愛知県日進市にある愛知牧場を舞台に1月29日、JCXシリーズ第9戦「東海シクロクロス第5戦 愛知牧場Day2」が開かれた。2020年までJCXシリーズ戦が開催されてきた会場で、シクロクロッサーにとってはおなじみのコースのひとつだが、コロナ禍…

愛知県日進市にある愛知牧場を舞台に1月29日、JCXシリーズ第9戦「東海シクロクロス第5戦 愛知牧場Day2」が開かれた。2020年までJCXシリーズ戦が開催されてきた会場で、シクロクロッサーにとってはおなじみのコースのひとつだが、コロナ禍での中止を経て、今年は3年ぶりの開催となった。

JCXシリーズとしては、すでに男女の総合優勝者は決まっているものの、残り2戦を残すのみとなり、「1勝」を狙う選手、最終順位をひとつでも上げたい選手も多く、さらには35名しか出場できない最終レースへのエントリー権を勝ち取るため、多くの選手が真剣勝負で臨んだ。



コースは牧場のロケーションをうまく活用し設営されている



大会のコースマップ(東海シクロクロス公式サイトより)

コースは、以前と比べて変更点はあれど、牧場のゆるやかな起伏を生かし設営されており、テクニックというよりは、フィジカルのパワーやスピードが求められるコースである点は変わりなし。バイクを担ぎ、登って行く長い階段「ゴルゴタの坂」や、コース後半にある長く、それなりの勾配があり「モーモー坂」など名所がある。観客にとってはこれらの難所は選手がスピードダウンする絶好の観戦スポット。きびしい登坂に臨む選手に大きな声援が送られ、レースはヒートアップしていく。
この日は気温が低く、さらに冷たい強風が吹き、体感温度がかなり低い。シビアな真冬のレースとなった。路面は完全なドライコンディションであり、高速レースが予想された。



15名が参戦した女子エリートのスタート

女子エリートには全日本選手権に勝ち、JCXシリーズの総合優勝も既に決めている小川咲絵(AX cyclocross team)や、オランダで開催される世界選手権に小川とともに出場が決まっている石田唯や大蔵こころ(ともに早稲田大学)らがエントリー。15名の選手がスタートした。
早々に小川と石田、大蔵に日吉愛華(Limited Team 846 まるいち)を加えた先頭グループが形成された。



1周目から4名の先頭集団が作られる



小川咲絵(AX cyclocross team)のペースに耐えられず、2名が脱落。日吉愛華(Limited Team 846 まるいち)が唯一食らいついた

今シーズンは小川のパワーとテクニックに挑める選手は誰もおらず、他の選手を振り切って、独走で優勝を決めるのが小川の勝利スタイルとなった。小川はこの日も先頭に立ち、黙々とペダルを踏み込んでいく。石田と大蔵との差は、じわじわ開いていったが、日吉がひとり小川に食らいついた。
翌週に世界選手権を控えた小川は、勝利への強い意思をみなぎらせながら先頭に立ち、ハイペースを刻み続ける。2周目に入ると、日吉が遅れ、小川は単独で先頭を行く形に。



日吉を振り切った小川は単独で先頭に立つ



日吉をパスする石田唯(早稲田大学)

オーバーペースで走っていた日吉は一気に失速し、ほどなく石田が2位に上がり、3周目に入ると大蔵も日吉を追い抜き、3位に順位を上げた。



安定したハイペースで先頭を行く小川

小川は落ち着いて先頭を走り、そのままトップでフィニッシュ。今季14勝目を上げた。



小川は独走でフィニッシュ



優勝した小川、2位には石田が、3位には大蔵こころ(早稲田大学)。日吉は2分遅れの4位だった

※男子エリートは次ページへ。1秒差の大接戦を制したのは……!?

続く男子エリートには、72名が出走した。最注目は、第8戦を制した沢田時(宇都宮ブリッツェン)。MTBのクロスカントリーでもシクロクロスでも、過去に全日本チャンピオンを経験している。他には、難しいコンディションになればなるほど底力を発揮するベテラン竹之内悠(Cinelli – Vision)や、このシーズンも常に上位で走っている竹内遼(GHISALLO RACING)や鈴木来人らが注目を集めた。



男子エリートが一斉にスタート。先頭を行くのは沢田時(宇都宮ブリッツェン)

定刻通りスタート。ホールショットを取ったのは最有力の沢田だった。沢田を先頭に、竹之内、竹内、鈴木らが先頭をゆく。
2周目に入ると先頭は絞り込まれ、沢田、竹内、鈴木、竹之内、加藤健悟(臼杵レーシング)の5名に。3周目になると、また動きがあった。他の選手らが遅れ、先頭集団は沢田と竹内の2名のみとなったのだ。ここから見応えのある一騎討ちが繰り広げられることになる。しっかりと相手をマークし、双方でアタックを仕掛け合うものの、どちらもすぐにカバー。新たな展開に持ち込むほどの差は生まれなかった。



沢田と竹内遼(GHISALLO RACING)の一騎討ちに。シケインを跳ぶ、ふたりのこのバニーホップの技量がのちに勝敗を分けることになった

4周目に入ると、後続のメンバーらとのタイム差は12秒に。2人とも、バニーホップでシケイン(障害物)を跳び、全く互角の走りを見せる。先頭を入れ替えながらも、2名の態勢に変化はなく、互いをマークし合いながらもハイペースを刻む2名と、後続との差は、さらに開き、中盤には40秒以上に開いた。事実上、優勝争いは先頭の2名に絞り込まれた。



バイクを担ぎ先頭で長い階段「ゴルゴタの坂」を登る沢田



沢田と竹内と先頭を入れ替えながら走る

周回コースを使うシクロクロスでは先頭のペースを基にして、一定時間遅れた選手にはタイムアウトが宣告されていく。この日は強風の中、先頭がハイペースを刻んだため、次々と選手がレースから降ろされていくことになった。先頭2名は仕掛けどころを探しながら、二人旅のまま最終周回に突入した。
この2人の明暗を分けたのは、バニーホップの技量だった。ほぼ互角の2人だが、一連のバニーホップの動きの中では、竹内の方が上回る技量があったという。竹内はラスト200mに設置されたシケインで勝負を仕掛けた。バニーホップでシケインを跳ぶと、ごくわずかに先行し、その、ごくわずかな差を保ち、フィニッシュを目指す動きに出た。



バニーホップの一連の動きでごくわずかなアドバンテージを得た竹内



竹内はそのわずかな差に賭け、全力でフィニッシュに飛び込み、悲願の優勝を手に入れた

全力でフィニッシュを目指す竹内。アドバンテージはごくわずかだが、生じた「差」は、大きさに関わらず、勝負において決定的な意味を持つ。決死の覚悟でフィニッシュに向かう竹内に沢田は追いつくことができず、竹内はそのままフィニッシュ。まさに1秒差で、悲願の優勝を手にしたのだった。一対一の死闘を繰り広げた2名の選手に、観客から惜しみない拍手が送られた。この日の完走者はわずかに28名だった。
竹内は全日本ではスタート後の落車に巻き込まれ、絶望的な状態に追い込まれるなど、不運が続いていた。同時に全日本では単身で6位まで順位を上げ、フィニッシュするなど、強靭なメンタルとフィジカルを見せていた。
「愛知は第二の故郷」と語る竹内は、表彰台では満面の笑みを見せ、勝利の喜びを語った。この日は「勝つこと」にフォーカスし、レースを走ったという。この次にはメジャーレースとしてはシーズン最終となる「シクロクロス東京」がお台場で開催。世界選手権への挑戦を終えた選手も参戦予定で、最終戦に選手たちがどう挑むのか、。

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【JCXシリーズ第9戦】
東海シクロクロス第5戦 愛知牧場Day2
男子エリート

1位/竹内遼(GHISALLO RACING)1時間6分25秒
2位/沢田時(宇都宮ブリッツェン)+1秒
3位/鈴木来人 +1分36秒4位 
4位/小村悠樹(Team Eurasia iRC-Tire)+2分
5位/竹之内悠(Cinelli – Vision )+2分9秒

女子エリート
1位/小川咲絵(AX cyclocross team)44分3秒
2位/石田唯(早稲田大学)+1分3秒
3位/大蔵こころ(早稲田大学)+1分24秒

画像:Satoshi ODA

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