6月18日、エリオドロ・ロドリゲス・ロペススタジアムで行なわれたリーガエスパニョーラ・プリメーラ(1部)プレーオフ準決勝第2戦、テネリフェ対カディスは、日本人MF柴崎岳のゴールで1-0と、ホームチームがリードして90分が終了。第1戦は…

 6月18日、エリオドロ・ロドリゲス・ロペススタジアムで行なわれたリーガエスパニョーラ・プリメーラ(1部)プレーオフ準決勝第2戦、テネリフェ対カディスは、日本人MF柴崎岳のゴールで1-0と、ホームチームがリードして90分が終了。第1戦は1-0でカディスが勝っているため延長戦に突入したが、30分の戦いでは得点が生まれず、プレーオフ規約により、シーズン中の順位が上位のテネリフェが決勝へと駒を進めた。


カディス戦でゴールを決め、小さなガッツポーズを見せた柴崎岳

 主審が試合終了のホイッスルを鳴り響かせると、テネリフェのホームスタジアムのピッチには、まるでプリメーラ昇格を決めたかのように多くのサポーターが流れ込み、決勝進出の立役者たちのもとへと駆けつけた。

 もちろん、この試合で唯一のゴールを決めた柴崎のもとにも多くのテネリフェサポーターが駆け寄り、取り出したスマートフォンで写真撮影を始めるなど、もみくちゃにされた。柴崎は今や、テネリフェのアイドルのひとりとして認められる存在となっている。

 ゴールが生まれたのは34分。右サイドを崩したテネリフェは、カマラのパスをうけたキャプテンのスソがカディス陣内奥深くに侵入し、中へグラウンダーのクロスを送る。このボールはGKに当たって軌道を変え、混戦を抜け出しファーサイドで待ち構えていた背番号20番の前に転がり続けた。

「何も考えなかったですね。ニアだったり、中にはたくさん人がいたので、こぼれ球というか、流れを待っていたら、うまくきたので、決められてよかったです」

 ダイレクトに合わせると、ボールはカバーに入ったカディスDFの届かないコースへ飛び、ネットを揺らす。その瞬間、怒号にも近い大きな歓声がスタジアムを包んでいた。レアル・マドリードから2点を決めたタレントを信じていたテネリフェサポーターたちは、喜びを爆発させた。隣の記者ブースにいたスペイン人記者も記者席の前に座るサポーターも「ガクのゴールを見たか、おい」と言わんばかりに、日本人記者に向けてガッツポーズを見せた。

 もっとも当の本人は、ネットが揺れ、主審がゴールを認める笛を鳴らすと、振り向きざまに小さなガッツポーズを見せただけだった。その姿はいたって冷静で、クールな印象を与えた。

 ゴールの後、一番に柴崎のもとへ駆けつけたアイトール・サンスは、試合後のミックスゾーンで柴崎について聞かれると、「満足しているだろうけど、日本人はああいった感じだから(笑)」と語り、地元メディアを笑わせた。欧州の中でも特に喜びをすぐに爆発させるスペイン人とは違い、感情をあまり外に出さない日本人選手に対しての皮肉めいたジョークにも聞こえるが、それは決してネガティブなものではない。

 サンスは柴崎のことを認めており、そんな冗談が飛び出すのもロッカールームの中での関係がいいからだ。「ガクは人間としてもセンセーショナルだし、信じられないようなクオリティーのプレーをする選手だ。最高の喜びを与えくれるならば、もうテネリフェに銅像を建てるべきだろう(笑)」と、最高の賛辞を送っている。

 この試合の主役となった日本人MFは、試合終了後も主役だった。テレビ、ラジオ、新聞、ネットと、あらゆる地元メディアに囲まれて、スペイン初ゴールを決めたアルコルコン戦(5月28日)同様、通訳の力を借りながらも片言のスペイン語でしっかりと、「すでにヘタフェとの決勝に向けて気持ちを切り替えている」と話した。

「試合終了の笛が鳴った時は次のことが浮かびましたし、中2日しかないので、早く休まないとな、と思っている。あまり満足せずにというか……。お祭りムードになっていますけど、あまりそういったものに流されないように、頑張りたいと思います」

 柴崎のコメントはやはり冷静だった。それは日程的にもカディス戦以上に厳しいヘタフェとの戦いが残っていること、その戦いで成功をおさめることが一番の目標であることを理解しているからだろう。

 ヘタフェを破りプリメーラ昇格を決めたその時は、柴崎もスペイン人のような感情の爆発を見せてくれるかもしれない。