【左打者偏重のホークス打線】 このオフに史上最大規模の大型補強を行なったソフトバンク。なかでも、日本ハムからFA権を行使…
【左打者偏重のホークス打線】
このオフに史上最大規模の大型補強を行なったソフトバンク。なかでも、日本ハムからFA権を行使した近藤健介を「7年総額50億円」とも推定される破格の条件で獲得したのが一番の目玉と言えるだろう。
近藤は、昨季までのプロ11年間で打率.307、出塁率.413を誇る球界屈指の好打者。彼自身の活躍もさることながら、前後の打者を生かせるメリットも期待でき、今季のソフトバンクはかなりの得点力アップが見込めそうだ。
では、どの選手が、どの打順を打つのか。
まず近藤について、藤本博史監督は「3番・レフト」での構想を明かしている。そして、4番の最有力候補は柳田悠岐でほぼ間違いない。また本来チームの中軸として期待されながらも、昨季序盤に左膝に大ケガを負い、ほぼシーズンを棒に振っていた栗原陵矢が、今季はサードにコンバートされて戦列に復帰する。よほどのことがなければ、中軸はこの3人が務める可能性が高い。
続いて上位だが、俊足が持ち味の三森大貴や周東佑京が名を連ねるのか。さらに昨季は"キングジョーカー"の異名で活躍した牧原大成はどの打順でも適応できるため、藤本監督にとっては引き続き頼りになる存在だ。
もちろんポジションも含め、何通りものシミュレーションを考えてみるが、ここで1つの問題が浮上する。
ここまで名前を挙げた選手が、全員左打ちだということだ。右打者でスタメンに近い選手として考えられるのは、昨季パ・リーグ4位の好打率を残した遊撃手の今宮健太と、捕手の甲斐拓也あたりである。
スタメン9人のうち右打者2人というのは、少々バランスが悪い。誰かイキのいい右打ちの野手はいないのか......。
【セールスポイントは長打力】
そもそも、昨年のソフトバンクは「世代交代」を銘打って戦ったシーズンだった。チームの黄金期を支えてきた内川聖一や松田宣浩といった右の中心打者に代わる戦力の台頭が至上命題で、その成果は徐々にではあるが、着実に見え始めている。

プロ2年目を迎えるソフトバンクの正木智也
そのなかでとくに注目したい若鷹が、2年目の正木智也だ。東京都大田区出身の23歳で、慶應義塾高、慶應義塾大出身のエリートボーイ。高校通算50本塁打を放ち、東京六大学リーグでも13本塁打をマークした長打力を武器に、2021年ドラフト2位でソフトバンク入りした。
ルーキーイヤーだった昨年は、35試合の出場で打率.254、3本塁打、5打点とプロの壁にぶち当たった感はある。また、同じ右打者のルーキーだった野村勇(26歳/ドラフト4位)が球団新人記録に83年ぶりに並ぶ10本塁打を放ったことを考えれば、水をあけられたと言わざるを得ない。
しかしシーズン終了後の秋季キャンプで、正木は見違えるような打撃を見せていた。
一見すれば力感のないスイングに映る。ただ、バットから弾かれた打球はホームランアーチスト特有の放物線を描き、まるでピンポン玉のように勢いよく飛んでいく。しかも何発もスタンドに放り込み、飛距離も以前より格段に伸びた。
以前の打撃を知っているからこそ、まったくスタイルが異なるのが一目でわかる。正木本人に理由を尋ねると、少し照れ笑いを浮かべながらうれしそうに話し始めた。
「ひとつ変えただけですが、それがハマりだしたのだと思います。些細なことですが、ポイントはバットのヘッドを意識したことです」
それまでは思いきり強く振ることで打球を遠くに飛ばしていた。アマチュア時代はそれでよかったのかもしれない。しかし、それではプロのスピードや変化球のキレなどに対応できなかった。
昨シーズン途中も、始動の部分で無駄な力みを省いて振り負けないようにするため、あらかじめ手を動かしながらタイミングをとるなど工夫を凝らしていたが、もうワンランク打撃を向上させるには新たなチャレンジの必要があった。
昨年10月の「みやざきフェニックスリーグ」で、二軍打撃部門を担当していた吉本亮コーチ(今季から一軍打撃コーチ)がヒントをくれた。
「自分の力で振り回すんじゃなく、バットのヘッドの重みを利用したらどうだ」
それを秋季キャンプでも継続。11月に一度だけ巨人との練習試合が組まれ、正木は4番スタメンで出場。初回の第1打席で先制の犠牲フライを放つと、3回の第2打席では左中間へ会心のソロ本塁打を放り込んだ。試合でも通用する──それはたしかな自信となった。
【2ケタ本塁打以上は絶対】
プロ2年目に向けて覚醒の予感を漂わせるが、そのためにはまずチーム内の競争に勝たなければならない。正木の本職は外野手だ。しかし冒頭で記したように、近藤の加入で外野は超激戦区となった。レフトの近藤とライトの柳田がほぼ確定となると、残るセンターのポジションを牧原大、周東、あるいは上林誠知らと競うことになる。
当然ながら、外野でのレギュラー獲りは容易ではない。となれば、もうひとつ可能性があるのはファーストだ。大学時代に経験があり、昨年も一度スタメンで守っている。
ただ、昨年までソフトバンクの正一塁手はベテランの中村晃だ。最多安打のタイトル経験があり、守備では昨季まで2年連続ゴールデングラブ賞に輝いている実力者である。ただ近年は膝のコンディション不良の影響もあり、本来の打撃力を発揮できずにいる。中村自身も「このオフに2年契約をいただいたけど、今年ダメなら終わりと思っている」と、悲壮な覚悟を口にするほどだ。
また中村の場合、近藤と同タイプの打者だ。打線のバランスを考えれば、右のスラッガーとして正木が起用される可能性は十分に考えられる。
チーム内競争はとにかく厳しい。それでも正木は「今年は全試合レギュラー。2ケタ本塁打以上は絶対」と強い決意を口にし、プロ2年目のブレイクに挑む。