四大陸選手権リズムダンスの村元哉中・高橋大輔カップル【 「笑えない状況」も励まし、励まされ】 2月、アメリカ・コロラド。四大陸選手権のアイスダンスで、"かなだい"と親しみを込めて呼ばれるふたりはリンクに立ってい…


四大陸選手権リズムダンスの村元哉中・高橋大輔カップル

 

「笑えない状況」も励まし、励まされ】

 2月、アメリカ・コロラド。四大陸選手権のアイスダンスで、"かなだい"と親しみを込めて呼ばれるふたりはリンクに立っている。

「リズムダンスは、(マリナ・ズエワコーチに)哉中が(転倒を)慰められて。フリーダンスは大ちゃん(高橋大輔)が『大丈夫だから。前半はエモーショナルでよかった』って励まされて」

 村元哉中はフリーの演技が終わったあと、そう振り返っている。

「(フリーの後半)疲れてはいましたけど、悪くなかったし、いつもより足にきていなかったので。だからこそ、(転倒は)ショックすぎます。体は大丈夫だったんですけど、メンタル的に......笑えない状況でしたね」

 高橋大輔はそう言って、精一杯、笑顔をつくった。

 結果はハッピーではなかった。リズムダンスでは村元、フリーでは高橋の転倒があり、ふたりとも悔しさをにじませていた。しかし、かなだいらしさも色濃く出た大会だったーー。

 四大陸選手権のアイスダンスは2月11日、13日に行なわれ、かなだいはトータル9位に終わっている。トータル160.24点とスコアは伸びていない。昨年、栄えある銀メダルを手にした大会だけに、成績は不本意だろう。

 しかし、激しい運動をすると酸欠になりそうなほどの標高1800mの高地で、ふたりは徹頭徹尾、攻め抜いた。

「失敗はアクシデントだと思うので、仕方ないです。攻めた結果だったのでよかったと思います」

 リズムダンス後、高橋は村元を気遣うように言っていたが、ギリギリを攻めた結果だろう。

「たくさん練習を積んできたので、自信を持って滑ろうと思いました。そこで、ちょっとでもレベルをとろうと力強くいったら、(氷に)引っかかってしまって」

 村元自身も、その失敗の理由を説明していた。

【渾身のリフトにスピンで魅了】

 アイスダンスは優雅に映るが、そう見せるために筋力や持久力が高いレベルで求められる。厳しい条件のなか、ひとつ大きなミスが出たら台無しになる。それでも、彼らは安全策に逃げなかった。

 とりわけ、フリーの『オペラ座の怪人』は前半から渾身の演技を見せている。

 冒頭のコレオから高いGOE(出来ばえ点)をたたき出し、ストレートラインリフト+ローテーショナルリフト、ステーショナリーリフト、ダンススピンと世界トップに比肩する美しさで、いずれもレベル4だった。

 人生をかけて磨いてきた演技が、観衆を虜にした。

 終盤のダイアゴナルステップシークエンスで、高橋は力を使い果たしたように転倒したが、攻めきった結果だった。

 高橋本人は「倒れた理由はわからない。体は大丈夫」と言ったが、体内の酸素が尽きたように見えた。最後は気持ちだけで体を動かしていたはずで......。

 昨年12月、全日本選手権でかなだいは見事に初優勝を遂げている。カップル結成3年目で、称賛に値した。

 高橋に至っては、シングルで復活したあとに転向したわけで、歴史的快挙だった。全日本をシングル、アイスダンスと、時を経てふたつの種目で制した。

 王者である達成感に浸っても不思議ではなかった。

【自分たちは自分たちのベストを】

 ところが、全日本優勝直後のインタビューでも、ふたりはすでに次の戦いに向けて意欲的だった。読者プレゼント用の色紙にサインをリクエストすると、ふたりともためらわずに「NEW」という言葉を使い、メッセージを書いた。

「新しく作り出す世界」

 そのイメージを共有していた。栄光に甘んじず、視線は前に向いていた。その精力的な取り組み方こそ、ふたりがアイスダンスで新時代を切り拓くことができた理由だろう。

「世界選手権までに完成形を見せられるように」

 全日本後にふたりは口をそろえて語っていたが、今はそのプロセスだ。

「大ちゃんは本当に"スケートを追求したい"っていう気持ちが強いんです。練習中も、一人でこう(上半身を使って滑る様子を表しながら)常に滑りをチェックしています。失敗すると、またそこを確認しながら滑って。本当にスケートが好きなんだって。一緒に滑っていて、それは強く感じますね」

 村元は語っていたが、ふたりとも"アイスダンスそのものを生きている"のだ。

「結果よりも、練習を重ねるなかで(技が)身につくことのほうが楽しいかもしれません」

 高橋は笑みを交えて語っていた。

「練習で『1週間前にはできなかったのにできる!』とか、そういうのが楽しいですね。(全日本のフリーの最後で)失敗したリフトも、1シーズン目はできなかったんです。乗っけるだけなんですけどできなくて。それが3シーズン目にやってみた時、時間がかかるかなと思っていたら、意外にすぐできて。そういう変化は嬉しいです」

 ふたりの姿勢は一貫している。リンクでの日々に答えはあるのだ。

「毎試合、課題は見つかるもので」

 四大陸選手権後、村元はそう振り返って、次の世界選手権に向けてポジティブだった。

「全体のベースはできているので、細かいところを詰めて練習を続けていきたいです。世界選手権ではトップ選手がそろうことになりますが、自分たちは自分たちのベストを、パーフェクトの演技をするだけで。

 今回の経験でもっと強くなれるはずだし、1カ月さらにトレーニングをして、高いモチベーションで臨めるように」

 一方で高橋は短いが、彼らしく言った。

「本番はどうなるかわかりませんが、まずは練習を大事に」

 3月、埼玉。かなだいは2度目の世界選手権に挑む。目標は日本勢初のトップテン入りだ。