堀口恭司 インタビュー前編日本の総合格闘技の「遅れ」 2019年6月に『RIZIN』と『Bellator』の2団体で世界王者になる偉業を成し遂げるなど、"最強のMade in JAPAN"と称される堀口恭司選手。2022年の大みそかに行なわ…

堀口恭司 インタビュー前編

日本の総合格闘技の「遅れ」

 2019年6月に『RIZIN』と『Bellator』の2団体で世界王者になる偉業を成し遂げるなど、"最強のMade in JAPAN"と称される堀口恭司選手。2022年の大みそかに行なわれた『RIZIN.40』のRIZIN vs Bellatorの全面対抗戦では、Bellator軍の中堅を務めて扇久保博正に快勝(判定3-0)。フライ級に転向して初めての勝利を挙げた。

 その対抗戦の試合後、堀口選手が口にした「技術的なものが日本は遅れてるかな」という発言も話題になった。インタビュー前編では、その技術の差について詳しく語ってもらった。



Bellatorなど世界のトップで活躍を続ける堀口

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――あらためて、『RIZIN.40』での勝利、おめでとうございます!

「ありがとうございます!」

――バンタム級(-61kg)からフライ級(-57kg)に階級を下げての試合となりましたが、コンディションはいかがでした?

「しっかり減量をした、くらいの感覚でしたね。コンディションはバンタム級の時と変わらず、まったく問題なかったです。ちょっと体が軽くなった感じはしましたけど、体調が悪いとかはなかったですね」

――扇久保選手とは3度目の対戦(※)でした。堀口選手の強さを証明する内容でしたが、本人の手応えはいかがでしたか?

(※)2013年:修斗世界フェザー級(-60 kg)タイトルマッチで王者・扇久保博正に挑戦し、一本勝ちで王座獲得。2018年:RIZIN.11で堀口が判定勝利(判定3-0)。

「KOできるシーンが何回かあったので、『しっかりKOしたかったな』っていうのが正直な気持ちです。決められないってことは、自分に何か悪いところがあったということ。アメリカに帰って研究して、修正したいと思ってます」

――1ラウンド終了間際、パウンドに行くところはロープが邪魔そうな場面がありましたね。

「本当に邪魔でした(笑)。もう1段下のロープの間に体を入れようかとも思ったんですけど、そうすると低すぎて、距離がなくなってパンチが打てなくなる。一番パンチが強く当たる距離で打てなかったです。あの場面はレフェリーが止めるかな、とも思ったんですけどね。扇久保選手がけっこう打たれ強かったんで、決めるのが難しかったです」

――階級をフライ級に落として、パワーに影響はありましたか?

「みんな『パワーが大事』って言いますけど、僕はそこまでパワーを使わないんです。パワーに頼るとスタミナがなくなっちゃいますから。打撃が当たる瞬間や、組んだ時はちょっと使いますけどね」

――先ほど、「アメリカで修正する」とおっしゃっていましたが、アメリカに戻るのはいつ頃の予定ですか?

「今回はいろいろ仕事もしてからなので、1月後半ぐらいには戻ろうと思ってます(インタビューは1月中旬に実施)。日本で試合があったあとにどのくらい滞在するかは、いつも決まってないです。

 その間は軽く走るくらいで、体がなまらない程度に体を動かす感じです。僕は日本にいる間に、他のジムに行って練習することがあまり好きじゃなくて。アメリカに帰ったあと、自分のジム(アメリカン・トップチーム/ATT)でやればいいと思ってます」

【総合格闘技をとりまく環境の差】

――Bellatorの5戦全勝となったRIZINとの対抗戦、大会後に堀口選手は日本とアメリカの「技術の差」について言及していました。堀口選手が所属するアメリカン・トップチームだけでなく、アメリカは総じてジムのレベルが高いのでしょうか?

「他のジムもレベルが高いかどうかはわかりませんけど、ATTのコーチたちは本当にいろんな試合を見ています。彼らは常に新しい技術を研究して、どんどん取り入れているんです」

――堀口選手がかつて所属していた「KRAZY BEE」(山本"KID"徳郁氏が設立した総合格闘技のジム)からATTに移ったあと、もっとも違いを感じたのはどのあたりでしょうか?

「日本はまだまだ、『総合格闘技が職業として確立されてない』ということですね。RIZINが出てきて各メディアで放送されるようになって、他にも新しい団体ができてきたり、そういう流れになってきた感じもありますが、コーチなど指導する側が全然足りていない。

 一方でアメリカでは、総合格闘技が競技としても、関わる人たちの仕事としても成り立っています。生活も保障されているからこそ、いいコーチが揃い、全体のレベルが上がる。格闘技だけできちんと生活ができることが、大きな違いかなと思います」

――練習環境については、日本の場合は所属ジムとは別にボクシング、キックボクシング、フィジカルトレーニングなどをそれぞれ別のジムで行なう選手も多いように感じます。それに対してATTでは、すべてを一か所でできるわけですね。

「そうっすね。ひとつの場所で全部できることは、簡単に言うと『強くなるための近道ができる』ということ。僕の場合は、ヘッドコーチのマイク・ブラウンのほかに、柔術のコーチなど各部門のプロフェッショナルがついています。

 彼らは毎週2回、コーチ同士で話し合いをします。これはトップのファイターに限ったことですけど、『この選手はどう伸ばしていく?』といったように指導方針をミーティングするんです。それも日本のジムではあまり見られない光景ですね。ATTが特別なのかもしれませんけど、コーチ陣も日々レベルアップに向けて動いています」

――複数のジムでバラバラに練習をする場合、それをトータルで見てくれるヘッドコーチの存在は必要でしょうか?

「いることが理想ではありますね。出稽古でどこかのジムに行く場合は、自分に足りていない技術、身に着けるべき技術の取捨選択をすべて自分で判断し、『どのジムに行くのか』などを含めてまとめないといけない。それができる選手は多くないと思うんです。僕も日本にいた時には『自分でやれる』と思っていたんですが、アメリカに渡ったあと、寝技など足りない部分がすごくあったことに気づいた。自分の"穴"をトータルで埋められたので、すごくラクでした」

――堀口選手の場合、ヘッドコーチのマイク・ブラウン氏が練習メニューを考えるんですか?

「基本はそうですが、あまり『コレをやれ』と強く要求されることはないです。『コレやったほうがいいんじゃない?』と客観的な視点から提案してくれる感じです。各専門のコーチ陣も、かなり細かい部分のアドバイスをしてくれますね」

――ATTは質の高い選手が多いことも強みでしょうか?

「それも大きいです。ATTには、レスラー、柔術家、打撃が得意な選手など、あらゆるタイプの選手がいます。だから、自分の対戦相手に近いタイプの選手と一緒に練習することもできるんです。そういうところでも差は生まれるかもしれませんね」

【勝利のためにチームで考えるプラン】

――試合の戦術についてもお聞きします。堀口選手は2020年12月に行なわれた「RIZIN.26」の朝倉海選手との2度目の対戦で(1ラウンド2分48秒で堀口選手がTKO勝利)、カーフキックで攻めるプラン、寝技で攻めるプラン、それらを混ぜるプランと「3つのプランを用意していた」と話していました。そういったプランは、ヘッドコーチのマイク氏が考えるんですか?

「マイクが考えますが、もちろん自分でも考えて話し合って決めていきます。トップにいる選手は、そういったことがチームでできている印象がありますね。日本人選手だと、那須川天心選手もそう。他の選手は、そこまでプランを考えてないのかな、と思うこともあります」

――複数のプランを用意すると、試合中にプランを変更することもあると思います。その選択はどのようにするんですか?

「そこは僕の感覚で決めます。試合は常に動いてますから。たとえば、前回の試合(扇久保戦)だったら、相手がカーフキックをまったく防御しなかったので『これで行けるな』と。そういうのを確認しながら、プランに自分を当てはめていく感じですね」

――同じKRAZY BEE出身の矢地祐介選手に話を聞いた際には、シチュエーションごとの練習はできていても、そこに持っていくまでのアプローチ、プレッシャーのかけ方などの部分が自分には足りていなかったと話していました。自分が思い描く局面に持っていくアプローチについてはどう考えていますか?

「相手の追い詰め方は、相手の癖などをしっかり見て研究して、どうやったらプレッシャーがかかるかを考えます。簡単に言うと、『相手の苦手なところに持っていく』ということ。試合中にそんな展開になりそうになると、誰でも『おっ』ってなるじゃないですか。それも見極めながら攻めていく感じです。

 なんでもできる選手は、どこに持っていけばいいのか迷っちゃう部分もあると思います。僕もなんでもできますけど、ココっていうポイントがあるんで、そこにつなげればいいだけなんです」

【MMAファイターとしての完成度の差】

――外国人選手と日本人選手では、フィジカルの差が指摘されることもありますが、その点についてはいかがですか?

「関係ないと思います。フィジカルに差があるならば、フィジカルじゃなく技などで勝負する。僕としては、『フィジカルの差』というのは言い訳なんじゃないかなと思います」

――RIZINとBellatorの対抗戦では、Bellatorの選手たちのMMAファイターとして完成度の高さが見えたような印象もあります。

「そこも日本は、ちょっと遅れているかもしれません。少し前なら、打撃や寝技、ひとつ秀でていればけっこう勝てていました。だけど、そのストロングポイントを重点的に対策されちゃうと、突破口がなくなるような感じになってきている。それでも、対抗戦の大将戦でAJ・マッキー選手と戦ったホベルト・サトシ・ソウザ選手は、得意な寝技にうまく持っていって決めようとしていましたけど......やっぱり攻略されてしまいますよね(3-0でAJ・マッキーの判定勝ち)」

――MMAファイターとして穴をなくすためには、ボクシングやキック、柔術、レスリングなど、さまざまな練習が必要だと思います。堀口選手はそれぞれの技術を、どのようにMMA
に落とし込んでいるんですか?

「それぞれを練習して、使えるかなと思った技をピックアップしてMMAのスパーリングで試す。それを何回かやってみて、うまくいったものだけを取り入れます。うまくいかなかった技でも、『有効だな』と思った技は磨いていくこともありますね。

技の取捨選択は自分で判断することもあるし、スパーを見ていたマイクに『どうでした?』って聞くこともあります。それで『よかったじゃん』って言われたら使うようにしたり。取捨選択する手段は、いろいろありますよ」

(中編:堀口恭司が「最強のMade in JAPAN」になるまで。空手でボコボコにされた日、師匠KIDとの渡米前のやりとり>>)

【プロフィール】
堀口恭司(ほりぐち・きょうじ)

1990年10月12日生まれ、群馬県高崎市出身。5歳から空手を始め、高校卒業後に山本"KID"徳郁氏のジム「KRAZY BEE」に入門。2010年に修斗でプロデビューを果たし、2013年からUFCに参戦。2017年にRIZINと契約し、翌2018年12月にRIZINバンタム級、さらに2019年6月にBellatorバンタム級の王座を獲得。2大タイトル同時制覇を成し遂げた。2019年11月に負傷により両タイトルを返上。翌年12月の朝倉海戦で王座を奪還した。現在はRIZINとBellatorの両団体で活躍中。