どこまでも広がる真っ青な海を横目に、体の引き締まったランナーたちが島の海岸沿い道路を颯爽と駆けていく。冬場にも関わらず、照りつける太陽の下で気温は25度。海風も強い。過酷な環境下で、それぞれの大学名を背負った選手たちが健脚を競い合っていた。…
どこまでも広がる真っ青な海を横目に、体の引き締まったランナーたちが島の海岸沿い道路を颯爽と駆けていく。冬場にも関わらず、照りつける太陽の下で気温は25度。海風も強い。過酷な環境下で、それぞれの大学名を背負った選手たちが健脚を競い合っていた。
舞台は沖縄県内屈指の観光地である宮古島。2月12日、島内全5区間、計98.2キロの長距離コースを走る「宮古島ワイドー・ズミ大学駅伝大会2023」(以下、宮古島駅伝)が開かれ、6大学7チームがタスキをつないだ。島への合宿誘致を目的に2020年に始まり、コロナ禍で21年は中止になったが、開催は今回で3回目を数える。大会名にあるワイドーは宮古島の方言で「頑張れ」、ズミは「かっこいい」「素晴らしい」といった意味がある。
これまでは島内で冬季合宿を行う立教大と芝浦工業大、地元宮古の選抜チームが練習を兼ねて行う“交流色”の強い大会だったが、今回は様相が異なった。その理由は、新たに参加した大学のレベルだ。箱根駅伝の後援企業である報知新聞社が実行委員会に初めて名を連ね、各大学に参加を呼び掛けたことで、今年1月の箱根で3位の青山学院大、5位の順天堂大、10位の東洋大、15位の東海大という言わずと知れた強豪チームが参戦。各区間とも箱根と同程度の約20キロという長い距離を走ることもあり、多くの大学駅伝ファンから注目を集めた。
地元の陸上関係者は「箱根、出雲、全日本の三大大会に続く『第4の大学駅伝』にしたい」と壮大な目標を掲げるが、その可能性はあるのか。大会の意義と課題を探る。
◆【後編】沖縄・宮古島に「第4の大学駅伝」 青学大・順大ら強豪が初参戦、その将来性と課題とは…
■島で盛んな「駅伝」で活性化 報知新聞が協力
そもそも、なぜ報知新聞が関わることになったのか。
立役者は大会事務局代表の曽禰信さんだ。以前は東京の大手広告代理店に35年間勤めていたが、余命宣告を受けるほどの癌を患って退職し、自然に囲まれた環境で治療をするために5年前に宮古島へ移住した。必死の治療とリハビリで回復後、「命を救ってもらった宮古島に恩返しがしたい」と考え、自らの経験や人脈を生かした島の活性化策を模索した。
そこで目を付けたのが「駅伝」だった。宮古島は以前から地域対抗や学区対抗、職域対抗など駅伝が盛んな地域として知られる。2020年から宮古島駅伝も始まっていたため、「この大会を通じて、宮古島を、美しい海を見ながら走ることができるランナーズパラダイスとしてPRしたい」と考え、大会規模の拡大を考えた。曽禰さんが振り返る。
「一つの区間が約20キロという厳しいコースではありますが、この時期の大学は箱根が終わって1〜3年生による新チームになったばかりで、各大学とも長距離をトライさせたい選手を試したり、チームとしての今の力を測れる機会になるんじゃないかと考え、広告代理店の時に仕事でお付き合いがあった報知新聞社に企画を相談しました。そしたら『各チームの強化や支援になる』と理解を頂き、協力をしてもらう形になりました」。
結果、その趣旨に賛同し、報知新聞の呼び掛けに応じた強豪チームが新たに参戦することになった。
■復権を狙う東洋大が完全優勝
東京23区の3分の1ほどの大きさがある宮古島の北西部に位置する宮古島市陸上競技場を発着点とするコースは、1区18.9キロ、2区21.3キロ、3区20.0キロ、4区20.0キロ、5区18.0キロの計98.2キロ。大部分が起伏の激しい島の海岸沿い道路を走る過酷な道のりのため、「力のある選手じゃないとこのコースは走りきれない」と語るコーチも多く、各大学とも主力級がエントリーした。今年、55年ぶりに箱根に出場して話題になった立教大のみAとBの2チームを出し、6大学7チームが出走。その他にも沖縄選抜がオープン参加した。 島の駅伝熱を象徴するように、競技場に集まった多くの地元民が見守る中、レースは午前9時の号砲と同時にスタート。1区では5,000メートルで世界選手権に出場歴のある立教大の上野裕一郎監督が立教大Bで出走し、序盤からレースを引っ張った。しかし上り基調となる後半、暑さの影響もあって大ブレーキとなり、昨春の関東インカレ1部5,000mで4位に入った東洋大の九嶋恵舜が59分26秒で区間賞を獲得した。
1区の2位には、九州学院高校時代から世代トップクラスの選手として注目されてきた青山学院大の鶴川正也が入った。記録は1時間12秒。大学進学後は怪我にも悩まされ、今回が自身初の大学駅伝となった。終盤で九嶋に引き離され、「最初の駅伝で1区で負けてしまったので、これでは使ってもらえない。これから練習で取り戻し、三大駅伝で結果を出したいです」と決意を新たにしていた。初めて走った宮古島のコースについては「アップダウンが多く、暑さもあって今までで一番きつかったです。ただ、この時期のレースでチャンスをもらえた事は良かったです」と振り返った。
東洋大は2区の小林亮太が後続との差をさらに広げると、各区間の中でもとりわけ起伏が厳しい3区の奥山輝、4区の村山太一も追随を許さず。最後はアンカーの菅野大輝が独走状態で競技場に戻り、両手の人差し指を立てながら歓喜のゴールテープを切った。タイムは2位の東海大に6分6秒の大差を付ける5時間21分19秒。全4カ所の中継所を全て首位で通過する完全優勝だった。
これまで箱根で4度の総合優勝を誇る東洋大だが、今年は10位と低迷した。その悔しさを念頭に、菅野は「新チームとなり、強い東洋大を取り戻すためにも『絶対に1位を取ろう』と前日のミーティングで話をしていました。来年の箱根は最低でも3位、そして優勝も目指せるようなチームを全員でつくっていきます」と決意を述べた。沿道から声援を送った多くの地元民に対しては「『東洋頑張れ』などすごい声援を受けたので、いい駅伝になりました。感謝を伝えたいです」と笑顔で語った。
最終成績は以下。
1位 東洋大学 5時間21分19秒 2位 東海大学 5時間27分25秒 3位 立教大学A 5時間28分20秒 4位 青山学院大学 5時間30分58秒 5位 順天堂大学 5時間37分06秒 6位 立教大学B 5時間44分52秒 7位 芝浦工業大学 5時間55分59秒
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文●長嶺真輝(ながみね・まき)