イチロー人気に沸いた2009年WBC前の宮崎キャンプ「車が動かなかった」 元侍ジャパン内野守備走塁コーチで、現在、大阪経…
イチロー人気に沸いた2009年WBC前の宮崎キャンプ「車が動かなかった」
元侍ジャパン内野守備走塁コーチで、現在、大阪経済大学硬式野球部監督の高代延博氏は2009年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向けた日本代表の宮崎合宿初日のことをよく覚えている。「宮崎市内から球場まで車が動かなかった。あれでもう、すごいんだって実感して……。あんな超満員のところでシートノックしたのも初めてだし、緊張しましたよ」。日の丸を背負う重みを一層感じての始まりだった。
練習メニューは高代氏が作成した。「原(辰徳)監督がキャンプ中のスケジュールは高代さん中心にって、全スタッフの前で言ってくれたのでやりやすかった」という。ウオーミングアップ後に、フリーベースランニングと名付けたメニューを加えた。どれだけ走るかは、すべて選手任せ。最初に川崎宗則が走り出し、イチローが続いた。「イチローが走り出したら、観客席は拍手喝采でした。きれいな走りで、スピード感もありましたね」。
三塁ベースコーチを務める高代氏にとっては「選手の足の具合、どこまでできあがっているんだろうというのがあった」。状態をつかんで、的確な指示につなげ、とにかく怪我をさせてはいけないとの思い。「ある程度の足の能力は把握していたけど、それに一番気を使いました。12球団の宝物ばかりだからね」。超一流選手の集合体だけに「腫れ物に触るような気持ちでいましたね」と正直な胸の内も明かした。
全体練習は午前10時から午後2時すぎまでのスケジュールだったが、それで終わることはなかった。「あとは各自、各チームの主力だからやることもあるだろうしと思っていたら、ずっと『ノックお願いします』『お願いします』ってほぼ全員がきましたからね」と高代氏は話す。「それもなかなか『ラスト』って言わないから『おい大丈夫か、大丈夫か』って何回も言いました。『もういいと思ったら、いいかげんにやめろよ、壊れたら困るんじゃ』とも言いましたね」。
松坂がダルビッシュを立たせて「こいつ腕が短いんですよ」
もちろん、守備練習だけではない。さらに打撃練習にも精を出していた。体が心配になるくらい、誰もが熱心だった。「勉強になりましたね。向上心の強い子は、言われたことだけじゃなくて、自分で考えて、自らやる。うまくなりたいんだ、活躍したいんだ、というふうにね。ああ、こういうふうになるんだと確信めいたものを、その時感じましたよ」。大きな目標に向かって、チームには自然と一丸ムードもできあがっていった。
グラウンド外でも食事会などで盛り上がったという。「覚えているのはアリゾナのステーキハウスに行った時、松坂(大輔)がダルビッシュ(有)を立たせて『これだけの身長がありながら、こいつ腕が短いんですよ』って“発表”したんですよ。みんな笑ってましたね」。
少々のお酒も入っての楽しい宴。「あれも大輔の気遣いじゃないですかね、ピッチャーと野手が交わるところって食事会くらいしかないから。ダルビッシュは『やめてくださいよ、ここまで来て』って言ってましたけどね」。
当時22歳のダルビッシュは、そういう役回りでもあったようだが、高代氏は、この右腕絡みで、もうひとつ、忘れられないグラウンド外の出来事があるという。「あの時は勘弁してくれよって思ったね」。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)