まもなく第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が開幕する。第2回大会以来の優勝を目指す日本代表は、ダルビッ…

 まもなく第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が開幕する。第2回大会以来の優勝を目指す日本代表は、ダルビッシュ有、大谷翔平を筆頭に錚々たるメンバーが揃った。そのなかでキーマンのひとりに挙げられているのが今永昇太だ。貴重な左腕であり、投手陣ではダルビッシュに次ぐ年長者でもある今永には、グラウンドだけでなくそれ以外の部分での役割も期待されている。そんな今永に今の心境を語ってもらった。



昨年11月の強化試合で圧巻のピッチングを披露した今永昇太

【国を背負って戦うのは怖い】

── 日本代表として今、いよいよWBCへ向かう心境はいかがですか。

「あんなに選ばれたいと思ってきた日本代表にいざ選ばれると、恐怖心が出てくるものなんですね。国を背負って戦うということは、いい結果が出れば英雄のように扱ってもらえるかもしれませんが、国民の方々の期待に応えられなかったら凄まじいバッシングをされる可能性もあるわけで、それは怖いですよ。でも、そういう経験も日の丸を背負うからこそだと考えれば、やってみたいという気持ちもありますし、複雑ですね」

── でも、これまでの国際試合(アジアチャンピオンシップやプレミア12)での今永投手は三振を奪いまくっている印象があります。

「自分ではあまりその実感はありません。むしろ三振をとりたいという欲を出さないことは大事だと思います。空振りはもちろんとりたいし、アウトもとりたいんですが、そう思って力ずくになればなるほど、相手バッターが想像するボールを投げてしまうと思うんです。欲が出ると、ちょっとだけフォームのメカニズムが狂って、腕のしなりが失われたり、リリースポイントの感覚が失われて回転数の多い球が投げられなくなる......そういう経験があるので、あくまでフラットに、ボクシングで喩えるとノーモーションからジャブを打つような感覚で投げるのは一番いいと思っています」

── 国際試合ではいろんな予期せぬことが起こります。だからこそ普段からルーティンをつくらないようにするという考え方と、そういう時こそ普段のルーティンを大事にするという考え方があると思いますが、今永投手はどちらですか。

「僕は普段からのルーティンがあるほうなので、どんな環境でも最低限のパフォーマンスを出すためにルーティンを崩さないよう意識しています。同時に、そのルーティンができなかったとしても気にしない鈍感力を持っていることも大事です。やろうと思っていたストレッチができなかったとか、道具がないとか、アップ時間がとれないとか、そういうなかでも自分で積み上げてきたルーティンをいかに淡々とこなしていくか。それとともに、何かができなかったとしても気にしない。そういう精神状態でいられれば、どれだけプレッシャーのかかる場面であったとしても一発目から自分のパフォーマンスを出しやすくなると思うんです」

【ダルビッシュに聞きたいこと】

── 今永投手は、ダルビッシュ有投手に次ぐ投手陣の年長者になります。7つ上のダルビッシュ投手が投手陣の兄貴分的存在になっているなか、今永投手はどんな役割を担おうと考えていますか。

「昨年11月の強化試合でも僕は年齢が上のほうだったので、いかにしてみんなをその場の空気に馴染ませるかを考えていました。そういう空気は野球以外の生活のなかで築き上げていくべきものだと思うので、僕が率先して橋渡し役を務めようと思っています。

 たとえば高橋宏斗選手は20歳で、急に年上の選手に話しかけたりはなかなかできないと思うので、僕から話しかけようかなと......朝ごはんを一緒に食べようとか、夜、どこかへごはん食べに行こうとか、どっちの例も食事の誘いになってしまいましたが(苦笑)、まあ、そういう会話からコミュニケーションをとっていくことは大事なんじゃないですかね」

── 逆に今永投手がピッチャーのなかでは唯一の年上であるダルビッシュ投手のところへ甘えに行ったりする発想はありますか。

「それはもちろん、ありますね(笑)。この合宿までまったく接点はなかったんですが、ダルビッシュさんのYouTubeとか、SNSでのいろんな発信は僕もたくさん目にしてきているので、そのなかで疑問に思ったことをより深く掘り下げて聞いてみたいと思っています」

── 深く掘り下げるというのは、具体的にはどんなことを?

「ダルビッシュさんはいろんな変化球を投げられる投手で、『こういうボールを投げて下さい』と言われたらそれを再現できると動画でおっしゃっていたんです。さらに、どんな握りでもスライダーは投げられる、リリースがどうとかボールのグリップがどうとかいう話ではないということも話されていて、それはどういう仕組みなのか、ぜひ聞いてみたい。

 あとは"今永昇太"という投手のフォームではどういう球種が投げやすいのかも聞けたらいいんですけど......だからまずはキャッチボールをしたいですね。そこでいろんな変化球を投げていただけたらうれしいし、僕の変化球も見ていただいて、もっとこういう軌道が出せるんじゃないかとか、もっとこういうふうにすればバッターは嫌なんじゃないかとか、そういうアドバイスをもらえたら、もっとうれしいです!」

── 栗山英樹監督からは、どんな言葉をかけてもらってますか。

「WBCのメンバーに内定したというお電話をいただいたとき、11月と同じく若いメンバーが入ってくるから、あの時のようにみんなをなごませたり、野球以外の部分でも協力してくれないかと言われました。1カ月弱の短い期間でチームをつくろうと思ったら、球場のコミュニケーションだけじゃ、絶対に足りない。だからホテルに戻ったあと、いろんな場面でみんなに話しかけて歩くことが大事になると思っています」

── 若い選手に話しかけるのは得意なほうですか。

「自分のことを話すのではなく、相手の得意分野について話をしてもらうのがいいんじゃないかと......そうすれば、僕も勉強になりますからね。年をとればとるほど自分の意見は言わないほうがいいって、雑誌に書いてありました(笑)」

── なるほど(笑)。今永投手は、野球選手にとっての日本代表はどうあるべきだと考えていますか。

「僕はそもそも、誰もできないことに価値を感じています。NPBの支配下選手が1球団に70人いて、12球団で840人。プラス育成選手がいて、およそ1000人のプロ野球選手がいるなかで日本代表に選ばれるのは何人なのか、ということを考えれば、ものすごい倍率じゃないですか。母数を野球人口にすれば、もっともっと倍率が高くなるわけで、つまりは誰もが日本代表になれるわけじゃない。何歳になろうが、どういう状況だろうが、日本代表に選ばれるような成績を常に出さなければいけないし、満場一致で選ばれるような選手でありたい。日本代表は僕にそう思わせてくれる場所だと感じています」