1月29日に東京競馬場で行われる根岸S(4歳上・GIII・ダ1400m)。1987年に創設され、JRAのダート重賞としては3番目に長い歴史を誇るレースである。この根岸S史上最も印象的なレースとして語り継がれるのが、ブロードアピールが制し…

 1月29日に東京競馬場で行われる根岸S(4歳上・GIII・ダ1400m)。1987年に創設され、JRAのダート重賞としては3番目に長い歴史を誇るレースである。この根岸S史上最も印象的なレースとして語り継がれるのが、ブロードアピールが制した2000年のレースだ。

 ブロードアピールは父Broad Brush、母Valid Allure、母の父Valid Appealという血統の米国産馬。ディープインパクトの馬主として知られる金子真人オーナーの持ち馬である。

 1998年札幌芝1200mで行われた4歳以上500万下でデビュー。2戦目のダート1000m戦で初勝利を挙げた。その後は芝短距離路線を中心に5勝し、2000年2月のシルクロードS(GIII)では後方一気の差し切り勝ちで遂に重賞初制覇を飾った。

 その後、同年5月の栗東S(OP)で2度目のダートに出走。牡馬より重いトップハンデの57キロを背負う厳しい条件でも、上がり3F34秒1の末脚を繰り出し勝ち星を挙げた。しかし本格的なダート転向には至らず、この後芝レースに4戦出走し、スプリンターズSで4着になるなどの活躍を見せた。

 そして迎えた2000年11月の根岸Sでダート重賞に初挑戦。これまでの実績やダート2戦2勝の成績が評価され、2.8倍で単勝1番人気の支持を受けた。レースは大外枠からハナを主張してきたベラミロードに対し、内から先手を譲らないエイシンサンルイス、さらに地方・名古屋のゴールデンチェリーが絡み、1000mのタイムは57秒9という、当時の東京ダート1200mでは滅多にお目にかかることができない殺人的なハイペース。

 一方のブロードアピールのポジションは最後方。前で3頭が激しく競り合い、先行馬もやり合う3頭を追いかける格好で、おあつらえ向きの展開になったが、直線だけで逆転するには無謀な位置取りにも映った。

 その位置から本当に届くのか―――。多くのファンが注目するなか、あたかも芝でのレースであるかのように、大外から1頭だけ次元の違う末脚を繰り出し、1完歩ごとにぐんぐん差を詰めるブロードアピール。気付けば2着のエイシンサンルイスに1.1/4馬身差をつけて勝利を掴んだ。

 逃げたエイシンサンルイスの上がり3Fが36秒2だったのに対し、ブロードアピールは34秒3。レースの上がり(36秒0)を2秒近く上回っていたうえ、次点の上がり3Fも同じく最後方から追い上げたトーヨーデヘアが記録した35秒5。この2位の上がりタイムよりも1秒以上上回っていたことからも、いかにこの時マークした上がりが驚異的なものだったか、容易に想像できるだろう。

 これを機に、1戦を除いてダート路線に転向すると中央・地方交流重賞を次々と勝利。明け8歳となった2002年でもガーネットS(GIII)を制し、重賞6勝目を挙げた。同年にノーザンファームで繁殖入りし、4番仔のミスアンコールが18年の日本ダービー馬ワグネリアンの母に。 ブロードアピール以降、根岸Sを制した牝馬はおらず、いまでも人々を驚愕させたレースとして “伝説の鬼脚”は語り継がれている。