花田秀虎インタビュー(前編) 北米4大スポーツリーグでいまだ日本人選手が誕生していないのは、アメリカンフットボールの「NFL」だけだ。その高くそびえ立つ壁に挑戦しようとしているのが、2020年に全日本相撲選手権を史上ふたり目となる大学1年生…

花田秀虎インタビュー(前編)

 北米4大スポーツリーグでいまだ日本人選手が誕生していないのは、アメリカンフットボールの「NFL」だけだ。その高くそびえ立つ壁に挑戦しようとしているのが、2020年に全日本相撲選手権を史上ふたり目となる大学1年生で制し「アマチュア横綱」に輝いた花田秀虎(はなだ・ひでとら/21歳)だ。

 将来の角界での活躍も期待されていた花田は昨夏、在籍する日本体育大学を休学。本格的にアメフトのトレーニングをスタートさせて、世界最高峰NFLの舞台を目指している。

 1月には国内「Xリーグ」を中心とした日本選抜チームの合宿に参加。22日に国立競技場で行なわれた米大学アイビーリーグ選抜との「Japan U.S. Dream Bowl(ドリームボウル)」では出場機会こそなかったものの、チームの一員として初めてアメフトの試合も体験した。

 花田はなぜ、NFLという難関に挑むのか──。単独インタビューを通して21歳の逸材がどんな人生を送り、どのような考え方を持つ人物かを紹介したい。

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アマチュア横綱に輝いた時の花田秀虎

── 2022年のXリーグ(国内最高峰リーグ)合同トライアウトに参加したことで、花田選手の存在は一躍脚光を浴びました。アメフトのトレーニングを本格的に始めたのはいつ頃だったのでしょうか。

「2022年7月後半から富士通(フロンティアーズ)と法政大学さん、あとは東京大学さんや早稲田大学さんなどで練習させていただいています。また、河口正史さん(最もNFLに近づいた元選手。現トレーニングジム経営/49歳)や栗原嵩さん(2012年〜2015年NFL挑戦。現otonari福岡SUNS所属/35歳)の下でもトレーニングを見ていただいています」

── 先日のドリームボウルの感想はいかがですか?

「僕にとって本当に初めてのアメフトの試合だったので、練習からアサインメント(各ポジションの選手に割り当てられた役割や動き)を全部覚え、実際にチームでやってみる機会を設けていただいただけでも、すごい経験をさせていただいたと思っています」

── 東京オリンピックのメイン会場にもなった「国立競技場」という特別な場所でした。

「これまで両国国技館に行っていたところから、国立競技場という特別な場所に立たせてもらい、まわりの人よりもすごい経験をさせてもらえていると実感しています。そこに立ったらどういう気持ちになるのかなと思っていたのですが、緊張はしなかったですね」

── 相撲の時も緊張はしなかったのですか?

「相撲ではめちゃくちゃ緊張しましたね。両国の雰囲気......両国に相撲を見に行くだけでも、ちょっと緊張するところがあったほどです。国立は初めての経験でしたし、めっちゃ新鮮な感じでいい経験になりました」

── 昨年3月のXリーグ合同トライアウト以降、多くのメディアから注目を浴びていますが、対応に疲れたりはしていないですか?

「ありがたいことに昔(相撲時代)から取り上げてもらっていたので、慣れたわけじゃないですけど、しゃべることに関してはそこまで抵抗もなく、むしろありがたいなって思っています」

── 生まれ育ちは和歌山県ですが、訛りのようなものは出ないですね。

「母親が関東出身で標準語なのもあって、そんなにがっつり関西弁は出ないですね。ただ、地元に帰って友だちとしゃべったら出ますけど」

── お父さんがレスリングで全国優勝をしている方で、お母さんが柔道で国体に出ているということですが、そういう両親の下に生まれた花田選手は「サラブレッド」と呼ばれることも多いかと思います。自分がアマチュア横綱になるなど選手として活躍できているのは、両親の「血」の影響もあると思いますか?

「僕が相撲で活躍できたのも、父と母の影響だとすごく感じます。血というか、格闘技がすごく近い存在で、相撲やレスリング、柔道といろんなスポーツをやってきました。今でも格闘技が好きです」

── 相撲はいつ始めたのですか?

「小学校2年生からです。柔道やレスリングもやっていたんですけど、地元のわんぱく相撲大会があって、父から『ちょっと出てみないか』と言われてエントリーをしました。小2の部門で優勝して、そこからほかのスポーツを並行しながら相撲もやるようになりました」

── 子どものころから体は大きかったのですか?

「いえ。身長はそれなりに高かったし、素質もそれなりにあったかもしれないですけど、体格はほかの子たちと変わらなかったです。体はその後、だいぶ頑張って大きくしました」

── いろんな競技をするなかで、相撲一本に絞ったのはいつですか?

「小学校6年のタイミングで、レスリング、柔道、相撲の3つの選択肢からどの競技に絞ろうかとなったんです。僕的には相撲が一番面白くて、自分が一番光るんじゃないかと考えて、相撲をやることに決めました」

── 相撲を離れてアメフトに挑戦することに関して、両親からは何か言われました?

「両親も本当に大賛成といった感じで、反対はまったくなかったです。むしろ、いろんなものを見て、経験して、勉強して、という感じでした」

── 第66代横綱・若乃花の花田虎上(まさる)さんも昔、アメフトに挑戦しています。名字が同じなので親戚ではないかと言われませんか?

「はい、よく言われますね」

── 花田虎上さんの場合は角界を引退してからアメフトに挑戦したので、花田選手とは状況が違いますよね。

「本当にすごいと思います。尊敬しますね。横綱になってから違う競技するのって、イチからというかゼロからなので。横綱という位(くらい)から別の競技に、フラットなところから始められた。そういうマインドはすごいなと思います」

── 花田選手も相撲で将来を嘱望された方です。将来的にまた相撲に戻ることは考えていますか?

「考えていないですね。僕の今の気持ちは、アメフトでやりきることです」

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 アメフトには攻守さまざまなポジションがあり、選手の体の大きさや身体能力等の適正によって、それぞれ役割が異なっている。

 現在、花田が担っているのは「ディフェンシブタックル」という、相手の攻撃に対峙する最前線に位置取るポジションだ。当たりの強さと敵の司令塔・クォーターバックへ突進する動きなどが求められる。

 昨シーズン、スーパーボウルを制覇したロサンゼルス・ラムズのディフェンシブタックルで、これまで3度リーグの最優秀守備選手賞(NFL史上最多タイ)を受賞しているアーロン・ドナルド(31歳)が彼の憧れだ。

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── アメフトという競技の存在を知ったのはいつだったのですか?

「相撲とレスリングと柔道をやっていたんですけど、格闘技はやっていなくても見るのが好きで、そのなかにアメフトという競技があった感じです。ハードで面白いなと思っていたのですが、当時は相撲が一番だったので、まだアメフトをやりたいとまでは考えていませんでした。

 アメフトを見始めたのは、中学か高校くらいの時。NFLにアーロン・ドナルドっていうエグい選手がいることを知り、ロサンゼルス・ラムズから入っていろんなチームを見るようになると、NFLがすごい人気のあるスポーツだということがわかっていきました。

 僕は日本の国技である相撲をやってきましたが、アメリカでの国技はアメフト。スポーツ最先端の国で一番の国技なので、フィジカルのすごい選手がいっぱいいるんだろうな、と思いながら見ていましたね」

── 総合格闘技で好きな選手はいますか?

「堀口恭司選手です。あの人もアメリカで、ひとりで武者修行してやっていますし。でも、日本人魂も忘れていないというところがいいですね。

 彼はずっとアメリカでやっていますが、アメリカナイズされたわけでもなく、素のままでいるところがかっこいいな、自分を貫いているなと感じます。バラエティ番組に出ている時やYouTubeなどもよく見ているのですが、彼の人間性が出ている感じもすごくいいなと思います。昔は五味隆典選手やミルコ・クロコップ選手などがけっこう好きで見ていました」

── 憧れのドナルド(身長185cm、体重130kg)と花田選手は、体のサイズがほとんど一緒というのも面白いですね。

「一緒なんですけど、体つきとか動きとかはまったく『天と地』の差なので。でも、そこを目標にしていたら、自分の実力もモチベーションも上がってきます。

 ただ、僕が一番目標にしている選手は、千代の富士関(第58代横綱/2016年死去)なんです。昔からずっと好きで、そんなに体は大きくないのに、大きい人を振り回して倒していく姿がかっこいいです。そういうところ、ドナルドともちょっと似ているんですよね。

 だから、僕ももっと体をバキバキに鍛えなきゃいけないですし、スピードやしなやかさも手に入れなきゃいけない。まだまだ伸びしろばかりですね」

「ベンチプレスは200kg」「モチベーションは大谷翔平超え」

【profile】
花田秀虎(はなだ・ひでとら)
2001年10月30日生まれ、和歌山県和歌山市出身。小学2年時から相撲を始める。和歌山商高では1年時に全国高校選抜大会・個人戦で優勝。2年・3年時には世界ジュニア選手権の無差別級で2連覇を果たす。日体大に進学後の2020年、全日本相撲選手権で優勝して「アマチュア横綱」となる。大学1年での優勝は1984年の久嶋啓太(元・久島海)以来36年ぶりふたり目。現在、日体大を休学してアメフトNFL選手を目指している。185cm、130kg。