日本サッカー界に、異端児がいる。欧州でプロクラブの監督をできるライセンスを持ちつつ、マーケティング会社を経営し、メディ…

 日本サッカー界に、異端児がいる。欧州でプロクラブの監督をできるライセンスを持ちつつ、マーケティング会社を経営し、メディアの世界でも活躍してきた湯浅健二さんだ。サッカージャーナリスト・大住良之が、ワールドカップと新シーズン開幕が迫るJリーグをテーマに独特の視点からの貴重な意見を聞きだした。

■サッカー界の異端児

 湯浅健二さんは非常に変わった人だ。北海道で生まれ、神奈川県で育ち(育ちすぎて189センチという長身になってしまった)、大学卒業とともにドイツに留学した。ケルン国立体育大学で学び、1981年にドイツの「スペシャル・ライセンス(プロサッカーコーチライセンス)」を取得。

 このライセンスは欧州サッカー連盟(UEFA)のプロライセンスも兼ね、欧州のトップリーグで監督ができる資格である。1982年に帰国して読売サッカークラブ(現東京ヴェルディ)でコーチを務めた後、1986年からマーケティングの会社を営み、同時にメディアの世界で活躍してきた。数多くの著書があるが、現在は『湯浅健二のサッカー・ホームページ』というサイトを中心に、自在に持論を展開している。

 日本のサッカー、あるいはもっと広く日本の社会において、彼は間違いなく「異端児」である。直截(ちょくせつ)的な表現で物議をかもすこともある。しかし何ものにもとらわれない自由な発想、ピッチの上でサッカーを表現する選手や監督たちを「ロボット」ではなく「人間」として見る目の温かさと厳しさから生まれる意見は、傾聴に値すると私は思っている。今回は、昨年のワールドカップをどう見たか、湯浅さんと話しながら、今季のJリーグにどうあってほしいか、何を見たいかを考えてみた。

 ただし、湯浅さんはカタールには行っていない。東京に残り、自宅で全試合のテレビ中継を見た。湯浅さんと話したかった理由のひとつがそこにある。私はカタールに行って毎日試合を見た(ときには2試合)が、実際にスタジアムに行くことができなかった試合をじっくり見ることができたわけではない。そうした立場の違う人の見方を問うことは、私のような仕事でとても重要なことだと思っている。

 この記事はラフな会話体になる。湯浅さんは私と同年代で、いつもこんなふうに話しているので、ご容赦願いたい。

■最初のキーワード「国際化」

大住 湯浅さん、ワールドカップは全試合見たよね。

湯浅 もちろん。

大住 何を感じた?

湯浅 最大のベースは「国際化」。それがひとつ目のキーワード。

大住 モロッコがアフリカ勢として初めて準決勝に進んだよね。

湯浅 テレビやいろいろなメディアによって、世界中の子どもたちがイメージトレーニングできる素材を見ることができるようになった。攻守のハードワークをいかに主体的にさせるかってことを含めて、「こういうプレーをするためには、こうでなければならない」ということが目からはいるようになったのは、非常に大きい。

大住 サッカーはイマジネーションのスポーツだからね。創造的なプレーもあるかもしれないけど、99%はこれまでに見たものから生まれている。

湯浅 「クライフ・ターン」がそうだよね。1974年のワールドカップの1か月後には、器用な子たちはみんなまねしてた。それまでは足の裏を通すなんてことは誰も考えなかった。

大住 子どもたちにはいる視覚情報が増え、それで上下の差が縮まった?

湯浅 そのとおり。そして「国際化」のもうひとつの側面が、上位に行ったチームの多くの選手の多くが「フットボール・ネーション」と言われる国の最高のリーグでプレーしているということ。イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランスポルトガル。少し残念なことではあるけれど、カネが回るところでしかサッカーの質は上がっていかない。そこに優秀な選手が集まって鍛えられるので。

大住 たしかに、残念だけど事実だね。

■攻守の強化の循環

湯浅 そうして「国際化」とともに今大会キーとなったのが、「守備」なんだよ。

大住 なるほど。

湯浅 モロッコやクロアチアといった国の優秀な選手が最高のリーグでプレーして鍛えられている。守備の最重要点を、私は「最後の半歩」という言葉で表現をしている。

大住 「もう半歩踏み込め」ということ?

湯浅 いや、物理的な話じゃない。次に相手はどこを狙ってくるか、最終勝負のときにどのスペースにやってくるか、それをちゃんと自分でイメージできるか、それが「最後の半歩」。僕は「イメージング」とも言うんだけど。

大住 攻撃と守備は表裏一体のものだからね。守備が強くならなければ攻撃は進化しない。攻撃が進化しないと守備も強くならない。

湯浅 そのとおりだよ。ブラジルが何でいちばん強いのか。あの守備はすごい。だから当然攻撃もすごい。最高の選手たちが集まる最高のリーグでは、何よりも守備が鍛えられる。そして「高次平準化」という、これはマーケティング用語なんだけど、そういう現象が起こる。ワールドカップの歴史をたどってみると、近年はどんどん「こんな弱いところが」というチームがしっかりとしたサッカーをするようになっている。

大住 モロッコとクロアチアはその好例だね。さっきの「国際化」という話だけど、子どもたちもあるけど、コーチたちのもっている情報も、その量や伝わってくる速さが現代はすごい。時代遅れのサッカーをやってるチームなんて、ワールドカップではもう見られない。

湯浅 それが国際化の最大の貢献。日本も例外ではないよ。

いま一番読まれている記事を読む