ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」──今週は、今年最初のGIフェブラリーS(2月19日/東京・ダート16…

ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

──今週は、今年最初のGIフェブラリーS(2月19日/東京・ダート1600m)が行なわれます。

大西直宏(以下、大西)毎年のことながら、最初のGIは心が躍りますね。先週のGII京都記念でも2頭のスターホースが競演するということで、GII戦とは思えないほどの大歓声と拍手が沸き起こっていました。やはり大きな盛り上がりのなかで行なわれる競馬はいいもんだな、と思いました。今週の東京では、先週以上の大歓声が聞かれるのではないでしょうか。

――その注目の一戦、フェブラリーSの出走メンバーをご覧になっての印象を聞かせてください。

大西 年明け時点で想定していたメンバーから、だいぶ顔ぶれが変わりました。僕は、今年のフェブラリーSは「カフェファラオの3連覇をどの馬が止めるのか?」が最大のテーマになると考えていたのですが、同馬はサウジへと矛先を変更。そこは、想定外でした。

 加えて、この路線の"新星"候補だったギルデッドミラーが直前で故障して引退し、ハピら3歳時から古馬相手に善戦していた面々も不参加。そんななか、海外から初めて参戦する馬がいるなど、当初描いていたメンバー構成とはかなり違いますね。

――サウジカップデー(今年は2月25日に開催)と同時期の開催とあって、近年は有力馬がそちらに向かう傾向があります。

大西 メインレースとなるサウジC(サウジアラビア/ダート1800m)の1着賞金はフェブラリーSのおよそ10倍(1000万ドル=日本円で約13億円)というのだから、向こうに参戦するのは仕方がないですね。

 そうなると、フェブラリーSからは真の"ダート王決定戦"という意味合いが薄れてきていると思います。"東京・ダート1600mで一番速く走れる馬を探す"というレースと考えたほうがいいかもしれません。とはいえ、最強メンバーが出走しないのは残念ですが、馬券的な妙味はたっぷりあるので、楽しみな一戦です。

――下馬評では、前哨戦のGIII根岸S(1月29日/東京・ダート1400m)を制したレモンポップ(牡5歳)と、明け4歳馬のドライスタウト(牡4歳)の「2強」ムードですが、大西さんはどうご覧になっていますか。

大西 根岸Sの上位組は(フェブラリーSに向けて)一番イメージを湧かせやすいので、レモンポップが人気になるのは納得です。前走が初の重賞勝ちでしたが、この馬はデビュー時から重賞級のパフォーマンスを見せていた馬ですから、やっと大きな舞台にたどりついた、というだけ。ケガがなければ、とっくに大きなタイトルを手にしていたと思います。

 ドライスタウトも"表舞台"の重賞には参戦していませんが、2歳時には地方交流GIを制覇。秘めるポテンシャルは相当高いと見ています。追い出されてからのフォームが特徴的で、前肢も後肢もよく伸びて完歩がとても大きいですよね。レモンポップの主戦でもある戸崎圭太騎手がこちらに騎乗するということが、すべてを物語っているのではないでしょうか。

――「2強」に異論ナシということですが、あえて不安材料を挙げるとすれば、何かありますか。

大西 レモンポップは「1400mがベストで、マイルは距離が少し長い」という見方がありますが、僕は乗り方ひとつでこなせると思っています。この馬は、毎回スッと好位に取りついて直線半ばで先頭に立つ、という競馬を披露。そのレースぶりは、まるでリプレイを見ているかのようで、すべてが同じレースかと錯覚するほどです。

 ただそれは、1400m戦を勝つための最適な乗り方だから、そうしているだけでしょう。マイル戦となれば、ポジションをもう1列うしろで構え、追い出しをいつもよりワンテンポ遅らせれば、1ハロンの距離延長もこなせるはずです。

 今回は、坂井瑠星騎手へと乗り替わりになりますが、先入観を持っていない騎手へのスイッチが(距離延長で)プラスに働くような気がします。でも逆に、前任者の乗り方を踏襲することに意識が強くなって、早く仕掛けてしまった時は不安があります。

 一方のドライスタウトについても、欠点は少ないと思います。不安があるとすれば、単純に相手関係だけです。2歳時に地方交流GIの全日本2歳優駿(川崎・ダート1600m)を勝っているとはいえ、戦ってきた相手を見ると、ものすごいメンバーを負かしてきたわけではありませんからね。

 古馬GI級と対戦するのは、今回が初めて。それらとの力関係で上回れるかどうか。要するに、答えが出る前に期待が先行しすぎている、という点が不安材料になるのかもしれません。

――「2強」が有力なのは間違いなさそうですが、波乱になる可能性も少しはあるのでしょうか。また、「2強」に割って入るような存在はいるのでしょうか。

大西 可能性で言えば、ゼロではありません。とりわけ初参戦となる海外馬、シャールズスパイト(牡6歳)は未知の存在。芝のマイルGIメーカーズマークマイルS(アメリカ・芝1600m)の覇者ですから、スピード性能が高いことは証明されています。

 そうなると、比較材料がまったくないなか、東京・ダート1600mの適性が高かった、というシーンは捨てきれません。特に当日の馬場が渋った際には、警戒の度合いを上げたいですね。

 あと、波乱の可能性があるとしたら、展開によって、でしょうか。絶対的な本命馬が不在で、どの馬にもチャンスがあるというレースでは、乗り役はいつも以上に色気を持って臨みます。そういう時は、早め早めの流れになることがしばしば。

 そんなふうに極端な展開になった際には、思わぬ波乱が起きるかもしれません。まして、今年は人気馬が前でレースを進めるので、差しタイプの穴馬には要注意です。



3年連続のフェブラリーS参戦となるレッドルゼル

――そういった差しタイプの穴馬で、大西さんが気になる存在はいますか。

大西 レッドルゼル(牡7歳)ですね。理由はいくつかあります。まず、今年で3年連続の出走となりますが、過去2年(2021年=4着、2022年=6着)のレース内容はいずれも決して悪くありませんでした。

 昨年は1番人気に応えられませんでしたが、当時は馬場が軽すぎて前が止まらなかったのが敗因です。時計がかかる良馬場だったら、直線で先行馬の脚が鈍っていたと思うので、レッドルゼルがいた3列目の馬たちがもっと伸びていたはず。「勝てた」とまでは言いませんが、2~3着はあったと思います。

 また、年齢を重ねると、たいていの馬はズブくなりがちですが、同馬もそうです。近走はスプリント戦が中心ですが、その反応を見ていると、「むしろマイルくらいの距離のほうがいいのでは?」と感じることがあります。つまり、今回の距離延長もマイナスには考えていません。

 そして、この中間の調教の変化。これまでほとんど坂路追いばかりだったのが、ウッドコースでの追い切りを何本も取り入れて調整しています。もちろんこれは、距離延長に対応するためのスタミナ強化を狙ってのものだと思いますが、ここに懸ける陣営の意図ははっきりと伝わってきています。

 同馬は常に上位人気となる馬でしたが、今回は1、2を争うような人気にはならないでしょう。鞍上の川田将雅騎手としても、気楽な立場で一発を狙ってこれるのではないでしょうか。過去2年と比べると、相手関係もラクになるので、3度目の正直で馬券圏内に入ってきてもおかしくないと踏んでいます。