「スポーツと生理」の課題を語る伊藤華英さん伊藤華英の For Your Smile ~ 女性アスリートの未来のために vol.7【わからないと言える雰囲気になった】 私は女子学生アスリートを中心に、「スポーツと生理」にまつわる課題について情…



「スポーツと生理」の課題を語る伊藤華英さん

伊藤華英の For Your Smile ~ 女性アスリートの未来のために vol.7

【わからないと言える雰囲気になった】

 私は女子学生アスリートを中心に、「スポーツと生理」にまつわる課題について情報発信をする一般社団法人スポーツを止めるな「1252プロジェクト」のリーダーとして、さまざまなメディアを通して発信してきましたが、最近ではいろんな方たちが「生理」をテーマに話をしてくれているなと感じています。

 2013年度から国立スポーツ科学センター(JISS)が「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」を実施していて、女性のトップアスリートに関しては手厚いサポートをしていますので、その成果もあり、生理のことについては、話しやすい環境になってきていると思います。

 ただ初経がきてからの10代の若い方たちには、まだ十分に情報が届いている印象はないですね。10代の子どもを持つ親御さんにも届いていないのかなと感じています。それでも少しずつではありますが、この年代の親御さんのなかにも、生理のことについて「よくわかりません」と言える雰囲気になってきた印象があります。意識の高い指導者の方たちも生理の重要性について認識してくれ始めていると思います。

 注意をしてほしいのは、正常な月経周期で生理がきていても、それが決して正常とは限らない場合があることです。「つらいです」「しんどいです」という言葉を言えるようになってきたのはとてもいいことですが、それがどれだけの痛みなのか、経血の量はどうなのかをしっかりと見ておく必要があります。たとえば、「お腹が痛くて起き上がれないけど、1~2日我慢すれば収まるから大丈夫」という状態の人がいたら心配です。これが自分の生理なんだと安易に認識するのはよくありません。

【練習に行けないなら婦人科へ】

 まずは以下の7項目をチェックしてみてください。

□ 月経周期が24日以下or 39日以上
□ 月経期間が2日以内or8日以上
□ 多い時でも1日ナプキン1枚で足りる量
□ 夜用ナプキンを1~2時間ごとに交換
□ レバー状の血の塊が出る
□ 起き上がれないほどツライ
□ 毎月痛み止めを飲んでいる

 上記の7項目のうち1つでも該当するものがある方は、婦人科に行くことをお勧めします。

 月経周期は、月経1日目から次回の月経前日までの日数をいいます。月経周期が24日以下であったり、39日以上になってしまっている方は、周期として適切ではありません。また月経期間が2日以内で終わってしまう方は、エネルギー不足が考えられますし、8日以上の方は過多月経の場合があります。

 1回の血液の量は約140mlが適切だと言われていますが、それを正確に測ることは困難です。なので、多い時でも1日ナプキン1枚で足りる量なのは、少なすぎる目安となりますし、夜用ナプキンを1~2時間ごとに交換するのは多すぎる目安だと考えてください。

 レバー状の血の塊が出るとか、起き上がれないほど腹痛がつらいとか、毎月痛み止めを飲んでいるというのも正常とは言えず、何か診断名がつくかもしれないので、一度婦人科に行ってみてください。

 なかでもわかりづらいのは腹痛かもしれません。生理では多少なりともお腹は痛くなりますが、その度合いが重要です。ひとつの基準としては、アスリートであれば、「お腹が痛くて練習に行けない」ですね。それであれば病院に行ったほうがいいです。

 今、日本の初経平均年齢は12歳ですが、小学生、中学生の方は基本的に元気ですから、「健康のために」と言っても本人はピンとこないんですよね。親御さんも決して積極的に学ぼうという方ばかりではありません。気になること、教えてほしいことがあれば、子どもが初経になったら婦人科に行って、状態を診断してもらうこともいいと思います。

【婦人科へは歯医者に行く気持ちで】

 これまでも婦人科に行くことに抵抗があるという方を見てきました。確かに婦人科でどんなことをされるんだろうとドキドキする気持ちはとてもよくわかります。そんな方たちにはぜひ、歯医者に行く気分で婦人科に行ってほしいなと思います。ちょっと歯が痛いなとか、歯がしみるなと感じた時に、みなさんはすぐに歯医者に行くと思いますが、婦人科も同じです。

 前述のチェック項目に当てはまる人がいたら、まずは行ってみてください。婦人科の先生に「どんなことをされるのか、ちょっと怖いです」と伝えるのもいいかと思います。そうすれば先生が診察について相談にのってくれるでしょう。

「1252プロジェクト」は今年で3年目になります。インスタでスポーツと生理を手軽に学べる1252PLAYBOOKを公開してから1年が経ちますが、生理に関するDMがくることがあります。なかには赤裸々なコメントもあるので、悩みが言える場所がまだ少ないんだなと感じています。

 生理はパーソナルな問題ではありますが、妊娠をするためにくるものですので、女性だけでなく、指導者をはじめ男性も最低限の知識を持ってほしいですよね。周りが知っているという状態が増えてくれば、少しずつ相談する相手が増えてくるかもしれません。

 日々この分野は勉強ですし、今はいろんな分野のアカデミックな方たちが研究をしているところですので、生理については今後さらに新しい発見が出てくるでしょう。

 みなさんもぜひ情報をキャッチアップして、女性も安心してスポーツに励める社会にしていってほしいなと思います。

【Profile】
伊藤華英(いとう・はなえ)
1985年1月18日生まれ、埼玉県出身。元競泳選手。2000年、15歳で日本選手権に出場。2006年に200m背泳ぎで日本新、2008年に100m背泳ぎでも日本新を樹立した。同年の北京五輪に出場し、100m背泳ぎで8位入賞。続くロンドン五輪では自由形の選手として出場し、400mと800mのリレーでともに入賞した。2012年10月に現役を引退。その後、早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科に通い、順天堂大学大学院スポーツ健康科学部博士号を取得した。現、全日本柔道連盟ブランディング戦略推進特別委員会副委員長、日本卓球協会理事。