西岡剛が語るWBC 前編理想オーダーと大会に臨む上での心構え 第5回WBCの開幕が近づいてきているが、その第1回大会で大…

西岡剛が語るWBC 前編

理想オーダーと大会に臨む上での心構え

 第5回WBCの開幕が近づいてきているが、その第1回大会で大活躍した西岡剛氏(当時ロッテ)の雄姿を覚えているファンも多いだろう。31打数11安打、2本塁打、8打点、5盗塁と、世界一に大きく貢献した。

 現在、九州アジアリーグの北九州下関フェニックスで選手兼任監督を務めている西岡剛氏に、今回のWBCの理想のオーダーや、第1回大会にどんなマインドで臨んでいたのかを聞いた。


西岡氏が考える大谷(左)の起用法、

「イチローのような役割」とは?

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――まず、今大会で選ばれたメンバーをどう見ていますか?

西岡剛(以下:西岡) 若手で構成されているチームだな、という印象です。そこに、ダルビッシュ有選手(パドレス)、大谷翔平選手(エンゼルス)、鈴木誠也選手(カブス)といったメジャーリーグの選手も加わりましたし、いいチームだと思います。

――選外となった選手のなかで、西岡さんが「入れてほしかった」という選手はいますか?

西岡 入れてほしかったというより、辞退した選手になりますが、坂本勇人選手(巨人)と森友哉選手(オリックス)です。投手陣はダルビッシュ選手というしっかりした柱がいるので心配ないと思いますが、野手陣はどうなのか。誰がキャプテンシーをもって引っ張っていくのか気になりますね。

――キャプテンシーを発揮してくれそうな選手は?

西岡 今回選ばれている選手たちの性格がわからないのでイメージになりますが、"扇の要"であるキャッチャーの甲斐拓也選手(ソフトバンク)なのか、明るいキャラクターの山川穂高選手(西武)や鈴木選手になるのか......。いずれにせよ、若い選手がたくさん集まっているので、選手同士は非常にやりやすいと思いますよ。

【1番・大谷に期待すること】

――西岡さんがオーダーを組むとしたら、どうなりますか?

西岡 1番は大谷選手です。僕が出場した第1回大会(2006年)の第2ラウンド初戦のアメリカ戦で、1番がイチローさん(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)で僕が2番だったのですが、イチローさんがいきなりホームランを打ったんです。目の前でいきなり初球を打っていったのですが、それで「(アメリカに)勝てるんじゃないか」という雰囲気に一気になりましたし、勇気を与えてくれました。その役割を、今回は大谷選手が担ってほしいです。

――2番バッターはいかがでしょうか?

西岡 (ラーズ・)ヌートバー選手(カージナルス)です。特に決勝ラウンドに進むとメジャーリーガーが多くいるチームと戦うことになりますし、メジャーのピッチャーに慣れているのは大きいです。ただ、どこまでできるのかは未知数ですね。

 クリーンナップは、3番が吉田正尚選手(レッドソックス)で、4番は村上宗隆選手(ヤクルト)、5番が鈴木選手です。

――4番はやはり村上選手?

西岡 まだ23歳と若いですが、昨シーズンの成績やこれからの彼に対する期待、経験値を上げていってもらうためにも、ぜひ4番を任せたいですね。そのうしろを、国際大会の経験が豊富で、ふだんからメジャーのピッチャーを見ている鈴木選手に任せる形です。

――6番以降はいかがでしょうか?ちなみに、ファーストは山川選手、岡本和真選手(巨人)など候補が多いです。

西岡 難しいところですね......。6番にはファーストで山川選手を置きましょうか。7番には東京五輪やプレミア12などでも活躍している山田哲人選手(ヤクルト)、8番に甲斐選手、9番に源田壮亮選手(西武)を入れます。

【西岡剛氏が考えたベストオーダー】

1番 DH     大谷翔平(エンゼルス)

2番 センター   ラーズ・ヌートバー(カージナルス)

3番 レフト    吉田正尚(レッドソックス)

4番 サード    村上宗隆(ヤクルト)

5番 ライト    鈴木誠也(カブス)

6番 ファースト  山川穂高(西武)

7番 セカンド   山田哲人(ヤクルト)

8番 キャッチャー 甲斐拓也(ソフトバンク)

9番 ショート   源田壮亮(西武)

【先発、クローザーなどの起用法は?】

―― 一方で投手ですが、先発はダルビッシュ選手、大谷選手、山本由伸選手(オリックス)、佐々木朗希選手(ロッテ)に任せる、と吉井理人投手コーチも話していますが、西岡さんが一番注目しているのは?

西岡 佐々木選手ですね。ダルビッシュ選手については、あらためて説明する必要もないと思いますが、佐々木選手もこれからダルビッシュ選手や大谷選手のように、将来はメジャーに行って活躍する選手だと思うので、21歳でどれだけ活躍できるのかを見たいです。

――1次ラウンドでは、中国、韓国、チェコ共和国、オーストラリアと同組になりました。佐々木選手を起用するとすれば?

西岡 初戦の中国戦に起用するのもありかもしれませんが、中国は格下になるので、2戦目の韓国戦に当ててもいいかなと思います。あとは、ダルビッシュ選手と大谷選手をどう起用していくか。栗山英樹監督からすればフル回転で使いたいと思いますが、その許可がメジャーの各所属球団から下りているのかどうかですね。

 たぶん制限はかかっていると思います。その制限がどれくらいなのかわからないので簡単には言えませんが、ダルビッシュ選手と大谷選手は先発でどんどん投げてもらって、ダルビッシュ選手が先発した時に大谷選手をクローザーで起用するとか、大谷選手が先発の時はダルビッシュ選手にクローザーに回ってもらうといったことも含めて、フル回転してもらうことが理想ではあります。

 登板間隔が空いているのであれば、そういう起用法もありかなと思いますが......実際はそこまでフル回転で使えないと思いますから、どんな起用になるか注目です。

――球数制限があるので、先発のあとを継ぐ第二先発の役割も重要です。今大会では、戸郷翔征選手(巨人)や高橋宏斗投手(中日)など、フォークやスプリットが得意なピッチャーが多く選ばれています。西岡さんは誰に注目していますか?

西岡 戸郷選手は起用したいですね。球の勢いと、フォークもあるので。外国人のバッターに対しては、落ちる球がかなり有効です。チェンジアップよりはフォークが得意なピッチャーのほうがいいですね。

――クローザー候補も何人かいますが、西岡さんならどう起用しますか?

西岡 栗林良吏選手(広島)と大勢選手(巨人)、松井裕樹選手(楽天)を、状況に合わせて臨機応変に回していきたいところです。左バッターが続くようであれば松井投手を当ててもいいですし、「7回がこの投手で、8回がこの投手」といった決めごとはなくてもいいと思います。

【WBCは野球の祭典。大いに楽しんで】

――西岡さんは、第1回WBCで大活躍しましたが、どんなマインドで試合に臨まれていましたか?

西岡 そのWBC、2008年の北京五輪の時もそうだったのですが、ミーティングで先輩たちが「変な試合をしたら日本には帰れないぞ」といったことを話していたんです。でも、僕はあまりそういったことは考えてなくて、「結果を残せばいいでしょう」とシンプルに考えていました。

 先日、ダルビッシュ選手が「戦争に行くわけではない」と過度なプレッシャーへの違和感を口にしていましたが、まさにそのとおりです。"野球の祭典"ですから。結局のところ、お客さんに来ていただく興行、イベントなわけですし、大いに楽しんでほしいなと思います。勝とうが負けようが僕たちは日本を応援するし、「負けたら日本に帰れない」なんて気持ちはナンセンスです。

――そういう気持ちは足かせにしかならない?

西岡 脳からの伝達で体は動くので、そういうマインドで頭のなかを固めると、確実に体は動きません。それよりも、メジャーで活躍している選手たちと同じグラウンドで戦える幸せを感じてほしい。すごくプラスになることばかりです。僕の場合は、メジャーの関係者もたくさん見に来ていたので、「自分の名前を覚えてもらおう」と思っていましたね。

 勝ち負けは"見えないもの"です。僕は、その見えないものと戦う必要はないと思っています。それよりも、「ここではこうしたほうがいい」「このプレーをすれば、こういうプレーにつながる」など、目の前のプレーに集中するべきですし、"今"を戦い抜いてほしいなと思います。試合が始まっても、9回裏のことなんか誰も予測できませんから。

(後編:アメリカ戦のタッチアップ、韓国戦での「完璧」な一発、気まずかったシャンパンファイトを振り返る>>)

【プロフィール】
◆西岡剛(にしおか・つよし)

1984年7月27日生まれ。奈良市出身。2002年のドラフト1位で大阪桐蔭高からロッテに入団し、2005年、2010年の日本一に大きく貢献。その後、大リーグ挑戦を経て2013年に阪神入り。2019年からはBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスでプレーし、2022年からは九州アジアリーグの北九州下関フェニックスの選手兼任監督を務めている。NPB通算で1125試合に出場、打率.288、61本塁打、383打点、196盗塁。首位打者と最多安打が1度ずつ、盗塁王2度。ベストナイン4度、ゴールデングラブ賞3度。2006年WBC、2008年北京五輪日本代表。