2オーバーの82位タイと出遅れ、「最悪です」の言葉を吐き捨てた全米オープン初日のラウンドからおよそ24時間。大草原の中に切り拓かれたエリンヒルズGC(ウィスコンシン州ミルウォーキー近郊)には、まるで別人の松山英樹がいた。難しいパットも…

 2オーバーの82位タイと出遅れ、「最悪です」の言葉を吐き捨てた全米オープン初日のラウンドからおよそ24時間。大草原の中に切り拓かれたエリンヒルズGC(ウィスコンシン州ミルウォーキー近郊)には、まるで別人の松山英樹がいた。


難しいパットもことごとく決めて一気にスコアを伸ばした松山英樹

 とにかくショットが真っ直ぐ飛んだ。同組のリッキー・ファウラー(28歳/アメリカ)はおろか、飛ばし屋の若手ジョン・ラーム(22歳/スペイン)をオーバードライブし続け、フェアウェーをキープし続けた。

 アプローチもピンに絡み、前半だけで6つのバーディーを重ねて、あっという間にリーダーボードに名を連ねた。

 初日に7アンダーをマークし、首位に立ったファウラーに対し、「あれだけ真っ直ぐ飛んで、パターが入れば、それぐらいのスコアは出る」と話していた松山だが、2日目はまさに松山がその状態だった。

「まあ、満足するところはないですけど、しばらく結果が出ていなかったので、今日はよかったと思います」

 メジャー大会のベストスコア「63」も視界に入った後半に入り、11番で約1mのバーディーパットがカップに嫌われると、12番では初めてティーショットがフェアウェーを外れた。セカンドカットからの2打目はグリーンの奥にこぼれ、3打目も寄せきれない。しかし、難しい傾斜を読み切ってパーセーブすると、13番で7つ目のバーディーを奪う(通算5アンダー)。

 予選ラウンド2日間を通じて、エリンヒルズには人気者のファウラーに対する「ヘイ、リッキー!」の声援が木霊(こだま)していたが、猛チャージによってそれが「ヒデッキー!」に聞こえてくるから不思議だ。いや、世界ランク4位で、知名度も高まっている松山に対する声援は、確実に増えていった。

 ノーボギーで回った松山は、この日のベストスコア「65」を叩き出し、トップと2打差の通算5アンダー、8位タイにまでジャンプアップ。まだ2日目を終えた段階だが、早々に2勝を挙げた今シーズン序盤の勢いを失い、2014年に優勝したザ・メモリアル・トーナメント(6月1日〜4日)でも45位タイに終わっていた松山が、久しぶりに優勝争いに加わる会心のプレーだった。

 ラウンド後は世界中のメディアをたらい回しにされ、最後に日本の報道陣の前にやってくると、開口一番、「最高です」と前日とは真逆の言葉を口にした。

 前日は宮里藍の父・優さんにパッティング時のグリップに関するアドバイスを受け、パッティングの名手である谷原秀人にも助言をもらった。

「習ってすぐによくなるなら苦労しないんですけど、いろんなアドバイスをいただいて、自分がどうなっているか知るのは大事だと思う。参考にはしますけど、すべてを受け入れるのではなくて、試行錯誤しながらうまく自分のゴルフに取り入れられたら」

 猛チャージを決めたあとでも、松山は松山だ。メジャーの舞台で優勝を争うことに「高揚感はないのか」と訊ねても、しばらく考えたあと、「特にはないです」とにべもない。

 しかし、その視界には、その胸中には、日本人初の快挙に向け、自分自身に期するものがあるはずだ。

 ラウンド後、陽の沈みかけた練習グリーンには、たったひとり、パターを手にし、ひたすら打ち続ける松山の姿があった。