルル・ルクレールは、「テストではレッドブルが強力で、僕らはまだ改善が必要だ。今年のクルマはドラッグを減らしストレートが速くなったけど、コーナーではまだ苦労している。新しいマシン特性に合わせた正しいセットアップを見つけ出す必要がある」と慎重な見方を崩さない。

 9年目となるカルロス・サインツは、昨年オーバーステア傾向のマシン特性に苦戦を強いられたが、初優勝を経験して今季はさらなる飛躍を期している。

 フィオラノで行なった新車発表会ではシェイクダウンの様子を生中継し、ライバルをリードしたかに思われたフェラーリ。だが、SF-23がどれほどのポテンシャルを秘めているのか、開幕前テストではまだその全貌は見えていない。

<No.16/シャルル・ルクレール>
1997年10月16日生まれ(25歳)モナコ国籍。F1経歴=ザウバー(2018)→フェラーリ(2019〜)。優勝=5回。2022年ドライバーズランキング2位。

<No.55/カルロス・サインツ>
1994年9月1日生まれ(28歳)スペイン国籍。F1経歴=トロロッソ(2015〜2017)→ルノー(2017〜2018)→マクラーレン(2019〜2020)→フェラーリ(2021〜)。優勝=1回。2022年ドライバーズランキング5位。



メルセデスW14

【メルセデスAMG】

 昨年8年連続の王座から陥落したメルセデスAMGは、昨年型マシンの問題点を究明し、失敗と槍玉に挙げられたゼロポッドコンセプト自体にはポテンシャルがあることを確認したうえで、これを踏襲して新車W14を作り上げてきた。

 サイドポッド前端はさらにスリムに、そして後方はややワイドに。そうすることで、昨年苦しんだバウンシングや挙動の不安定さといった問題は解決してきている。

 開幕前テストでは、2023年型タイヤの特性に起因するリアの不安定さに苦戦していた。だが、セットアップが煮詰まってゼロポッドコンセプトが持つポテンシャルを最大限に引き出せた時、どれほどの速さを発揮できるのか、ライバルたちも警戒している。

 戦略責任者のジェームズ・ヴァウルズがウイリアムズに移籍したが、すでに昨年途中から戦略チームの権限移譲は進んでおり、チームとしての体制に変化はない。とはいえ、昨年も幾度か見られたように戦略面の勝ちにこだわる姿勢が揺らいでいるのはたしかなだけに、強化が急務と言えそうだ。

 ルイス・ハミルトンは38歳を迎えたが走りに衰えは見せず、さらなる結果と複数年契約を視野に入れている。昨年メルセデスAMGに昇格して初優勝を経験したジョージ・ラッセルは、タイヤマネージメント面ではハミルトンに後れを取っていることを認めるが、逆に言えば速さでは7度の王者に引けを取らないと自負しているとも言える。

 昨年のつまずきから復調するのに約6カ月の後れを取ったメルセデスAMGは、現時点でもまだトップに立てるとは思っていないという。しかし、根本的問題を解消した彼らがどれほどのスピードで追いかけてくるのか、興味深いところだ。

<No.63/ジョージ・ラッセル>
1998年2月15日生まれ(25歳)イギリス国籍。F1経歴=ウイリアムズ(2019〜2020)→メルセデス(2020)→ウイリアムズ(2021)→メルセデス(2022〜)。優勝=1回。2022年ドライバーズランキング4位。

<No.44/ルイス・ハミルトン>
1985年1月7日生まれ(38歳)イギリス国籍。F1経歴=マクラーレン(2007〜2012)→メルセデス(2013〜)。優勝=103回。2022年ドライバーズランキング6位。



アルピーヌA523

【アルピーヌ】

 ルノーからアルピーヌへと移行して2年目の昨年、中団グループ最上位のランキング4位に浮上してみせた。今季はピエール・ガスリーが加わり、エステバン・オコンと並んでフランス人ふたりのドライバーラインナップとなって、より"フランス色"が強くなった。

 それはチーム体制にも言える。チーム代表は昨年タイトルスポンサーのBWTとともに電撃的に加入したオトマー・サフナウアーが引き続き務めるものの、チームの実権はフランス側が堅持している。

 ルノー本社ルカ・デ・メオCEO、そしてその子会社であるアルピーヌのローラン・ロッシCEOと、船頭が多いのは気がかりだ。昨年のエースであったフェルナンド・アロンソ、育成のオスカー・ピアストリが揃ってチームを離脱したのもその影響だ。

 マシン開発面でも、昨年序盤に責任者パット・フライが一歩退いた。代わってテクニカルディレクターに就任したマット・ハーマンは、元メルセデスAMGのパワーユニット・ギアボックス側開発者という異色の経歴。

 フランス側PU開発部隊とイギリス側車体開発部隊の連携に、少なからず課題を抱え続けてきたこのチームだけに、こうした人事はマシン開発及びレース運営もフランス側主導へとシフトしていこう、という意思の表われだろう。

 開幕前テストではロングランに専念して黙々と走り込みを続け、実力をひけらかすようなことはしなかった。1980年代のトールマンからベネトン、ルノーと数々の成功を収めてきたイギリス・エンストンのチームだが、こうしたフランス側主導のチーム運営が功を奏すのかどうか見物だ。

<No.31/エステバン・オコン>
1996年9月17日生まれ(26歳)フランス国籍。F1経歴=マノー(2016)→フォースインディア(2017〜2018)→レーシングポイント(2018)→ルノー(2020)→アルピーヌ(2021〜)。優勝=1回。2022年ドライバーズランキング8位。

<No.10/ピエール・ガスリー>
1996年2月7日生まれ(27歳)フランス国籍。F1経歴=トロロッソ(2017〜2018)→レッドブル(2019)→トロロッソ(2019)→アルファタウリ(2020〜2022)→アルピーヌ(2023〜)。優勝=1回。2022年ドライバーズランキング14位。  



マクラーレンMCL60

【マクラーレン】

 中団トップの座をアルピーヌに奪われたマクラーレンは、昨年末にチーム代表のアンドレアス・ザイドルがザウバーへ移籍し、アンドレア・ステラがチーム代表昇格というかたちを取った。ただ、ステラはレーシングディレクターとしての職務をそのまま継続しており、実質的にチーム体制に変化はない。

 ブルース・マクラーレンによるチーム創設から60周年を記念してMCL60と命名されたマシンは、昨年序盤戦にスイッチしたレッドブル型コンセプトを継続したもの。発表会時点では未完成ともいえる状態であり、これからの開発計画のほうが重要であるとしている。

 だが、開幕前テストではフロントタイヤフェアリングの強度不足が露呈し、10チームのなかで最も周回数を稼ぐことができなかった。昨年のブレーキダクト排出口とは別問題とはいえ、開幕前に周回数を稼げずデータ不足とセットアップ不足が成績不振と開発計画の後れにつながる、という昨年同様の苦境に立たされてしまった。

 5年目を迎えるランド・ノリスは昨年も中団グループで唯一の表彰台を獲得しており、実力は極めて高く評価されている。2021年に何度も獲り逃した初優勝を狙いたいところだが、今季は難しくとも数年以内にそれが可能であるという兆しをチームが見せられなければ、新天地を求めていく可能性もある。

 一方、新人のオスカー・ピアストリはFIA F2、FIA F3を圧倒的な速さと強さで1年で制したエリートであり、シャルル・ルクレールやジョージ・ラッセルと同等の才能。アルピーヌからのデビューを拒絶してマクラーレンを選んだ彼がノリスを相手にどんな走りを見せるのか。マクラーレンはドライバーふたりの関係値にも注目が集まる。

<No.4/ランド・ノリス>
1999年11月13日生まれ(23歳)イギリス国籍。F1経歴=マクラーレン(2019〜)。最高位=3位。2022年ドライバーズランキング7位。

<No.81/オスカー・ピアストリ>
2001年4月6日生まれ(21歳)オーストラリア国籍。F1経歴=マクラーレン(2023〜)。2021年FIA F2王者。

「角田裕毅にエースの自覚?」「アルファタウリは弱点を克服した?」